[2022_10_19_01]岸田政権「原発新増設」への大疑問 核ごみは2〜30倍になる可能性も〈週刊朝日〉(アエラ2022年10月19日)
 
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岸田政権「原発新増設」への大疑問 核ごみは2〜30倍になる可能性も〈週刊朝日〉

 支持率低迷が続く岸田文雄政権。看板政策であるはずの「新しい資本主義」の中身が一向に見えてこないと思ったら、突如打ち出されたのは「新しい原発」政策だった。いくらなんでも、ひどすぎないですか?

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 岸田文雄政権は唐突に「原発回帰」へと舵を切った。10月3日に開会した臨時国会での所信表明演説で、岸田首相は次のように語った。
 「エネルギー危機を踏まえ、原子力発電の問題に正面から取り組む。十数基の原発の再稼働などについて、専門家による議論の加速を指示した」
 岸田氏の突然の方針転換によって、原発の寿命の目安である「40年ルール」が破られようとしている。東京電力福島第一原発の事故を教訓に、2012年に原子炉等規制法が改正された。原発の運転期間は原則40年、電力会社の延長申請を原子力規制委員会が認めれば、1回に限り20年延長できる(最長60年)とのルールが定められた。
 首相の指示を受けて、経済産業省は60年を超えても原発が稼働できるように規制の見直しに着手した。最長で80年の運転を認める米国など海外の事例を参考にしていくというのだ。
 環境エネルギー政策研究所の飯田哲也所長が厳しく批判する。
 「経産省は原発事故時に、なす術がなかった自らの無力さを忘れています。22年7月までに、世界で廃炉になった原発は204基で、その平均寿命は27年なのです。こうしたデータがあるにもかかわらず、米国を真似て80年にしようなんて無謀で無責任すぎる」
 岸田首相が運転期間の延長とともに、原発の新増設の検討を進めることを表明したのは、8月24日。脱炭素の実現について議論するGX(グリーン・トランスフォーメーション)実行会議の席上だ。再稼働を進める一方、新たな「次世代革新炉」の開発・建設などに言及した。飯田氏が呆れ顔で語る。
 「新増設や革新炉は、現実性も経済性もない。ウクライナ危機や円安の影響などで電気料金高騰や電力不足が起きると危機感をあおっている。火事場泥棒的なやり口です。ドサクサで原発政策をすべて盛り込んだ安い定食屋の全部盛りのようです」
 昨年10月に閣議決定した第6次エネルギー基本計画では「可能な限り原発依存度を低減する」と明記していたが、なし崩し的に方針転換を図ろうとしているわけだ。
 岸田氏が目玉としたいのは「次世代革新炉」の開発・建設だろう。経産省の原子力小委員会の下に置かれた革新炉ワーキンググループ(WG)では学者のほか、日本原子力研究開発機構、経団連、みずほ銀行の職員らが委員として参加している。
 革新炉の候補になっているのは、革新軽水炉、小型軽水炉(SMR)、高温ガス炉、高速炉、核融合炉の5種類だ。有力なのは、最も早い30年代に商業運転を始められるという革新軽水炉だ。WG唯一の脱原発派の委員、NPО法人「原子力資料情報室」の松久保肇事務局長が解説する。
 「大型の軽水炉が120万kWに対し、SMRは数万〜30万kW(キロワット)程度です。最近出た米国の論文によれば、原子炉の種類によって出力当たりの核のゴミが一般的な原発より2〜30倍も増える可能性があると指摘しています。高温ガス炉は特殊な核燃料を使いますが、大量に生産できる工場は存在しません。また、使用済み核燃料の取り扱いも問題になります」

 ■国民に信問わず突然の政策変更

 高速炉は使用済み核燃料を使って高効率に発電するという触れ込みだが、日本では高速増殖炉「もんじゅ」が冷却材のナトリウム漏洩事故など相次ぐトラブルで廃炉に追い込まれている。核融合炉は太陽と似た核融合反応を起こし、エネルギー源として利用する。技術的な課題が多く、まだ実験炉もできていない段階だ。では、現時点で最も評価が高いとされる革新軽水炉の特徴は何か。
 「次世代と言いながら、実は現行世代と同じ原子炉(加圧水型炉)が使われるのです」
 驚くべきことに、松久保氏はそう指摘する。
 「私は原子力小委員会で『革新軽水炉の革新性とは一体何ですか』と、事務局の担当者に尋ねました。すると、プルームホールド・タンクといって、事故の時に放射性希ガスが放出しないようためておくタンクを付ける、と答えたのです。そうした機能をいくつか付ければ“革新”だというわけです。先進的な技術で安全性が確立された原子炉のように、国民が誤解してしまう恐れがあります」
 炉心溶融が起きた場合に、溶け落ちた核燃料を受け止める「コアキャッチャー」という設備も付けているが、これも日本にはなかっただけで海外では実用化済みだ。
 パッケージを変えただけの革新軽水炉だが、有力な建設候補地は「関西電力の美浜原発(福井県)4号機」だと松久保氏は見る。日本海側だから北朝鮮のミサイル攻撃の標的になりかねないが、それは見て見ぬふりか。
 第6次エネルギー基本計画では、「議論を深めていくための参考値」としながらも、2050年時点での総発電量における電源比率は再生可能エネルギーが50〜60%、水素・燃料アンモニア発電が10%、原発はCCUS(二酸化炭素回収・利用・貯蔵)付き火力発電と合わせて30〜40%と示されている。
 「そのうち原発の比率は20〜30%になると考えられ、100万kW級の原発が最大75基必要な計算になる。革新軽水炉が1基建つのが30年代半ばというのに、そんな新設・増設などあり得ない話なんです」(松久保氏)
 岸田氏は自著『岸田ビジョン 分断から協調へ』(20年刊)で「再生可能エネルギーを主力電源化し、原発への依存度は下げていくべきだ」と記しているが、変節した理由すら説明しようとしない。政治ジャーナリストの角谷浩一氏が言う。
 「本に書いたことなど覚えていないのでしょう。これほどの政策変更をするなら、少なくとも直前の参院選で国民に信を問うべきでした。元経産事務次官の嶋田隆・首相秘書官の振り付けもあるでしょうが、今やるべきことなのか。岸田氏が何を目指しているのか、全く見えてきません」

 ビジョンなき宰相は、去るべきではないか。(本誌・亀井洋志)

 ※週刊朝日  2022年10月28日号
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