[2020_10_28_09]原発新検査制度 導入7カ月 「より安全性に焦点」 フリーアクセス方式 日々の活動対象に 事業者の意識高まる 検査官の技量向上課題(東奥日報2020年10月28日)
 
 原子力施設が安全に運転・管理されているかを監視する国の新たな検査制度が4月に始まり、7カ月が経過した。新制度は、国が「お墨付き」を与えてきた従来の手法を改め、安全確保の責任の主体が事業者であることを明記、検査官がいつでも自由に現場や書類を確認できる「フリーアクセス方式」を採用した。現場からは「安全上のリスクに焦点を絞った検査ができる」との手応えが聞かれる。一方、国は制度の効果をよりよいものにするため、検査官の技量向上や手法の見直しなどを継続して進める方針だ。(加藤景子)
 本県には原子力規制庁の検査官が常駐する事務所が東通村と六ヶ所村にある。所長を含め4人の検査官がいる東通原子力規制事務所は、東北電力・東通原発1号機などを担当。9月、同原業で行われている検査の様子を取材した。
 朝、原発の事務本館内にある検査官室では、同事務所の山本晋児所長や検査官が前日夜から朝までの原発の状態をまとめたリポートを、東北電力の担当者とチェック。不具合があった場合は、処置の方法や進捗状況なども報告を受けているという。
 旧制度では四半期に1回、事前に時期や検査内容を事業者に伝え、約2週間をかけて項日ごとに基準を満たしているかをみる「チェックリスト方式」で検査していたが、今は日々の全ての保安活動が検査の対象に。検査官は着眼点をまとめた分厚いガイドを基に、安全上の重要度に応じてメリハリをつけた検査を行うことが求められている。
 「安全に影響のないところは事業者に任せ、影響が考えられる部分は突っ込んで議論させてもらいます1というところが一番の変化」と山本所長。東通の検査官だけで判断できない疑問があれば、他地域の事務所や規制庁と情報をやりとりして安全上のりスクについて考えているという。
 この日の午後には、東北電が点検周期を変更した屋外の大容量電源装置を検査官らが現場で確認。計器や設備をライトで照らしながら詳しくチェックした。
 東通原発原子炉主任技術者の阿部慎一さんは、新制度でフリーアクセスが導入され「検査官に説明する負担は減った部分もある」と変化を語る。新制度は、事業者が安全確保の一義的責任を負うーと明確化したことも大きなポイントだが、「現場の気づきを吸い上げて、自主的に改善するというマインドが高まっていると感じる」と述べた。
 検査は日常検査のほか、規制庁本庁が行うチーム検査がある。原発ごとの総合評価は年に1度公表されるが、問題があれば追加検査が行われ、事業者は追加で手数料を支払わなければならない。最低評価の場合は運転停止命令や原発の許可取り消しもある。

 検査官の技量向上課題

 新検査制度は、2016年に国際原子力機関(IAEA)から改善勧告を受けたのを契機に、原子力規制委員会が改革に着手した。
 米国の制度を下敷きに、考え方や手法を抜本的に見直し。13カ月以内に行う定期検査や、設備や機器が設計通りになつているかを確認する使用前検査も新制度で一本化し、国が「合格」を与えるのではなく、事業者が自ら検査して「合否」を判断、国が内容を確認するという方法に改めた。. 制度運用の上で課題の一つとなっているのが、裁量が大きくなった検査官の育成や技量向上だ。
 新制度の主眼は、規制側が良質な指摘をすることで事業者の自立的な改善活動につなげることだ。原子力規制庁の前川之則・地域原子力規制総括調整官(青森担当)は「検査官が事象の本質を見極め、事業者と深く議論できるようになるまで経験値や理解力を上げることが必要となる。それが事業者の改善活動につながれば、良いサイクルができる」と説明する。本県に限れば、県内の施設は運転停止中や建設中がほとんどで、稼働を見据えた検査官の育成も課題という。
 規制委の会合では「制度の理想の姿に近づけるのにはまだまだ時間がかかる」との指摘もあった。規制委は検査ガイドの見直しや検査官の研修・教育充実などを継続して行う方針で、前川調整官は「制度は緒に就いたばかり。現状にとどまらず改善に向け努力を続ける」と話す。
      (加藤景子)
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