[2023_06_07_01]原発の再稼働で電気料金は安くなるのか (上) (2回の連載) 東電エナジーパートナー(小売り電気事業者)は「原発発電事業者の原子力関連費用」を小売り料金原価に算入したので「規制料金」が必要以上に高くなっていた 堀江鉄雄(東電株主)(たんぽぽ舎2023年6月7日)
 
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原発の再稼働で電気料金は安くなるのか (上) (2回の連載) 東電エナジーパートナー(小売り電気事業者)は「原発発電事業者の原子力関連費用」を小売り料金原価に算入したので「規制料金」が必要以上に高くなっていた 堀江鉄雄(東電株主)

 
◎<東電の電力小売り会社「東電エナジーパートナー(EP)」の規制料金値上げ申請>

 東電EPの値上げ申請の理由は、東電EPの継続的な「赤字決算」と「債務超過」の解消です。
 東電EPの2022年度決算予測は、5050億円の損失でした。
 赤字は継続的であり、赤字の原因は発電燃料費の高騰に伴う購入電力料金(卸市場料金)の高騰だとしています(申請資料より)。

 また、東電ホールデングス(HD)への質問の回答では「販売すればするほど赤字になる」としています。
 これは「逆ザヤ(販売料金より原価の方が高い)」になっているということです。逆ザヤの理由は、顧客獲得のために料金原価(費用)より必要以上に販売料金を下げたか、料金原価(費用)に料金原価以外の「不必要な費用」が入っているかです。

 東電EPは、電力小売り事業者ですから「仕入れた電力」を電力消費者および他の小売り電力事業者(卸売り)に「販売」し差額を利益にする事業者です。

 この申請資料では、赤字を解消するために
1.販売する電気料金(規制料金)を値上げすること。
2.柏崎原発6,7号機を再稼働して、その分の電力卸市場からの購入電力費用(仕入)を減らすことで、2600億円(のちに卸市場価格を見直し900億円)の購入電力費用の削減になるとしています。
資料:900億円の削減  0041_06_01_03.pdf (meti.go.jp)P1

◎<原発の再稼働は電気料金値下げになるのか>…
 電気料金は安くなりません

 資料:「規制料金値上げ申請等の概要について2023.01.23」
 20230123001-4.pdf (meti.go.jp)
 P17原価算定の内訳「内訳表(購入・販売電力料:原子力)」

 東電EPによる「規制料金値上げ申請」により、「原子力PPA契約」というのがあることが分かりました。
 「小売り電気事業者」である東電EPは、この契約により「原発発電事業者の原子力関連費用」を負担していることも分かりました。
 この「原子力関連費用」を小売り料金原価に算入していることで、東電EPの「規制料金」は必要以上に高くなっていたのです。

 今回の申請資料によれば「原子力PPA契約」による負担金額は、「基本料金」の2801億円(2022年度実績)と、柏崎6,7号機の再稼働に伴う増額費用2160億円です。合計年間4961億円の負担金額になるとしています。

 つまり再稼働すれば900億円の費用削減になるとしていますが、再稼働による「原子力PPA契約」の年間負担額は4961億円です。
 この4961億円で119億KWhを発電するのですから、原発の発電単価は41.69円/KWhとなります。
 東電EPは、41.69円/KWh以上で販売しなければ「資金回収」はできません。原発は「廉価」といえますでしょうか。

 さらに再稼働できなければ「原子力PPA契約」の年間負担額4961億円は、赤字の5000億円と同額の負担金額になります。
 東電EPは「原子力PPA契約」を解約すれば、継続的な赤字は解消され電気料金の値上げの必要性もなくなるのです。
 原発発電単価は、他の発電単価よりも安くはないのです。
 原発再稼働で電気料金は安くなりません。

◎<「原子力PPA契約」>…電力自由化の主旨に反する

 資料:「購入・販売電力料について4資料6−1」
 第41回料金制度専門会合(2023.04.11)提出資料
 0041_06_01.pdf (meti.go.jp)
P13には、「相対取引(原子力分)東電EPについて」(詳細は資料で確認)。
1.S46.12.15 東海第二について原電、東電、東北電力間で契約
2.S57.01.25(H11.02.26一部改定) 東通原発について東北電力、東電間で契約
3.H09.09.30 女川原発について東北電力、東電間で契約
4.H09.12.24 東海原発について原電、東電間で契約
5.H28.04.01 柏崎原発、福島第一、第二、東通原発について東電HD、東電EP間で契約(分社化に伴うもの)
・EPは、HDの全発電所の維持管理等ならびに発電に合理的に必要な費用を負担する。
・HDは、本契約に定める条件に従って、全発電所を用いて発電した電力(運転中の所内電力消費を除く)をEPに送電する。
・本契約は、契約締結の日から全発電所の廃止措置等に係る一切の業務が終了するまでの間存続する。

 上記のことからも「原子力PPA契約」は、分社化以前の原発発電事業者間の「相互扶助契約」ともいえるものであることが分かります。
 2016年の分社化に伴い東電EPは、東電HDから他社との「原子力PPA契約」を引き継いだということです。同時に東電EPは、東電HDとも「原子力PPA契約」を結ぶことで、東電HDの原子力関連費用も負担することになったのです。

◎<「原子力PPA契約」は原発発電事業者の相互扶助契約>

 「原子力PPA契約」は、元々は国策である原子力発電事業を民間の原子力事業者同士で協力負担しようとする「相互扶助」契約です。その典型が日本原電です。2011年から日本原電の原発は発電ゼロです。
 しかし、日本原電は、販売電力量はゼロでも売上はあり毎年黒字決算なのです。

 何故か、これは日本原電の「原子力発電事業に要する費用」及び「損害賠償費用、廃炉までの費用等」を、他の原子力発電事業者(東電、関電等)が受電量ゼロでも「基本料金」として負担するという契約だからです。
 日本原電は「原子力PPA契約」によって他原子力事業者から「救済」されているのです。
 その「救済金額」は、それぞれの電気料金で電力消費者が負担、「回収」されているのです。

◎<東電EPの日本原電への「前払費用(2200億円)」>

 また、皆さんご存じ、2019年の日本原電の設置許可変更申請における原子力規制委員会の「経理的基礎」の審査では、日本原電の「資金」が問題になりました。
 債務保証のできない東電EPは、受電した場合に支払う「従量料金」を前払費用(2200億円)として日本原電に支払ったのです。
 この「前払費用(2200億円)」を規制委員会は「資金」と歪曲して「経理的基礎」はあるとして認可したのです。

 その後も東電EPへの日本原電からの送電量はゼロです。
 「前払費用(2200億円)」は、東電EPに返金されなければなりません。
 今回の申請には「前払費用(2200億円)」入っていないとしています。
 なぜか返金されたのかの説明はしません。返金は不明です。
 返金されていれば、日本原電の「経理的基礎」の認可要件はなくなります。
 返金されていなければ、東電EPの「原子力PPA契約」と会計処理の問題になります。いずれにしても大問題です。

◎<「原子力PPA契約」は電力自由化の主旨に反する>

 東電HDから東電EPへの「原子力PPA契約」の引継ぎは、2016年4月からの電力自由化に伴う「法的分離の分社化」によって行われたものです。
 しかし、電力自由化からすれば、東電EPの「原子力PPA契約」の引継ぎには二つの側面で問題があります。

 一つは、「横の相互扶助」です。
 東電HD以外(日本原電、東北電力)との「原子力PPA契約」の継承です。
 これは旧一電における「地域独占(不可侵)」と横の繋がり(相互扶助)を継承するもので旧一電間を無競争にしています。
 さらに小売り電力事業者である東電EPが、なぜ日本原電を「救済」しなければならないのか?を考えれば、カルテル同様に電力自由化に反することは明白です。

 もう一つは、「縦の相互扶助」です。
 東電HDと東電EPとの「原子力PPA契約」です。これは電力自由化において発電事業、送配電事業、小売り事業を分社化し、それまでの川上から川下までの「縦の相互扶助」を禁止した「分社化」の意味をなくしています。

 「縦の相互扶助」を証明したのが2016年4月からの卸売市場の高騰です。
 東電EPは、買い(需要)は多く、売り(供給玉出し)は少なく受給計画提出することで卸売市場価格は高騰したのです。
 東電EPは、「原子力PPA契約」により東電HDの発電全量を受電することで卸売市場価格をコントロールしたのです。
 当時はなぜ、発電源を持たない小売り事業者の東電EPが市場操作できるのか分かりませんでした。

 監視委員会は、この実態を知りながら東電EPに勧告すらしませんでした。できませんでした。
 なぜなら東電EPは、経産省の経営する会社だからです。
 関電は、「やっていいんだ」として同じことをしたら「勧告」を受け
ました。
 その後も東電EPは、「取戻し営業」などでの詐欺まがいの営業を外注の責任でやらせて「勧告」を受けています。
 東電EPの「原子力PPA契約」は、発電事業、送配電事業、小売り事業と分社化をした電力自由化の主旨に反するものです。
(下)に続く
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