[2020_04_21_07]本社や原発でコロナ感染、電力会社が重大局面(東洋経済オンライン2020年4月21日)
 
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本社や原発でコロナ感染、電力会社が重大局面

 新型コロナウイルスの脅威が、電力業界に押し寄せている。
 東京電力では4月20日までに、子会社の役員や社員など8人の感染が確認された。
 東電では、東京電力パワーグリッド(送配電子会社)の品川支社(東京都品川区)に勤務する40代男性の事務系社員の感染確認(4月7日)を皮切りに、13日および14日には、東京都千代田区の本社ビルで勤務していた東京電力フュエル&パワーの40代男性社員および50代男性役員の感染が立て続けに判明。翌15日には東京電力エナジーパートナー(小売子会社)の新宿カスタマーセンター(東京都新宿区)で顧客対応業務に従事していた40代男性社員の感染が明らかになった。18日には、柏崎刈羽原子力発電所(新潟県刈羽村)で防災業務に従事していた30代男性社員の感染も確認された。
 さらに19日には、東電フュエル&パワーで3人目となる60代男性社員の感染が確認されたほか、東電エナジーパートナーの新宿カスタマーセンターでも2人目となる60代男性社員の感染が新たに判明。東電本社ビルでも、東京電力ホールディングスで賠償業務に従事する50代男性の感染確認が明らかになった。本社ビル内で賠償業務に従事する約70人の社員は4月10日から自宅待機(在宅勤務を含む)となっている。

■従来の対策では感染封じ込めが困難に

 東北電力では、東北電力ネットワーク(送配電子会社)の五所川原電力センター(青森県五所川原市)で4月7日および9日に、それぞれ40代男性および50代男性社員1人の感染が判明。感染した社員との接触があった深浦サービスセンター(青森県深浦町)を含む事務所の閉鎖により、58人の社員が自宅待機を余儀なくされている。
 九州電力では、玄海原子力発電所(佐賀県玄海町)の構内で、テロなどの緊急事態に備えるための「特定重大事故等対処施設」(以下、テロ対策施設)の建設工事に従事していた大林組社員(50代男性および40代男性)の感染がそれぞれ4月14日および17日に明らかになっている。
 電力会社は、新型コロナウイルスの感染拡大に対処するため、特措法に基づく指定公共機関として、電力供給継続の任務を担っている。そのため、国内で新型コロナウイルスの感染が初めて確認された翌月の2月頃から対策本部を設置するなど感染防止対策を順次強化し、本社ビルや発電所への社外関係者の立ち入り制限などの感染防止策を講じてきた。だが、各社で相次ぐ感染者の判明は、従来の対策では感染を封じ込めるのが困難であることを物語っている。
 社員や協力会社の社員の感染が判明すると、職場の閉鎖や従業員の自宅待機などの形で業務運営に多大な影響が生じかねない。発電所や電力の需給調整を指図する給電指令所などの重要施設で感染が発覚した場合、電力供給そのものに影響を与えるおそれもある。
 4月20日現在、電力供給に直結する重要施設での感染は確認されていないものの、社内での感染拡大のペースは加速している。すでに職場やフロア単位で大勢の社員が自宅待機を余儀なくされる事例が相次いでいる。

■東電本社ビルの約200人が自宅待機

 特に懸念されるのが東電本社で勤務する社員の相次ぐ感染だ。
 東電では平時に約2700人が勤務していた14階建て本社ビル内で、すでに4人の社員の感染が確認されている。東電は、感染が確認された東電フュエル&パワーの役員や社員が勤務していたフロアを閉鎖して消毒作業を実施。同じフロアで執務していた社員約200人全員を4月10日から自宅待機(在宅勤務を含む)にしている。これまでに感染が確認された同社の3人は打ち合わせなどで顔を合わせていたという。
 3人の役職員は電力供給業務には関与していないものの、本社ビルには、中央給電指令所など電力供給にとっての最重要施設もあり、警戒を怠れない。

 九電の玄海原発では、工事にたずさわるゼネコン社員の感染が明らかになったことで、テロ対策施設の建設工事が中断に追い込まれた。同工事に従事していたのは、九電の社員や協力会社の作業員など約300人。その後、新たに感染者が確認されたこともあり、工事は停止している。
 工事現場は、原子炉建屋から離れていることもあり、原発の稼働そのものに支障は出ていない。とはいえ、工事中断が長期化すると原発の稼働に影響が及ぶ可能性もないわけではない。
 というのも、テロ対策施設は、原発の再稼働に必要な手続きの一つである工事計画認可の取得から5年以内の完成が義務づけられており、再稼働にこぎ着けた玄海原発3号機ではその期日は2022年8月24日。原子力規制委員会が定めたルールにより、対策施設が期日までに完成しない場合、原発の運転を再び停止せざるをえなくなる。
 今般、感染が判明した東電の柏崎刈羽原発の30代男性社員は、原発構内の「事務本館」で防災業務に従事していた。東電によれば、4月16日以降、接触のあった社員5人が「念のための措置」として自宅待機となっている。
 東電と中部電力の合弁会社で、燃料・火力発電事業を運営するJERAは、「感染予防・拡大防止」および「感染拡大後の事業継続」について対策を講じている。その内容は同社のホームページで明らかにされている。
 同社の火力発電所では、運転員以外の社員の中央制御室への入室を禁止しているほか、万が一、運転員の感染が判明した場合に備えて、経験者で構成される代替班の準備体制構築など幅広い対策が講じられている。東電や東北電でも、給電指令など重要業務を担う社員が使用するエレベーターを一般社員のものと別にするといった対策が取られている。
 東電では、福島県内の原発と首都圏の拠点間での社員の行き来を強く自粛するよう指示が出されている。

■脅かされる電力の安定供給

 政府による緊急事態宣言が4月16日に全国に拡大されたことにより、電力各社は全社規模で最高レベルの警戒態勢に移行。電力供給に必要な業務を除く業務の縮小方針を打ち出した。ただ、時差通勤などはすでに始まっているものの、感染リスクの高い電車通勤は依然として続けられている。テレワークも全般に遅れ気味だ。
 そうした中での相次ぐ感染判明は、電力会社の生命線である安定供給が脅かされつつあることを意味している。

岡田 広行 :東洋経済 記者
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