[2022_12_10_04]〈社説〉原発回帰の指針 大転換に見合う議論なく(信濃毎日新聞2022年12月10日)
 
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〈社説〉原発回帰の指針 大転換に見合う議論なく

 経済産業省の下で原発政策を検討している委員会が、原発活用に向けた政府の行動指針を了承した。
 岸田文雄政権は、この指針を関連法の改正案として具体化し、年明け以降に国会に提出する構えだ。
 廃炉が決まった原発の次世代型への建て替えや、老朽化が進んだ原発の運転延長などを盛り込んでいる。福島第1原発事故以降の政策からの大転換となる。
 岸田首相が原発推進を表明したのは8月。その後、国民的議論もなく急な検討が進んだ。
 出てきたのが、事故の教訓を置き去りにする今回の指針だ。到底容認できない。もっと幅広い視点での議論が要る。検討の枠組みから変えていかねばならない。
 指針を了承したのは、総合資源エネルギー調査会の中にある原子力小委員会。原発を推し進めてきた経産省が取り仕切っている時点で、バランスを欠いている。
 メンバーは原子力の研究者や企業関係者が多く、大半が推進論に立つ。議論の中心にいたのは、いわゆる「原子力ムラ」の住人たちだった。指針に反対したのは約20人のうち2人だけだ。
 自公政権は、正面からの原発論議を避け続けてきた。岸田政権は計2回の国政選挙を戦いながら主要テーマとはせず、選挙が終わってから一気に進めた。
 脱炭素化や、ウクライナ戦争を背景に高まる国民のエネルギー不安に乗じ、原発の利点ばかり強調している。だがそもそも、将来の原発建設は足元の電力供給や料金高騰の対策にはなり得ない。
 次世代型に挙げられた5種類の原発も、実現が見通せないものが多い。その一つ「高速炉」は、1兆円以上を投じながらトラブル続きの末に廃炉が決まった「もんじゅ」で、失敗済みだ。
 福島事故を受け安全対策費が増えたこともあり、原発のコストは膨らんでいる。建設には5千億円から1兆円は必要とされる。
 巨額の投資に見合う採算性が見通せず、電力会社に具体的な動きはない。建設すれば経営の自由度は大きく損なわれる。企業として将来を冷静に見つめれば、二の足を踏むのは当然だろう。
 指針は、負担の大きさを踏まえ建設などに国の支援を検討するとした。税金の投入によって経営判断がゆがめられていく。
 原発が生み出す核廃棄物の処分先も依然、見通しがつかない。
 根拠のない展望を振りまくのではなく、原発が抱える問題の一つ一つと真剣に向き合うべきだ。
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