[2022_01_28_01]〈社説〉米高速炉協力 延命策にすがるだけでは(信濃毎日新聞2022年1月28日)
 
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〈社説〉米高速炉協力 延命策にすがるだけでは

 米企業の「高速炉」開発に、日本の原子力研究機関と企業が協力すると決まった。
 燃焼の効率を高めるため、より速く動く中性子を燃料のウランに当てる、一般とは異なるタイプの原子炉である。
 政府や関連企業の間で、米企業への協力は日本の原子力産業の人材育成や技術の蓄積に役立つとの期待が高まっている。
 だが高速炉開発は既に、長く研究を続けてきた日本やフランスなどで、深刻な行き詰まりを見せている。新興の米企業による計画が順調に進むとは考えにくい。
 日本の技術に資するとの見立ても、安易と言わざるを得ない。米企業にすれば、これまでに巨額の資金を投じ失敗も重ねてきた日本のデータや知見が欲しいのは、当然だろう。提供でどんな見返りがあるのかも定かでない。
 技術協力はつまるところ、日本の原子力産業が将来性のない高速炉事業を延々と続ける口実になるだけではないか。協力に意義は見いだせない。見直すべきだ。
 米企業は、マイクロソフトの創業者ビル・ゲイツ氏らが設立したベンチャー企業「テラパワー」。米西部ワイオミング州で、高速炉による出力34万5千キロワットの原発を建設する計画を立てている。
 ゲイツ氏らが原発に力を入れるのは、地球温暖化対策の観点からだ。原発は石炭火力などと違い、直接には二酸化炭素(CO2)を排出しない。脱炭素を機に進む原発復権の動きの一つである。
 高速炉の開発と普及は10年単位の期間を要するとみられる。対応が急がれる温暖化対策に、十分に貢献できるだろうか。
 国の資金や人材は限られている。再生可能エネルギーの普及などに充てるべきではないか。
 日本の高速炉開発は、原型炉の「もんじゅ」で深刻な事故や不祥事が相次ぎ、1兆円以上の巨費を投入した末に2016年に廃炉が決まった経緯がある。
 一般原発は原子炉を冷やすのに水を使うが、高速炉は空気に触れると激しく反応するナトリウムを使う。このため危険性が高い。
 高速炉は日本で、原発の使用済み核燃料を再処理して核兵器の原料にもなるプルトニウムを取り出し、再び燃料として使う「核燃料サイクル」という構想の中心施設に位置付けられてきた。
 構想は既に、危険性やコストの高さなどから破綻が明らかになっている。政府や関連企業は延命策にすがるのではなく、その現実を直視しなければならない。
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