[2020_04_20_02]原子力災害と感染症の拡散が同時発生する懸念 東京電力の汚染水対策を批判する (その1)(3回の連載) 原発での新型コロナウイルス感染症対策は原発災害と感染症蔓延の同時発生の恐怖 山崎久隆(たんぽぽ舎共同代表)(たんぽぽ舎2020年4月20日)
 
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原子力災害と感染症の拡散が同時発生する懸念 東京電力の汚染水対策を批判する (その1)(3回の連載) 原発での新型コロナウイルス感染症対策は原発災害と感染症蔓延の同時発生の恐怖 山崎久隆(たんぽぽ舎共同代表)


1.原発での新型コロナウイルス感染症対策はどうなっているのか

◎ 4月7日、東京などで緊急事態宣言が出される状況となった。
 懸念されるのは原発の安全性だ。
 交代勤務だから、一つのチームに新型コロナウイルス陽性者がいた場合でも、他の当直チームとは分離できていれば良いのだが、交代時間前後には2つの運転班が狭い中央制御室に「同居」し、引き継ぎをしている。
 使う設備も同じだから、2チーム全員が感染する可能性が高い。
 その場合、運転員が足りない原発は当然停止させなければならないが、冷却システムの維持管理など安全管理はずっと継続しなければならない。
 このような想定は保安規定などで規定されているはずだが、詳細は明らかではない。
 各事業者は、感染症対策を含む原発の安全体制について詳細な説明をすべきだし、規制委員会は交代要員の確保を含めて、対策の妥当性について直ちに審査しなければならない。

◎ 今回の事態を受けて経産省は4月7日「新型コロナウイルス感染症対策の基本的対処方針」(新型コロナウイルス感染症対策本部決定)を踏まえて、電気事業法施行規則の一部を改正するとともに、規則に基づく経済産業大臣告示を制定している。(経産省ホームページより)
 実は「感染症対策」と読み取れる対策が国から出されたのはたったこれだけである。
 これ以外には「規制委員会の審査会合の延期、テレビ会議化」くらい。あきれ果てる。
 この中で「4月1日から9月30日までの間に」受けなければならない検査の期限を4ヶ月延長するとし、具体的に「規則第73条の6第1号の規定により使用前安全管理審査を受けなければならない時期」「規則第94条の5第1項第1号、第2号及び第3号並びに同条第2項第1号及び第2号に規定する定期安全管理審査を受けなければならない時期」を定めている。
 これは検査の時期、期間を4ヶ月後ろ倒しにすることを意味する。

◎ 定期検査については今年4月から電気事業法の改正に伴い「定期事業者検査」として電力会社が実施し、規制委員会は立会うこともなく「合否判定」も「了解」もせず、報告を受領し公表するだけになっており、そのうえで期間の延長も行われることになり、数多くの問題を抱えたまま、新検査態勢に突入した。
 しかしながら先にも述べたとおり、原発には安全管理上、無人化することなど出来ない上、運転中に地震などが発生した場合、想像もつかない災害に発展する懸念もある。

2.原発災害と感染症蔓延の同時発生の恐怖

◎ 4月10日、「玄海原発やめよう住民ネットワーク」が玄海原発の原子力災害時の避難計画で「通常の感染症に加え、新型コロナのための対策が必要」と、対応を検討するように求める要請書を佐賀県に提出した。
 原子力災害と感染症について始めての指摘だ。市民側から指摘しなければ誰も動かない、恐るべきことである。
 佐賀県の危機管理防災課担当者は「心配は重々承知している。関係部局と情報を共有し、対応を検討したい」と話したというが、玄海原発は運転中である。
「対応の検討」では間に合わない。

◎ 4月13日、千葉県鴨川市や南房総市は土砂災害の危険が高まったとして、計552世帯に避難指示を出しているが、体育館などの避難所では、「三密」を避けるために大変な状況になった。
 北海道標津町では3月に発生した川の増水に対して2410人に避難指示を出したが、254人が避難した避難所では入り口に消毒液を置き、避難者同士が近づきすぎないよう床にテープを貼ってスペースを区切ったという。「普段以上に気を使い、人手もかかった」と担当者は当時を振り返っている。(日本経済新聞4月13日より)

◎ 原子力防災と感染症対策は両立しない。3.11当時を振り返ると明らだが、当時の避難所の状態で新型コロナウイルス感染症が発生したら避難者のほぼ全員が感染し、医療崩壊の中で外からの救援もなく大勢死ぬだろう。
 これもまた「原発災害関連死」である。すなわち原発災害は絶対に起こしてはならない。
 日本で緊急事態宣言中は、全ての原発を止めて最低限の人員で安全管理が可能な状態にするべきである。(その2)に続く
     (初出:月刊「たんぽぽニュース」2020.4発行No292)

3.福島第一原発での新型コロナウイルス対策

 福島第一原発においても感染症対策を実施しているが、具体的な感染防止対策の方法と、万一ウイルス感染が発見された場合の対策については、具体的に何をするかは明らかになっていない。
 現在、福島第一原発では、感染拡大で事故が起こらないためとして原則、東京圏からの社員の異動を行わないなどの対策を取っていると報じられた。
 人事異動で4月1日に発電所に配属された社員は、別途用意した執務スペースで働くなどの対策を取っているという。
 核燃料冷却や汚染水の処理を担う当直員(一般の原発では運転員に相当するのだろう)に対しては、専用の通勤バスを設けたり、移動ルートや出入り口を分離したりして、それ以外の社員や作業員との接触を避ける対策を取っている。
 現時点では放射線防護のために使用しているマスクや防護服などの装備は調達先を工夫し、必要量を確保しているとしている。
 だが協力企業(元請け、二次以降の下請け)についても同様とは到底思えない。その対策は明らかではない。
 既に東電グループの一つ東電フュエル&パワーと東電パワーグリッドの社員で感染が確認されている。市中感染が拡大している中で、福島第一原発にも広がる危険性は少なくない。この対策も明らかにされるべきである。

4.迷走する汚染水対策

 東京電力は3月25日付けで「多核種除去設備等処理水の取扱いに関する小委員会報告書を受けた当社の検討素案について」という文書を作成しているが、この文書の位置づけが分からない。
 「どのような処分方法であっても、法令上の要求を遵守することはもちろんのこと、風評被害の抑制に取り組む」としているが、その処分方法は「大気放出」「海洋放出」の二つしか書かれていない。
 このページ以降はいずれも「放出」前提の対策のみ記述されている。東電は放出以外の方法を検討していない。
 言うまでもなく地元をはじめ多くの人々が求めているのは放出しないで長期保管である。
 素案では小委員会報告を受けるとして「2011年12月から30〜40年での廃止措置終了時においては、ALPS処理水についても処分を終えていることが必要であり、貯蔵継続は廃止措置終了までの期間内で検討することが適当」について「処分内容の検討(基本的考え方)」として「一度に大量に放出せず、年間トリチウム放出量は、既存の原子力施設を参考とし、廃止措置に要する30〜40年の期間を有効に活用する」との繋がりと読み取れる。
 しかし廃炉が40年以内に完了するとの見通しは立っていないから、この前提で検討を進めること自体がミスリードだ。
 考え方を変える必要があるのだが、この前提で進めることの実現可能性について具体的かつ実証的に説明することが先である。
 ありもしないゴールを想定して放射性廃棄物の放出を正当化することなど許されない。

5.海洋放出を既成事実化

 同文書において東電は「海洋放出の場合」として「海水中のトリチウムの告示濃度限度(水1リットル中60,000ベクレル)に対して、「地下水バイパス」及び「サブドレン」の運用基準(水1リットル中1,500ベクレル)を参考に検討する」としている。これを前提として計画した結果の各種データが記述されていると考えられる。
 これであれば改めて福島県との間で安全協定等を作成する必要はないと考えているのだ。しかしこれでは総量が極めて多くなる。

 現在の総量を排出するとした場合、単純計算で年間放出総量860兆ベクレルは管理目標値(22兆ベクレル)を超えると考えられる(860÷38年は約22.6兆ベクレル、860÷30年は約29兆ベクレル)。
 管理目標以内での排出を前提として、時間減衰を考慮した結果「40年以内に全量排出」という計算をしたのだろうか、明確ではない。
 しかしながら福島第一原発では2010年以前には年間2〜3兆ベクレルの総排出量だったから、管理目標値の十分の一だったことは明記しておかなければならない。
 なお、水でデブリを冷却し続ける限りトリチウム汚染水は追加で発生するため、総量860兆ベクレルも確定値ではない。
 時間減衰(10.3年で半減)を考えるのであれば、40年間貯蔵しつつ、残っていくトリチウムをカナダ等の技術で濃縮する方法で排出しなくても総量を減少させることが出来る。
 何が何でも放出、ではなく、あらゆる手段を総合的に動員して、放出しなくても体積を減少させることが可能であることも考えなければならない。

6.こっそり放出の準備作業を進める東京電力

 同文書には「すでに、通常の汚染水処理計画への追加や二次処理後の処理水を受け入れるタンクの準備など、二次処理に必要な検討を開始」との記述がある。
 既に放出作業に向けた準備を行っている。これは大きな問題である。 東電は、地元をはじめとして同意形成などされていないのに、一方的に準備作業に入っている。
 つまり2020年末で貯水容量が137万トンに達し貯蔵量の限界になるので、時間切れになると考えているのだろう。これは海洋放出への既成事実化である。
 今まで多くの問題で散々行われてきた「時間切れ見切り発車」を許さず、排出を認めない取り組みが必要だ。

7.「リスクコミュニケーション」とは何をする場か
  様々な立場の意見を主張する場を設ける必要

 同文書に「小委員会の報告を受けて(風評被害対策)」として書かれている内容は、「トリチウムは安全」との前提に立っている。
 もっとも、「海洋放出、水蒸気放出のいずれも放射線による影響は自然被ばくと比較して十分に小さい」との記述はあいまいで、「安全」との趣旨ではないと東電が反論しそうだが文脈からそのように受け取られる。
 しかしながらこれは非科学的な姿勢であり、トリチウムの危険性については現在の知見でも、ICRPの見解より大きいとの指摘が多くある。
 「今後のコミュニケーションの取組」においては海洋放出等を前提とし、安全性の主張と「風評被害対策」をベースとして実施されるように読み取れるが絶対に認めることは出来ない。
 これでは一方的な東電の安全宣伝をおこなう場でしかない。安全神話の押しつけをするのではなく、今必要なのはトリチウムの影響や懸念等、あるいは長期貯水保管やモルタル固化貯蔵等の対案についても意見を数多く聞き、検討に取り入れることだ。
 従って、様々な立場の意見を主張する場を設ける必要があると考える。
 過去にも実施した意見交換会を広く市民の参加を募って実施すべきだ。
 特に東電管内の東京など都市部と、地元福島県及び影響を受ける周辺自治体で実施することが必要だ。
      (初出:月刊「たんぽぽニュース」2020.4発行No292)

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