[2023_12_13_04]福島を犠牲にする 処理水海洋放出のごまかし(毎日新聞2023年12月13日)
 
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福島を犠牲にする 処理水海洋放出のごまかし

 7:30
 東京電力福島第1原発事故の処理水海洋放出を巡り、政府は最後まで福島の漁業者に「決めさせる」構図を作り、責任を転嫁した――。北海学園大学教授の濱田武士さんはこう言います。
 本来の責任をあいまいにするやり方が続いているのではないか。濱田さんと考えました。【聞き手・須藤孝】

 ◇ ◇ ◇ ◇

 ◇いつも最後は漁業者

 ――海や河川が関係する開発を巡っては最後に漁業者に判断を迫る構図があると指摘されています。

 ◆漁業権があるので漁業者の理解が得られないと開発ができないのはその通りです。けれども最後に漁業者の了解を得たから、という形で決められてしまうことが繰り返されてきました。

 これは海洋放出に限りません。福島も含めて原発立地の時も、火力発電所の立地の際もそうです。

 ――実際には漁業者だけの問題である場合はまれです。

 ◆原発が典型的ですが、事故が起きた時の被害者は漁業者だけではありません。

 なのに漁業者にばかり判断の責任を負わせるやり方が続いています。

 ――政府は風評被害対策には力を入れています。

 ◆ストーリーが問題です。科学的に安全なのだから、買わないという消費者の行動を抑えればよいという前提です。

 すりかえがあります。責任が消費者にあるかのような言い方は、そもそもの事故の責任をあいまいにします。
 どうしても安全神話の話と重なります。仮に海洋放出が安全だったとしても、原発政策を推し進めてきた責任はどうなるのか。安全ならばいいのか、ということです。

 ◇関係者を限定できるから

 ――海洋放出を選択した理由は関係者を限定できるからだと指摘されています。

 ◆政府の「トリチウム水タスクフォース」(2013年12月設置)と「多核種除去設備等処理水の取り扱いに関する小委員会」(16年9月設置)のとりまとめをみると、海洋放出がもっとも影響が小さく、風評被害の範囲を福島県近辺の漁業や観光業に限定できるとしています。

 つまり、「反対するのはあなたたちだけだ、あなたたちさえOKすればできるのだ」という形を作れるから海洋放出だったのです。
 ぎりぎりまで、「約束したから関係者の理解なくしてはやりません」と言い続け、最後に「一定の理解を得た」と言って突破するのです。
 私はこれは漁業者への責任転嫁だと思います。

 ◇漁業者を苦しめる

 ――この構図は漁業者に大変な苦しみを与えます。

 ◆反対している漁業者が最後に苦しくなって容認するストーリーがあります。

 漁業者は、国からは受け入れないと国益に協力しないのかと脅されます。一方で受け入れると環境団体などから屈服したと批判されます。
 どの選択をしても双方から圧力がかかり、つらい思いをします。
 漁業者がいつも矢面に立たされ、内部でも分断が起きるのです。

 ◇雑な発展をしてきた

 ――なぜ福島に東京電力の原発があるかと言えば、もともと、事故が起きた時に被害者を限定するためです。

 ◆それでいつまで続けられるかということです。開発と犠牲の問題は地域に落としていくとよく見えてきます。

 お金が配られて、いい道路ができた、施設ができて良かったという部分があることは否定しません。
 しかし失われたものを見ずに同じことを続けていいのでしょうか。
 沖縄の米軍基地も各地のダム開発もみな同じです。日本にこの構造があることは国民も政治家もみな見つめる必要があります。

 ――海洋放出もまったく同じです。

 ◆経済的強者と弱者が取引をして、リスクは弱者に負わせる。

 リスクが現実になった時にみなでカバーするのではなくまた同じ弱者におしつける。
 いつまでたっても弱いところにリスクを押しつけ続けるということです。
 なぜ海洋放出の理由に廃炉プロセスが持ち出されるのか。なぜ廃炉が進まないのが福島の漁業者の反対のためであるかのようなストーリーが作られるのか。福島の漁業者への威嚇です。
 廃炉に力を入れるべき政府と東電の責任があいまいにされています。

 ――腐敗した構造です。

 ◆日本は発展の仕方が雑です。文句を言うやつは金をやって黙らせろというやり方です。

 以前よりは随分、丁寧になりましたが構造は変わっていません。
 東電が悪い、岸田(文雄首相)さんが悪い、政治家が悪いなど、「一部の悪者」のせいにするのはよくありません。この構造が見えなくなるからです。
 全体として考えることが大切です。(政治プレミア)
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