[2023_05_25_02]仙台地裁判決要旨(東奥日報2023年5月25日)
 
参照元
仙台地裁判決要旨

 東北電力女川原発の運転差し止めを認めなかった24日の仙台地裁判決の要旨は次の通り。

 【主文】
 原告側の請求を棄却する。

 【事案の概要】
 今回の訴訟は宮城県石巻市に住む原告らが女川原発2号機を設置する東北電力に対し、県と市が作成した避難計画に実効性がなく、放射性物質が異常に放出される事故が起きた場合に人格権が侵害される具体的な危険があるとして運転の差し止めを求めた。

 【避難計画の実効性と差し止め請求の可否】
 人格権に基づく差し止め請求では、原告側が人格権害の具体的な危険の存在を主張、立証すべき責任を負い、この点は原発の運転差し止め請求でも変わらない。
 原告側が主張する人格権侵害の危険は、実効性を欠く避難計画の下で困難な避難を強いられ、事故による放射線に被ばくする危険があるとの内容で、放射性物質が異常に放出される事故が発生することが前提となっている。しかし、人格権に基づく差し止めの請求を認めるかどうかを判断するに当たり、2号機の運転再開によって当然に放射性物質が異常に放出される事故が起きる具体的危険があることを前提とすることはできない。
 原告側はこうした事故発生の危険について具体的な主張、立証をしておらず、今回の訴訟で運転再開による事故の具体的な危険があると認めるに足りる証拠はないと言わざるを得ない。運転再開で直ちにこうした事故の具体的危険があるとの原告側の主張は前提を欠いており、仮に避難計画が実効性を欠くものだったとしても、人格権侵害の具体的な危険があると認めることはできない。

 【運転再開による事故の危険の主張、立証】
 2号機の運転中、想定を超えた自然災害の発生などで放射性物質が異常に放出されるような事故の危険を完全に否定できないのは確かだ。2号機から約16〜25キロの範囲に住む原告がこうした危険を危惧し、事故時の避難計画の実効性を問題視することは理解できないわけではない。深刻な事故が起きれば周辺住民の生命、身体が深刻な被害を受ける可能性があることも確かだ。
 しかし、こうした事故発生の危険は抽象的なものと言わざるを得ない。今回の訴訟で危険性についての具体的な主張、立証がされていない以上、避難計画の実効性の有無にかかわらず、抽象的な危険をもって人格権に基づく運転の差し止めを認めることはできない。

 【結論】
 2号機の運転差し止めに当たっては、放射性物質が異常に放出されるような事故が発生する具体的な危険の存在が必要だが、そのような主張、立証がなく、認めるに足りる証拠がない以上、避難計画が実効性を欠くことをもって直ちに2号機の運転の差し止めを求めることはできない。避難計画の実効性に関する個別の争点を判断するまでもなく、原告らの請求はいずれも理由がない。
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