[2021_08_07_01]関西電力美浜3号機再稼働に抗議 (中)(3回の連載) 誰も責任を取れない「原発破局事故」 老朽原発の運転は過酷事故リスクをさらに高める 山崎久隆(たんぽぽ舎共同代表)(たんぽぽ舎2021年8月7日)
 
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関西電力美浜3号機再稼働に抗議 (中)(3回の連載) 誰も責任を取れない「原発破局事故」 老朽原発の運転は過酷事故リスクをさらに高める 山崎久隆(たんぽぽ舎共同代表)

3.国際基準にも達しない規制基準「第4層」

 ことあるごとに「世界で最も厳しいレベルの規制基準」と政府は主張し続ける。
 しかし「世界で最も厳しい」には何の根拠も示されない。
 特に、少なくても30km圏内の住民避難の計画、さらにもっと遠くに拡散する放射性物質に対する防護対策は無いに等しい。
 IAEA・国際原子力機関の基本安全原則には、過酷事故発生後の事故影響緩和策として「第4層」「第5層」というレベルが規定されているが、そのうちの第4層については、格納容器防護を基本とした過酷事故対策が規定されている。
 この対策でも福島第一原発事故を分析し教訓化できていないため、ちぐはぐなうえ危険な内容を含んでいる。
 例えば、圧力容器減圧操作を基本とした「フィードアンドブリード」(注水減圧法)は、むしろ炉心溶融を加速させかねず、十分に吟味した対策にはなっていない。
 この対策が可能となるためには、運転時から過酷事故時に至る全ての圧力環境下において、十分な一次冷却材の注入能力を確保しておかねばならない。もちろん全電源喪失条件下においてである。
 しかしそのような抜本的対策は時間もコストも掛かり過ぎるため検討もされずに放棄されており、既存の注入設備に加えて、特定重大事故対処等施設により格納容器への注水が加えられただけである。
 これは圧力容器の外側から冷やすので、直接炉心を冷却するわけではない。炉心が溶融していればあまり効果は期待できない。
 さらに、全電源喪失時の原子炉運転圧力では、炉心に注水できないので、この状態で「フィードアンドブリード」を強行すると極めて危険な事態になる。
 「フィードアンドブリード」とは、本来は注水してから減圧するという意味だが、実際には「減圧してから注水する」になってしまう。
 これでは、圧力に負けて注水出来ないなどで失敗した場合、圧力容器はあっという間に空だきになるのに炉心に水は入らず損傷する。そのまま時間が経過すればメルトダウンを引き起こす。実際に福島第一原発事故で起きたことである。
 また、格納容器の安全確保で、もう一つの懸念は水素爆発だ。
 この対策としては格納容器内を窒素封入すべきだが、美浜原発3号機を含む加圧水型軽水炉は全て行っていない。
 燃料破損や水の放射分解で発生する水素対策としてイグナイタ(点火装置の意味)で燃焼処理するが、格納容器や配管損傷により一気に大量発生するような場合は特に、燃焼処理ではなく起爆装置になりかねない。
 福島第一原発及び米国スリーマイル島原発事故の教訓からも、水素が大量に発生する場合の対策は、外部に逃がす装置を取り付けると共に、酸化剤つまり酸素を取り除く方法が唯一確実な方法だ。
 さらに原子炉を含む一次冷却材系統全体を防護するには、パラメータの監視は欠かせない。ところが福島第一原発事故では電源を全て失ったため、温度も圧力も水位も分からなくなった。
 これでは何をすれば良いか、また、実施したことに効果があったのか、方針の変更をすべきタイミングなのか、一切判断できない。
 格納容器ベントを強行した福島第一原発事故では、吉田所長は最後まで「ベントが成功したかどうか分からなくなった。」と語っていた。これはベントを行えば確実に上昇する排気筒の放射線モニターも機能していなかったため、ベント操作の結果確認すら出来なかったことを意味する。
 美浜原発3号機では、可搬システムも含めればパラメータの計測は可能とされている。全てパラメータを監視して作業を継続することになっているのだが、こんな予定調和的な事故は起こらない。老朽化したケーブルで信号を送っているところも随所にあり、さらに全ての電源を失ってパラメータ監視が出来ない状態も生じ得る。パラメータを監視せずとも原子炉を冷却し続けることができる設備でなければ、教訓を生かしたことにはならない。                     (下)に続く

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