[2021_06_10_02] 一般住宅よりもはるかに脆弱な原発耐震 耐震性に着目すれば 日本の全ての原発を止められる 電力会社の「地震は来ない」は虚妄 学術論争の「魔法」から目を覚ませ 樋口英明(元福井地裁裁判長)(日刊ゲンダイ2021年6月10日)
 
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 一般住宅よりもはるかに脆弱な原発耐震 耐震性に着目すれば 日本の全ての原発を止められる 電力会社の「地震は来ない」は虚妄 学術論争の「魔法」から目を覚ませ 樋口英明(元福井地裁裁判長)

 運転開始から40年を超える関西電力の老朽原発が23日にも再稼働する。この暴挙に、かつて原発運転を差し止めた元裁判長が「不都合な真実」を喝破する。
「老朽原発はもちろん、日本には強い地震に耐えられる原発は一つたりともない」と−。

◎ 再稼働する美浜3号機の運転開始は45年も前も昔です
―45年前の家電を今も使いますか?大量生産の家電は壊れても最新技術の製品に買い替えればいいけれど、原発は大量生産できない。技術は旧態依然で、一つの計器が故障しただけで原発の「止める・冷やす・閉じ込める」の安全3原則は綻び、重大事故が起きかねません。(中略)

◎ 老朽原発が「高い安全性」を確保できるか否かが最大の危惧です。―地震大国の日本で原発の高い安全性を担保するのは、信頼できる強度な耐震性に尽きます。
 原発の耐震設計基準を「基準地震動」と呼び、施設に大きな影響を及ぼす恐れがある揺れを意味します。
 美浜3号機の基準地震動は993ガル(揺れの強さを示す加速度の単位)。
 しかしこの国では1000ガル上以上の地震が過去20年間で17回も起きているのです。(中略)

◎ 基準地震動を超える地震がいつ襲ってきてもおかしくはない、と。―しかも美浜3号機の基準地震動は建設当時の405ガルからカサ上げされています。建物の耐震性は老朽化すれば衰えるのに、原発だけは時を経るにつれて耐震性が上がるとは不可思議です。
 電力会社は「コンピューターシミュレーションで確認できた」と言い張りますが、計算式や入力する数値でどうにでも変わる。
 住宅メーカーの耐震実験は建物を実際に大きな鉄板の上で揺さぶります。その結果、三井ホームの住宅の耐震設計は5115ガル、住友林業は3406ガル。2社が飛び切り高いのではなく、改正後の建築基準法は一般住宅も震度6強から震度7にかけての地震に耐えられるよう義務づけています。ガルで言うと1500ガル程度の地震に耐えられます。
 一方、日本の原発の基準地震動はほぼ600ガルから1000ガル程度です。
つまり原発の耐震性は信頼度も基準値も一般住宅より、はるかに劣るのです。(中略)
 毎年のように頻発する、やや強めの地震に襲われても危険ということです。原子炉は強い地震に耐えられても、原子炉につながっている配管や配電は耐震性が低い上に耐震補強も難しい。断水しても停電しても原発は大事故につながる。それが福島の教訓です。

◎それにしても基準地震動の設定が低すぎませんか
―地震学者の間では長年、関東大震災(震度7)でも400ガル程度との認識が主流で、地球の重力加速度(980ガル)以上の地震は来ないとも推測されていました。
 この考えに従い、昭和時代の原発は建設されたと思います。しかし、1995年の阪神・淡路大震災を契機に、2000年ごろには全国の約5000ヵ所に地震計が設置され観測網が整備されました。すると震度7が1500ガル以上に相当することが科学的に判明したのです。

◎ 震度の過小評価に気づけば、原発の運転は諦めるべきでは?
―そこで電力会社が「不都合な真実」を隠すのに持ち出すのが「地震予知」です。差し止め訴訟で「原発の敷地に700ガル以上の地震は来るんですか」と聞くと、関西電力は「まず来ません」と答えた。 科学で一番難しいのは将来予測。中でも地震の予知は困難を極めます。「来ない」と断言できっこないのです。地震予知は「予言」に等しく、信じるか否かは「理性と良識」の問題です。だから速やかに差し止め判決を出せたのです。(中略)

◎ 福島の事故後も、原発の運転差し止めを認めた司法判断は必ず上級審で覆ります。
―先例主義の悪弊です。裁判官が原発訴訟を扱うのは、まれです。めったに当たらない訴訟を担当すると、裁判官はつい過去の判決を調べてしまう。判例に頼れば通常は大きな間違いをせずに済むし、何より楽ですから。その傾向は上級審の裁判官ほど強い。そしてある「魔法」も効いています。

◎ 魔法とは?
 1992年に確定した伊方原発訴訟の最高裁判例です。原発訴訟を「高度の専門技術訴訟」とし、今でも最高裁は原発差し止め訴訟を「複雑困難訴訟」と呼ぶ。
 あくまで一般論に過ぎないのに、最高裁に言われると、住民や電力会社、弁護士や裁判官までもが「難しいに違いない」と「魔法」にかかってしまう。
 法廷は理解不能な専門用語が飛び交う学術論争の場となり、もともと文系の裁判官はロッカーいっぱいの専門資料にチンプンカンプン。だから過去の判例を踏襲する判決を出しがちになるのです。

◎ 困ったものです
―裁判官を「魔法」から解き放つには(中略)
 住民側弁護士が原発の危険性をシンプルかつ論理的に伝えれば、裁判官も認めざるを得ません。(中略)
 20年間の詳細な地震観測による新たな知見、すなわち「1000ガルを超える地震はいくらでも来ます」という動かしがたい事実に基づく判断こそが合理的であり、「真の科学」と言えます。(中略)
 あらゆる運転差し止め訴訟で裁判官に原発の脆弱な耐震性を知らしめ、電力会社の非科学性と非常識を理解させることによって、日本の全ての原発は必ず停止できます。
        (6月10日発行「日刊ゲンダイ」11面より抜粋)
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