[2021_06_21_02]中国国家原子力安全局コメントに対する私の見解 「中国・台山原発1号機の燃料破損事故」 「…多くの原子力発電所が燃料棒に損傷を受け 運転を続けています。」ということはない 燃料損傷が明らかな状態が検出されれば運転を止める 損傷したまま運転を続けることは常識ではない 山崎久隆(たんぽぽ舎共同代表)(たんぽぽ舎2021年6月21日)
 
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中国国家原子力安全局コメントに対する私の見解 「中国・台山原発1号機の燃料破損事故」 「…多くの原子力発電所が燃料棒に損傷を受け 運転を続けています。」ということはない 燃料損傷が明らかな状態が検出されれば運転を止める 損傷したまま運転を続けることは常識ではない 山崎久隆(たんぽぽ舎共同代表)

 この文章は6/18発信「【TMM:No4225】」に掲載した「中国の原発・台山1号機で燃料破損事故・原子力安全局が燃料破損を確認・中国国家原子力安全局がコメントを公表」へのコメントです。

◎ 5本の燃料が損傷した?

 中国国家原子力安全局が「燃料破損が起きていた」事実を明らかにしたことで、今回の事故の一端が明らかになった。しかも「5本」の燃料棒が損傷したという。
 どうやって運転中の原発の燃料棒が5本損傷したことを知ることが出来たのだろうか。炉を止めて燃料集合体を一つ一つチェックしなければ分からないことだと思うが、何故かここだけ具体的な数値データを上げていることは、極めて不自然だ。
 燃料棒が破損することは日本でも過去にあったが、同時に5本というのは記憶にない。
 ただし、最初の燃料破損事故と思われる美浜原発1号機の燃料損傷事故は、破損どころか2本折れてしまったのだが、それを4年隠して国会で追及されて初めて認めるといった事件になったものもあった。
 (田原総一朗著「原子力戦争」より)

 燃料棒の損傷は、いくつかの原因がある。
 製造上の欠陥、つまり肉厚が薄い、ピンホールがあった、溶接の欠陥、機械的損傷などがある。しかしこれらの原因は1本ならば説明はつくが、同時に5本というのは説明しづらい。
 考えやすい原因というのは、燃料集合体に組み上げた後に、機械的損傷を受けたのではないかということ。たとえば何処かにぶつけるとか。
 そうした問題が起きていたのであれば、そのような燃料集合体を装荷した責任が問われるであろう。

◎ 運転を継続することは問題

 さらに問題点として大きいのは、このような状態で運転を継続していることだ。
 EPRは加圧水型軽水炉だから、一次系と二次系は物理的に分離されている。
 一次系は蒸気発生器の細管を通じて二次系に熱を伝えるから、そのままタービンに流れる沸騰水型軽水炉と違い、放射性物質が直接タービン建屋に流れることはない。
 そこで、二次系は沸騰水型軽水炉に比べて防護は緩い。一次系で留まっているから運転を継続しても良いと判断しているのかこれが理由だと思われる。
 しかしこれは大変な間違いだ。
 燃料棒は運転中ならば常に核加熱されている。損傷燃料も核加熱され続けるとしたら、破損が拡大し、そのうち浸水燃料となり、内部で水蒸気が発生して破断する危険性が高まる。
 それが5本もの燃料で起きた場合、最悪のケースではメルトダウンにもなりかねない。
 一部の燃料棒が破断しただけで、冷却材流路を塞いだり、制御棒の挿入に支障を来したり、危険な状態になりかねないのだから、そのような状況を考慮し、直ちに運転を止めるべきである。

◎ 放射性物質を放出・検出したのかしないのか

 中国の発表では、環境中に放射性物質を放出したのかどうかはっきりしない。
 基準以下ならば放射性物質を放出しても、それはいつものことだから放出とは言わないのかも知れないが、実際には一次系の冷却材に含まれる放射性物質、この場合はキセノンやクリプトン、あるいはヨウ素が溶けているが、これが気体状になって出てくるところは、浄化系だ。
 冷却材から放射性物質を取り除く過程で、クリプトンやキセノンはフィルターでは除去できないので浄化系から格納容器内に出る。これが建屋の換気系を通って大気中に出る。その量がどのくらいになっているのか発表がないためわからない。
 空間線量率は通常時と変わらないとしているが、よほど大量に放出しなければ、モニタリングで分かるほどにはならない。特に希ガスの場合は、大気中に拡散してしまうので、フィルターなどで捕集することも困難だ。
 分からなければ良いというものではない。
 具体的な放出量を明確にするべきだ。

◎ 原子力安全局発表内容の問題点

 原子力安全局の広報担当者の発表内容に即して、問題点を指摘しておく。

・「核燃料製造、輸送、装荷などの各過程において、制御が不可能な要因の影響を受け、運転中に少量の燃料棒が損傷することは避けられないことであり、これはよくある現象だ」。
 安全評価においては、燃料棒の破損は評価対象としていることは事実で有り、1本の損傷が炉心損傷に繋がらないような安全対策を取ることは当然だが、それと「燃料損傷は避けられない、よくある現象」とは、意味が違う。

・「関連するデータによると、世界中の多くの原子力発電所が燃料棒に損傷を受け、運転を続けています。」ということはない。
 少なくても燃料損傷が明らかな状態が検出されれば運転を止める。損傷したまま運転を続けることは常識などではない。

・「現在、原子力発電所は、技術仕様の要件を満たし、安定運転が可能な範囲で運用上の安全性が確保されている」について、損傷した燃料を抱えたままで安定運転が可能などとは言えない。 損傷が拡大した場合、燃料棒が折損したり浸水したりして、大きな事故につながるからだ。
・「損傷を受けた燃料棒の割合は全体の0.01%未満であり、設計上想定された燃料集合体の最大損傷率(0.25%)よりもはるかに低い」からといって、そのまま運転を続けることは異常というほかはない。
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