[2021_03_21_11]東通村長交代、原子力業界は複雑な思い(東奥日報2021年3月21日)
 
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東通村長交代、原子力業界は複雑な思い

 24年ぶりに村政トップが交代する青森県東通村。14日の村長選で、原子力業界と強固な「信頼関係」を築いていた現職が敗れ、業界関係者は複雑な思いで結果を見つめている。現職は長年にわたり、原子力推進を掲げ国や県にもの申す存在としてリーダーシップを発揮する一方、業界から財政支援を取り付けるための手法が一部から「強引」との反感を招くこともあった。今回当選した新人も原子力推進の立場だが、手腕は未知数。国策も絡んだ原子力に新しいリーダーがどう向き合うのか、業界は出方をうかがっている。
 「このたびはおめでとうございます。今後ともよろしくお願いいたします」。14日午後9時50分、初当選に沸く新人畑中稔朗氏(58)の事務所を原子力業界の関係者らが訪れ、玄関先で祝意を示した。ある業界関係者は「原子力で畑中氏はわれわれと方向性が同じ。遅かれ早かれあいさつに行くのは当然」と説明する。
 原子力業界はこれまで、6期24年にわたって村政を預かってきた現職越善靖夫氏(79)を陰に陽に支えてきた。東京電力福島第1原発事故で原子力に対する逆風が吹き荒れても、越善氏は原子力政策の推進と立地自治体への支援の必要性を声高に訴え、何度も国や県の元へ足を運んだ。電力関係者の一人は「全国の立地自治体の中でも非常に心強く感じる首長」と積極支援の理由を語る。
 その成果は村内の至る所で目にすることができる。施設整備や各種政策には多額の「原発マネー」が投入された。だが、依存度が高まり村財政は硬直化。原発事故により、東北電東通1号機が長期停止、東電東通1号機の建設工事がストップしたことで事態は深刻化した。近年、村は東電1号機に関わる電源立地地域対策交付金のうち、運転開始後に交付される額の一部となる10億円を先行して受け取っているほか、企業版ふるさと納税制度を活用し2社から億単位の寄付を受けるなど、急場をしのぐ状態が続く。
 今月に入り、東北電は新たに、20年度から5年間で総額10億円の寄付を行うと表明。さらに東電は19日、村と共に一般社団法人を設立、20年度から5年間で最大30億円を法人に拠出すると発表した。
 ただ、一部の電力関係者からは「原発が稼働できない状況は申し訳なく思うが、いつまで搾り取るのか」「原発事故で金がない東電から多額の寄付を受けるのは世論の理解を得にくい」との反感や疑問も漏れる。今回、現職が敗れた背景には、業界の支援に濃淡があったのでは との臆測も飛ぶ。別の関係者は「原発で潤う業者が限られ、村内に不満がたまっていた」と解説してみせた。
 一方、4月13日から村のかじ取りを担う畑中氏。原発との共存共栄は変わらないとしつつ、「村が一方的に再稼働しろと主張しても駄目。国の新たなエネルギー基本計画が策定されてから初めて再稼働の議論ができるようになる」と国の方針を待つ構えだ。村財政については「他力本願ではなく村自身の努力が必要」と強調、財政計画を村民に公表し、立地による暮らしへの財政的な恩恵を「見える化」したいと述べる。
 ある電力関係者は「村民も厳しい財政状況を理解して将来のことを考えなければ、村は苦しいままだ。畑中氏は県や国とのやりとりも担わなければならない。長期政権後の手腕が試される」と話した。
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