[2019_10_16_02]3・11炉心融解を予言した医師が警鐘 台風に続く「噴火と地震」(石黒耀)(現代ビジネス2019年10月16日)
 
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3・11炉心融解を予言した医師が警鐘 台風に続く「噴火と地震」(石黒耀)


「想定外」ではない

 医師で作家の石黒耀さん(65)をご存知だろうか。デビュー作『死都日本』(2002年刊行)は、霧島火山が破局噴火し、南九州が壊滅、日本全土が火山灰に覆われさらには他の火山の噴火をも誘導するという斬新な未来小説だった(破局噴火=破局的噴火。山体が崩壊するほどの爆発的大噴火。超巨大火砕流も発生させる)。日本の火山学会は、そのデータの正確さ、科学的根拠に基づく具体的な記述に衝撃を受け、石黒さんを招いてシンポジウムを催したほどだった。

知らないと命にかかわる…南海トラフ地震、各地の「想定震度」

 第2作の『震災列島』では、東海地震、東南海地震が連動して起こり、浜岡原発がメルトダウン、首都圏から中京圏まで広範囲にわたって日本列島に甚大な被害が出る様子を描いた。そして、『震災列島』の刊行から7年、まるで本書の内容をなぞるかのように福島第一原発のメルトダウンが起きるわけである。震災後、多くの科学者たちが「想定外だった」と口にしたが、石黒さんからすれば地震(全外部電源の喪失)による炉心溶融は十分に想定しえたことだったのだ。
 世界中の火山の7%が集中する火山列島であり、4つのプレートに乗る有数の地震国である日本の未来を誰よりも案じる石黒さんに、「災害国ニッポンの生きる道」について訊いた。

 ──いまも日常的に日本各地で火山の噴火が続いています。富士山をはじめ、日本の火山の活動は活発になってきているのでしょうか。
 石黒:たとえば、鹿児島の姶良(あいら)カルデラ(ポルトガル語で大鍋。巨大火口を持つ火山)が小噴火して、桜島と大隅半島がつながって半島になったのが1914年(大正3年)のことでした。ちょうど100年ちょっと前の話ですが、その直後から比べたら、今はだいぶ危険な状態になっています。このときの噴火はカルデラ噴火としては小規模でしたが、噴煙は1万メートルに達し、火山灰は九州から東北地方にまで達したという大噴火でした。
 あるいは、僕が『死都日本』を書いたとき、霧島火山のカルデラは、まだ生きているカルデラだと僕は言ったんですが、多くの学者さんたちは、それはないと見ていた。でも、今は、巨大なマグマ溜まりが見つかり、ちゃんと生きているということが証明された。
 富士山も1707年に大噴火(宝永の大噴火)してから、310年以上が過ぎているわけで、いつ覚醒してもおかしくないわけです。実際、東日本大震災の4日後、富士山直下のマグマ溜まりがあると想像されるあたりを震源に、マグニチュード6.4の地震が発生したりしています。さらに言えば、宝永の大噴火は、南海トラフで巨大地震が発生して49日後に起きています。
 私たちは、そういう大火山列島の上で生活しているということを常に忘れない、ということが大事です

火山列島で原発は制御できない

 ──火山の国で暮らす上で、まずやらなければならないことはなんでしょう。
 石黒:そりゃもう、まず一番は、原発を止めることです。日本のような火山だらけの国では、原発は手の打ちようがない。すべて廃炉にするしかないんです。原発は、停電に弱いですから、大きな地震がくれば必ず停電するし、非常用ディーゼル発電で対応したとしても、いずれ制御が難しくなって、結局、汚染事故を起こしてしまう。そんな原発をいまだ廃炉にできないというのが不思議でならない。
 理屈から言えば、もうあっという間につぶしてもよさそうな代物なんですけどね。そもそも原発が温暖化に役立つ、CO2を減らすなんて言っているのもウソですから。精錬のためにはものすごいエネルギーが必要だし、海水温も上げてますしね。

 ──2004年に書かれた『震災列島』では、浜岡原発の所長以下が地震によって炉心溶融した原発を身体を張って守ろうとする姿が描かれています。が、結局はメルトダウンを起こし、総被ばく者数220万人という大惨事になってしまいます。その7年後に福島でまったく同じようにメルトダウンが起きてしまいました。
 石黒:間に合わなかった、というのが正直な思いでした。相当がっくりしました…。あのとき、民主党政権だったわけですが、明らかに説明が遅かったということ、世界的に損失を与えたということで、とりあえず、東電の幹部だけは逮捕しておくべきだったと思います。非常事態宣言を出して。それをやらなかったことが政府の弱いところで、おそらく、原発は生き残ってしまうでしょう。

 ──『震災列島』の中では、テレビキャスターと解説委員がこんなやりとりをしています。
「そもそも東海地震が近いと分かってから何十年も経つのに、政府は何故、太陽光発電・燃料電池・風力発電などの安全な分散型発電へ切り替えを進めなかったのでしょうか? 原発へ出す年間一千億円以上の電源促進対策費を、対策地域内の個人発電の補助に使っていれば、今頃、小型原発の一基分くらいには相当していたのではないでしょうか?」
「まあ、原発は国策ですからね」
解説委員は意味ありげに笑った。
「エネルギー効率なら火力発電と燃料電池のハイブリッドの方が二倍以上高いですし、コストも、後処理まで考えるとガスタービンの方が安い。廃棄物の処理も、他の発電の方が安全で安いですからね。原発の存在理由なんてのは、利権以外、とっくになくなっていたんですよ。とは言え、国の方針ですからね。電力会社だって、内心困ってたんじゃないですか?」

警告はずっとなされてきた

 石黒:原発に関しては、僕だけでなく、まともな人たちはみんな警告を発してきたわけです。言い方は悪いですけど、欲に目がくらんだ人たちと、騙されやすい人たちがわかっていないだけで。日本のような設置不適当国に原発が増え続けたのは、莫大な利権を生むからです。行政、マスコミ、御用学者が「安い、安全、地球にやさしい」という大宣伝をして、維持してきたシステムなのです。

 ──火山が噴火した場合の原発の影響も大きいです。にもかかわらず、ここ数年、伊方原発、川内原発などでは逆に「火山噴火発生の可能性が相応の根拠をもって示さない限り」噴火の恐れなしと、高裁などによって運転が認められたりしています。噴火自体を想定外としようとしています。
 石黒:火砕流が原発を襲ったときがさらに恐ろしいですね。大爆発を起こし、放射能を帯びた火山灰が降ってくるわけですから。北海道の端のほうにも人は住めなくなり、海は汚染され、しかも、誰も原発そのものを止めにもいけない。海外にも影響は出ますよね。まずは太平洋が汚れて、放射能を飲み込んだ海流がアメリカまで行きます。生物濃縮した魚をアメリカ人は食べなきゃいけなくなる。
 そんな地震国、火山列島である以上、原発はまったく不向きなエネルギーなのです。すぐにすべてを廃炉にすべきです。止めていれば、何年かすれば温度は下がっていって、だいぶ安全になってくるんです。原発の原理から勉強して、いままで起こったことを全部たどって答えを探せば、廃炉しかないというのはすぐに出てくるわけですが、問題は、この理屈じゃなく動く日本人のメンタリティをどうすればいいのか、ということなんでしょうね。

W地震・トリプル地震の可能性

 ──東日本大震災から8年、熊本地震から3年、その間にも各地で地震は起きています。ずっと危険視されている東海地震、南海地震についてはどう見られていますか。
 石黒:今世紀中に90何%かの確率で起きます。1946年12月21日に起きた昭和南海地震が妙に小さかったんですね(マグニチュード8.0)。そのぐらいの規模だと、相当エネルギーが残っているはずなので、そうするとふだんよりはもう少し早く起こりそうな気もする(昭和南海地震の前は安政南海地震で92年の間隔)。四国から紀伊半島にかけての南海、三重から名古屋にかけての東南海、静岡の駿河湾を中心にした東海の3つともエネルギーをため込んでいるので、今度はフルに来るんじゃないか、と。そして、それはもう、いつ来てもおかしくないという状態だと思います。

 ──石黒さんが早くから指摘されていた東海地震と東南海地震の同時発生は、2005年にスパコンのスーパーシミュレーションでも証明されました。複数の地震が連動して起きる可能性もあります。どんな備えが必要でしょうか。
 石黒:まず、食糧難になりますから、一戸建てであれば、床を掘って食糧庫をつくっておく。温度の安定したところに、とりあえず1ヵ月分くらいの食糧を貯蔵しておければベスト。静岡、名古屋から四国、九州の一部、瀬戸内海沿岸と結構な地域が食糧難になりますからね。四国4県、紀伊半島全域、大阪、広島の一部なども入ってきたら、いったい何人住んでいると思います? どうみても2千万人は超えています。戦争のときに、2千万人の部隊が補給線を絶たれて孤立していたら、そこにどれだけの物資を投入しないといけないか、ということを考えればわかることです。
 あとは、水の確保。僕自身は飲める分だけでも、自宅に2リットルの飲料水を8本用意してます。あと、沸騰したら飲めるかもしれないという水を50本ほど日常的に置いています。

応用科学を過信しない

 ──スケールの大きな地震や火山の噴火に遭うたびに、人間の小ささを改めて感じてしまいます。
 石黒:昔の人、1万年以上前の人は、火山に神を見ていたんですね。『古事記』に書かれている日本創生伝説は、火山列島・日本の誕生から火山の噴火、崩壊までを表していると僕はみています。阿蘇火山は1万9千年前に大噴火しているんですが、『古事記』には、その噴火を描いたと思われる記述があります。神様である火山の行いを記録し、子孫に神の歌として伝えようとしたんですね。人間にとって火山は、究極の信仰の対象だったわけです。
 現代人ももうちょっと大きな目で自然とか地球とか、宇宙といったものを神だと思ってもいいと思う。いくら科学が進歩しても、結局わからないものがある。一方で、「万有引力」のように絶対的に正しいものもある。人間が一番素直に信じられるのは、自然の摂理です。そして、そういう自然界の真理を追究してきたのが自然科学だし、宗教でもあると思うんです。「神がこう言った」という一神教の人の言葉を信じるよりは、僕は自然の摂理に沿った宗教に好感を持ちますね。
 でも、日本の現状は、原発ひとつとっても、自然を侮り、自然科学ではなく応用科学にのみおもねり、金儲けのことしか考えていないように思えます。
 たとえば、インドネシアのタンボラ火山が破局噴火すれば、社会というものは1週間ぐらいで崩壊してしまいます。急激な氷河期が来て、たぶん1年ほどでほぼ世界は全滅するでしょう。人類はそのレベルの生物なんですよ。自然神への畏敬を忘れないことです。

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いしぐろ・あきら/1954年、広島県生まれ。医師、小説家。阪神淡路大震災に遭遇したことを契機に執筆を開始。地変国日本のあり方を問うた処女作『死都日本』(第26回メフィスト賞受賞作)でデビューし、その科学的根拠に基づいた緻密な構成力と、圧倒的なスケール感で、読者に異例の反響を呼んだ
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