[2022_08_04_05]福島第1原発に残り続けるもう一つの「危険物」とは(毎日新聞2022年8月4日)
 
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福島第1原発に残り続けるもう一つの「危険物」とは

 東京電力福島第1原発事故で廃炉になった同原発1〜6号機で、大量に使われたアスベスト(石綿)がほとんど除去できていない。原子炉建屋が放射性物質で汚染されているため、通常でも慎重な作業を要する石綿の除去を一層難しくしている。
 石綿は中皮腫や肺がんを引き起こす発がん性物質だ。かつては建材などに大量に使われたが、現在は原則として使用が禁止されている。
 東電によると、1〜6号機では防音材に使った吹き付け石綿が約900平方メートルある。配管の継ぎ目など約1万5000カ所には、石綿製のジョイントシートやシール材を使っている。2021年3月時点で、どちらも全く除去できていないという。
 配管に巻くなどした石綿製の保温材も約1700立方メートルあるが、除去済みは90立方メートル(約5%)にとどまっている。
 東電の担当者は「廃炉作業の進み具合に応じて必要な石綿の除去を行っている。飛散性がある吹き付け石綿の場所は常時は人が立ち入らず、注意喚起の表示をしている」と説明する。

 事故の水素爆発で石綿飛散か

 福島事故では、建屋などに使われていた石綿が、水素爆発で飛散した可能性が指摘されている。東電は16年5月、敷地内18カ所で空気中の石綿濃度を測定し「検出されなかった」と発表した。
 事故から5年以上たって測定したことについて東電は「構内での作業時はマスクを着用していたことから、石綿による健康被害が発生する状況になかった。事故の収束に向けた活動に全力を注いでいたため」と説明する。
 中地重晴・熊本学園大教授(環境管理論)は「05年に石綿の深刻な健康被害が判明したとき、吹き付け石綿などを除去すべきだった。原発事故の影響で除去や調査が困難になったとみられる。他の原発も可能な限り、石綿の除去を進めるべきだ。事故に伴う石綿の露出状況などを調査することは今後、原発解体を進める上でも不可欠になってくるはずだ」と指摘する。

 他の原発でも除去は限定的

 廃炉になった他の原発でも、石綿の除去は限定的だ。
 関西電力の廃炉作業中の原発は、いずれも福井県にある美浜原発1、2号機、大飯原発1、2号機の計4基ある。関電によると、4基全体で使われた石綿含有の保温材は計1335立方メートルあり、うち990立方メートルが残る。
 21年3月時点で、先に廃炉になった美浜1、2号機を中心に、放射線管理区域ではないタービン建屋などの一部を除去した。しかし、原子炉周辺など管理区域内の作業は未着手だ。配管の継ぎ目やポンプ軸の密封などに使うジョイントシート4962個、シール材2973組もそのまま残っている。
 中部電力によると、廃炉作業中の浜岡原発1、2号機(静岡県)は22年3月までに、機器や配管類の保温材850平方メートルのうち約6割を除去した。1、2号機共用の排気筒に使われていた建材石綿2000平方メートルもすべて除去した。一方、シール材・ジョイントシート類5万4000個については約3割の除去にとどまる。【大島秀利】
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