[2021_08_26_07]福島第一原発の汚染水(放射性物質)を海に流してはならない (下) (了) 汚染水の排出は環境や人体に影響を与える 新型コロナウイルス感染症に襲われる東電の現場 山崎久隆(たんぽぽ舎共同代表)(たんぽぽ舎2021年8月26日)
 
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福島第一原発の汚染水(放射性物質)を海に流してはならない (下) (了) 汚染水の排出は環境や人体に影響を与える 新型コロナウイルス感染症に襲われる東電の現場 山崎久隆(たんぽぽ舎共同代表)

(4)汚染水の排出は環境や人体に影響を与える

 汚染水にはトリチウム以外の放射性物質も含まれる。如何に薄めても低レベル放射性廃液に他ならない。
 これを海に投棄することは、国際条約の精神にも抵触し極めて不当だ。周辺国が懸念を示し反対することは当然である。
 人体への影響を示唆する報告も世界から出されている。
 カナダからは、ピッカリング原発の下流域で新生児死亡率の増加が観測され、小児白血病の増加も認められている。
 再処理工場からも大量のトリチウムが排出されるためイギリス、フランスでは再処理工場の周辺で健康被害が指摘されている。
 日本では、加圧水型軽水炉の玄海原発がある玄海町と隣接する唐津市での白血病の増加が見られ、泊原発の泊村と隣町の岩内町のがん死亡率は泊原発が稼働する前は道内180市町村の中で22番目と72番目だったが、原発稼働後は道内で一位が泊村、二位が岩内町になった。

(5)汚染水の海洋排出は誰に利益があるのか

 薄めて流せば影響がないなどと、いったいどんな根拠があるのか。
 もともと放射性物質の基準は、「リスクベネフィット」の考え方から来ている。
 原子力産業を維持するためには一定の放射性物質を排出せざるを得ない。
 一方で原子力利用では発電に限らず様々な利益がある。これらの均衡を勘案して考えられてきたのがリスクベネフィットであり、ゼロリスクではない。
 福島第一原発は、稼働していた時には電力を生産し、そのことを利益と捉えるならば、運転中の放射性物質の排出は、利益を得るためにやむを得ないと多くの人は考えてきた。
 反対をしてきた人々は、その考え方に問題があり、特に電力消費者(多くは大都市圏)と主に影響を受ける人々(すなわち主に原子力産業の立地地点及び周辺の住民)の間の不均衡を指摘し、核の被害を一方的に押しつけるものだと批判してきた。
 これに呼応するかのように、電源立地交付金などを電力料金から支出したり、核燃料税などで地元へ還元するなどしてきたが、これは「リスクへの見返り」だった。
 しかし福島第一原発は、今となっては何の利益を生まないばかりか大変なリスクを与えている。それを運転時の廃液放出基準を持ち出して合理化するのは不当である。
 結局、国の進めてきた原子力政策が破綻し、大規模汚染を拡散させてしまった責任も取らないで、海洋環境に大きな打撃を与える投棄は許されることではない。
 いわゆる「リスクベネフィット論」の観点から見ても不当である。
 汚染水を海洋投棄して得られる「利益」は、東電の金銭的負担の軽減のみ。
 何故東電の利益のために環境や健康や生業を犠牲にしなければならないのか。
 これは自明のことではないか。
 東電は「賠償する」としているが、福島第一原発事故から10年を経て賠償の中身がどんなものであったか身をもって経験させられてきた被害者には怒りが湧くだけの言葉だ。

(6)まだ放出まで時間がある

 放出が始まるまでには、まだ2年あるという。
 汚染水対策を見直す時間は十分にある。
 福島の人々との対話を通じて、汚染水を含む福島第一原発事故の対策を見直すことが重要だ。
 まだ間に合うのだから、私たちは今後も運動を続けていく必要がある。

(7)新型コロナウイルス感染症に襲われる東電の現場

◎原発作業員らのコロナ感染相次ぐ 東電「対策を検討する」
                   毎日新聞 2021/8/20より

 東京電力福島第一原発の作業員や、中間貯蔵施設の業務や除染など環境省発注事業に携わる作業員の間で、新型コロナウイルスの感染が相次いでいる。
 東電や環境省は、現時点で業務の進行に大きな影響はないとしているが、警戒を強めている。
 東電によると、1日当たり約4000人が働く第一原発では、18日までに98人の感染が判明した。
 7月下旬から増加し、8月だけで59人の感染が確認され、東電は全国的な感染拡大の影響とみている。
 これまでにクラスター(感染者集団)の発生はないというが、同じ作業班で複数人の感染が判明したケースもある。
 東電は3日付で社員や協力企業の作業員に対し、県外への不要不急の移動や、家族以外との会食の自粛を強く要請。「引き続き状況を確認し、対策を検討する」という。
 環境省の発注事業では、17日までに作業員79人の感染が判明し、このうち32人の感染が8月に確認された。
 福島地方環境事務所によると、被災家屋の解体などで生じた廃棄物を処理する楢葉町の施設で働く作業員の間でクラスターが発生し、14日までに13人の感染が判明した。同じ車に乗って通勤した際に感染が広がったとみられ、17日から規模を縮小して作業を再開した。
 同事務所の担当者は相次ぐ感染確認について「元請け企業には感染対策の徹底を頻繁に周知しているが、下請け企業まで伝わっているかはわからない。作業員一人一人の行動まで把握するのは難しい」と話した。

◎新潟で最多更新の8人感染 原発でもクラスター
                    朝日新聞8月7日

 新潟県と新潟市は6日、新たに88人の新型コロナウイルス感染を発表した。1日の感染発表数では4日の78人を上回り過去最多。
 いずれも軽症か無症状。感染経路不明は22人。県内の感染者は4395人(実人数。再陽性を除く)。
 県や新潟市によると、新潟市内では7つの会社で計40人の感染が確認された。接待を伴う飲食店での集団感染では客や従業員11人が感染した。
 三条市立栄中学校では5人の感染が判明、15日まで休校する。
 柏崎保健所と南魚沼保健所管内の会社や長岡保健所管内の飲食店でも集団感染が発生したという。
 また、東京電力は、柏崎刈羽原発の協力企業社員8人の感染を発表。うち7人は4日に感染が判明した協力企業社員と同じ会社に勤務する。6号機原子炉建屋の空調設備の工事に従事していた。
 クラスター(感染者集団)が発生したとみられ、東電は7人と接点があった52人を自宅待機にした。
 残る1人は別の協力企業の所属で、特定重大事故等対処施設(特重)建設の屋外作業に携わっていたという。
  (初出:8/21山崎ゼミ資料『柏崎刈羽原発と東電の闇・福島第一原発の危険な現状』より抜粋)
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