[2022_01_30_02]原研とテラパワーが高速炉で覚書 いまさら高速炉で何をするのだろう 見果てぬ夢を見るよりも地に足の着いた事業をすべき 山崎久隆(たんぽぽ舎共同代表)(たんぽぽ2022年1月30日)
 
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原研とテラパワーが高速炉で覚書 いまさら高速炉で何をするのだろう 見果てぬ夢を見るよりも地に足の着いた事業をすべき 山崎久隆(たんぽぽ舎共同代表)

 昨年から報道が続く高速炉の新たな動き 発端は米国テラパワー社。
 この会社が2028年の完成を目指して、米国内で高速炉を運転するという。
 テラパワー社とは、米国のベンチャー企業で、マイクロソフト創業者ビルゲイツ氏が設立した。現在同社会長。
 10年ほど前から進められているプロジェクトで、テラパワー社は様々なtypeの原子炉を検討した結果、ナトリウム冷却高速炉が最も有望との結論を得て、米原子力規制委員会の先進炉実証計画 (ARDP)として開発予算が付けられている。

 ○何故今さら高速炉なのか

 現在高速炉とりわけナトリウム冷却高速炉を開発している国はロシアと中国(注1)くらいであり、「西側諸国」では最後まで計画を有していたフランスが撤退(注2)している。
 米国から見ると、自国で高速炉の開発が今後進められなければ、軍事転用可能な高速炉の開発が米国の制御下におかれなくなるので、中ロを牽制したいことから日本で開発していた高速炉チームに声を掛けたのだと思われる。
 実際に高速炉が開発できるかどうかは問題ではないのだろう。
 注1 例えば、中国で高速炉開発を進めている原子能科学研究院(CIAE)は2015年12月19日、北京南部に建設した高速実験炉(CEFR)が、安定的な発電に初めて成功(フル・パワーで72時間)と発表。
 ロシアは「実証炉」BN800(2016年運転開始した電気出力88万kW)。
 注2 日仏第4世代ナトリウム冷却高速炉「ASTRID」の終了2019年に11月、経済産業省は2020年度の概算要求で関連予算を盛り込まれずに打ち切られた。日本は類型200億円を超える研究開発費を支出してきたものの、仏側が計画の中止を18年11月に日本側に通知していた。当時「日仏の共同開発は日本の核燃料サイクル政策の柱なだけに影響は避けられないだろう」との報道あり。

 ○日本の思惑

 脱炭素政策として原発の開発という面もあるが、それよりも大きいのは、核兵器転用可能なプルトニウムを大量に抽出する核燃料サイクル政策を維持する正当性が、高速増殖炉開発の失敗で失われているいま、それに変わりうる計画を維持していることを内外に示す必要性が生じている。
 高速炉「もんじゅ」の廃炉以後も、その原型炉である茨城県大洗町の「常陽」の再稼働を進めようとしているのも、形ばかりであろうと高速炉計画がまだ進行しているとする「実績」を示す必要があるからだ。
 また、核兵器開発への技術的な蓄積をはかることも高速炉を維持する目的であろうから、米国の計画に渡りに船と乗ったと思われる。
 46トンのプルトニウムをプルサーマルだけで消費するとしたら、再処理工場とMOX燃料工場は完成したとしても10年以上は稼働できない。
 NHKは「先が見えなくなっていたところにアメリカからお声がかかり、日本にとってはまさに渡りに船だった。」と報じていた。

 ○世界の高速炉計画が持つ意味

 テラパワー社が目指すシステムは、34万kWほどの高速中性子炉を中核として、溶融塩を使ったエネルギー貯蔵システムを組み合わせ、最大50万kWの出力を発生させるものとされる。
 この費用がどのくらいかかるかはわからないが、30〜50万kWとは、美浜原発1号機や福島第一原発1号機といった、初期の原発の出力程度である。
 現在は130〜160万kWが主力だから、その三分の一の価格であっても競争力はないだろう。
 一方、原発のコストは年々高騰を続けており、建設費用だけでも一基あたり約一兆円だ。安全設備の費用がかさんでいるとされる。
 これに加え、プルトニウムを中心にした燃料を使うと思われる高速炉では、燃料の生産費用がウラン燃料の何十倍にもなってしまう。
 その理由は、ウランに比して遥かに放射線量率が高く、被ばく管理と遮蔽に費用がかかる上、核兵器転用防止のために高度なセキュリティシステムが必要になることが大きい。
 一つ一つの処理は小さく小分けにしなければ、臨界管理上も危険である。
 JCO臨界被曝事故を起こしたウランは18.8%のウラン235を含む低濃縮ウランだったが、プルトニウムの臨界量は遥かに小さいため、同程度のプルトニウム239を含む燃料製造をする場合、一度に扱える単位はグラム単位となるだろう。
 プルトニウムを扱う原子炉の臨界管理も極めて厳しいので、エンジニアリング的にも開発は困難を極める。
 高速炉開発を続けるロシアでも、BN−800の燃料を初めてフルMOXとしたのは今年になってからだ。臨界管理上の問題があったと思われる。
 このような原発を何千と建設しなければ、有効な対策にはならない。現在の原発400基あまりを置き換えるだけでも1200から1800基ほど必要になるだろう。
 それだけ作ったとしても、世界の電力需要の8%程度をまかなえるに過ぎないのである。
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