[2021_04_26_02]「40年ルール」なし崩し 再稼働へ突き進む関西電力の老朽原発 福井県知事が同意へ(東京新聞2021年4月26日)
 
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「40年ルール」なし崩し 再稼働へ突き進む関西電力の老朽原発 福井県知事が同意へ

 福井県内にある運転開始から40年を超えた関西電力の原発3基が、再稼働へ向かっている。日本の原発として前例のない運転延長は、東京電力福島第一原発事故後にできた「40年ルール」をなし崩しにするだけではなく、政府が掲げる「脱炭素社会」の実現を名目に今後当たり前になる可能性が高い。(尾嶋隆宏、山本洋児、今井智文)
 2020年10月16日、福井県庁7階の庁議室。経済産業省資源エネルギー庁の保坂伸長官は、杉本達治知事と向き合っていた。関電の金品受領問題に伴う業務改善計画の進捗状況を報告後、切り出した。「環境性能に加え、供給の安定性に優れた原発を活用する重要性は高まっている。40年超運転は不可欠だ」
 国として、福井県内にある運転期間が40年を超えた原発の再稼働に同意を求めた瞬間だった。この日を境に、関電が40年超運転を目指す美浜原発3号機(美浜町)、高浜原発1、2号機(高浜町)の再稼働を巡る議論が一気に動いた。
 11月に高浜町議会、12月に美浜町議会が同意し、両町長も2月に再稼働にゴーサインを出した。県議会も今年4月23日に同意し、知事は28日にも最終判断する見通しだ。

◆首相の「脱炭素」宣言 高まる原発の存在感

 エネ庁長官と杉本知事の面談から10日後の10月26日、原発を取り巻く環境に大きな変化があった。菅義偉首相が臨時国会の所信表明演説で、50年までに二酸化炭素(CO2)を主とする温室効果ガスの排出を実質ゼロにする「カーボンニュートラル」を目指すと宣言したことだ。
 原発は、発電時に温室効果ガスを排出しない「脱炭素電源」という面がある。1990年代以降、地球温暖化対策の点で重視されてきた原発は、福島第一原発事故後に「依存度を可能な限り低減させる」方針に変わったが、再び存在感が高まりつつある。
 ただ、原発再稼働は進んではいない。全国33基のうち、新規制基準に適合して再稼働したのは9基。国は30年の電源構成に占める原発の割合を20〜22%と設定しているが、実現するには30基程度の稼働が必要で、遠く及ばない。
 「新しい原発に頼るのではなく、諸外国と同様に40年超運転を順次、実施していくことが極めて重要」と保坂長官。政府はカーボンニュートラルには原発は一定数必要とし、米、仏、英などで運転延長が認められていることを強調する。

◆「極めて例外的」が当たり前に 原発の運転延長

 「既存原発の運転期間延長は最も費用対効果の高い手段。40年上限、20年延長を1回限り認めるという不合理な制約は見直すべきだ」
 4月7日、国会内で開かれた自民党の電力安定供給推進議員連盟の会合で、東京大公共政策大学院の有馬純特任教授(エネルギー・環境政策)はカーボンニュートラル実現に向け、さらなる運転延長の必要性を力説した。
 東日本では、日本原子力発電の東海第二原発(茨城県)が40年超の運転許可を得ている。30年には、高浜3、4号機を含む原発11基が運転40年以上となる。NPO法人原子力資料情報室(東京)の伴英幸共同代表は「新しい原発への建て替えは世論が認めないため、電力会社は今ある原発を使い続けるしかない。原子力産業をつぶしてはいけないと、国も認める動きをしている」と指摘する。
 東京電力福島第一原発事故後、政府は12年6月に原発の運転期間を原則40年に制限した。当時の細野豪志原発事故担当相は「40年という期限が来たら、基本的に廃炉にする。延長を認めるのは極めて例外的なケース」と強調していたが、原則は崩れつつある。

◆機器は取り換えたが、原子炉は交換できず

 「点検をして安全だからそのまま使うというが、危険性が眠っているかもしれない」。4月9日に福井県庁で開かれた県原子力安全専門委員会で、原発の再稼働に慎重姿勢な県立大名誉教授の田島俊彦委員(素粒子物理学)が訴えた。
 専門委は5年間かけて、関西電力が40年超運転を目指す美浜3号機と高浜1、2号機の安全性を議論してきた。この日の会合では「必要な対策が講じられている」とする報告書案が大筋で了承されたものの、最後まで疑問の声が残った。
 関電は老朽化と事故対策を進めて原子力規制委員会の審査をパスするために、美浜で2400億円、高浜(1〜4号機)で5467億円という巨額を投じた。3基は中央制御盤など多くの機器が最新型に取り換えられたものの、肝心の原子炉容器は造り替えない限り、交換できない。
 原子炉は核燃料の核分裂反応で生じる中性子線を受けると、金属が粘り強さを失いもろくなる。限度を超えると、緊急時に原子炉に水を入れ、300度近い炉を常温まで急激に冷やす際に破損する可能性がある。
 関電は、運転開始時から炉内にある試験用の金属を取り出し、劣化の具合を調べた。高浜1号機は国内の原発で最も金属がもろくなっていたが、「運転60年の時点でも安全性は保たれる」と判断。原子力規制委員会もこれを認めた。

◆「世界的に前例のない」異常も 想定外の劣化リスク

 だが、3基よりも新しい高浜3、4号機では、18年から定期検査のたびに蒸気発生器の細管損傷が見つかっている。関電は異物混入が原因とみて対策を講じたが再発が続いた。昨年12月、細管の表面にできた水あかのような金属片がはがれてこすれたのが原因と判明。世界的に前例のない現象で、検査でも金属片の危険性を見逃していた。
 「今までの想定で原発の検査をしても、未発見の現象は防げず、重大な劣化を見逃している可能性もある」。原発問題に詳しい大阪府立大の長沢啓行名誉教授(システム工学)は警鐘を鳴らす。

原発の運転期間40年ルール 2012年6月の原子炉等規制法の改正で規定。それ以前は運転期間に明確な定めはなく、30年目、40年目で国の審査を受け、問題がなければ継続運転も可能だった。12年2月の参院予算委員会で、細野豪志原発事故担当相(当時)は、40年の根拠として原子炉の圧力容器内で核分裂で出る中性子が当たって劣化が進むことを挙げ「ほとんどの原子炉は想定年数を40年として申請している」と答弁。40年は原発の寿命の目安となったが、科学的根拠がはっきりしないとの指摘がある。経済産業省によると、米国で運転中の94基は大半が60年運転を認められ、47基が運転40年を超えてた。4基は80年運転も認められている。仏では56基のうち14基、英国では15基のうち4基が、運転期間40年を超えている。
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