[2023_12_12_01]COP28で「原発3倍増」宣言 世界を危機に陥れる宣言の内容とは 米国の提案…賛成22カ国(COP28参加国は約200) (「再生エネルギー3倍」の誓約は118カ国) 山崎久隆(たんぽぽ舎共同代表)(たんぽぽ2023年12月12日)
 
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COP28で「原発3倍増」宣言 世界を危機に陥れる宣言の内容とは 米国の提案…賛成22カ国(COP28参加国は約200) (「再生エネルギー3倍」の誓約は118カ国) 山崎久隆(たんぽぽ舎共同代表)

 1.COP28で、「原発3倍増」宣言の奇怪さ

 国連気候変動枠組条約第28回締約国会議(COP28)がアラブ首長国連邦のドバイで11月30日から12月12日の日程で開催されているが、2日に突如として、「2050年までに、原発3倍増宣言」と謳った文章が発表された。
 提案したのは米国。全世界の原発設備容量を2020年比で今の3倍にするという。
 宣言では温室効果ガス排出量を実質ゼロにする目標達成のためには、原発技術は必要不可欠だとし、石炭火力に代わる理想的な解決策に次世代型原発「小型モジュール炉(SMR)」技術の利点を強調している。
 しかしこれには「グリーンウオッシュ」であると批判が高まっている。
 すなわち、原発は事故の可能性が高く危険なうえに経済合理性に欠け、さらにウラン採掘から運転、廃炉、核燃料の処分に至るまで環境を汚染する。
 さらに核兵器技術の拡散、事故や戦争での核物質の放出により世界の安全を一段と危険にさらし、核戦争や放射性物質を使う兵器の使用で甚大な被害が発生する可能性が高まる。
 また、核の全工程で人権をも侵害し、特に原発建設に反対する住民に対しては、多くの政府は暴力で対処する。
 COP28で22カ国が賛成した宣言文を読めば、原子力推進側が何を問題としていて、どのような方法で原子力を進めようとしているのかが垣間見えてくる。その視点で文章を解読する。

 2.署名参加22カ国はどういう国か

 署名した「参加国」の顔ぶれを見てみよう。
 米国、ブルガリア、カナダ、チェコ、フィンランド、フランス、ガーナ、ハンガリー、日本、韓国、モルドバ、モンゴル、モロッコ、オランダ、ポーランド、ルーマニア、スロバキア、スロベニア、スウェーデン、ウクライナ、アラブ首長国連邦、および英国だ。
 この22カ国のうち核兵器保有国は3カ国、既に原発を保有する国は17カ国、保有していない国が5カ国である。その5カ国とは、ガーナ、モルドバ、モンゴル、モロッコ、ポーランドである。
 また、スロベニアとスロバキアは古い旧ソ連製原発があるが、安全性に懸念があり、廃炉も近いと見られるが、建て替えるためには巨額の資金が必要で、その調達先が問題となる。
 ポーランドは日本も建設計画に参入しようとしていたが失敗し、現在は米国ウエスチングハウスのAP1000を6基建てる計画である。
 しかし資金調達と環境影響評価を巡り計画が大きく遅れている。
 そうした各国の事情を含んでの宣言文であることを読み取る必要がある。

 3.二酸化炭素排出対策としても原発に優位性はない

 宣言文では「今世紀半ばまでに温室効果ガスの排出量実質ゼロ・カーボンニュートラルを達成し、気温上昇の1.5度C制限を手の届く範囲に維持し、持続可能な開発目標を達成する上で」原発の増設が必要だとする。
 根拠らしきところは、「OECD原子力機関及び世界原子力協会の分析」「気候変動に関する政府間パネルの分析」「国際エネルギー機関の分析」等を挙げる。
 しかし原発のライフサイクル全体では高効率天然ガス発電の二酸化炭素排出力と遜色がないほど多いことは既に明確になってきている。
 特に事故により長期運転停止した場合、その間の代替発電や補修、改修にかかる排出量を組み込むと逆転することは容易に想像がつく。
 福島第一原発の二酸化炭素抑制量と、事故後の膨大な汚染物の除染や廃炉にかかる長期間のエネルギーロスを考えれば、一体何倍の二酸化炭素排出量に相当するのか、計算してから主張するべきだ。(凍土壁だけで1.25万世帯、3万人都市の電力消費量に匹敵)

 4.ネックとなるのは資金とサプライチェーン

 参加国の「確約」にはどのようなことが記載されているのだろうか。
 「原子力投資に革新的な資金調達メカニズムを含めて結集することを確約」と「原子力発電所が全ライフサイクルにわたって使用する安心・安全な技術のために、核燃料を含む強靭なサプライチェーンを推進」で、資金調達とサプライチェーンの維持に大きな問題があることが明らかになっている。
 原子力開発には巨額の初期投資が必要であり、さらに運転を継続するには核燃料を含むサプライチェーンの維持にも費用がかかる。
 それも、事故を起こさないように、高い技術的を有する企業グループがメンテをする必要がある。こうしたシステムを有していて他国に供給できるのは米国やフランスのような核兵器国だけだ。
 結果、原発を導入する国は、資金的協力も技術の提供もメンテナンスも、加えて核燃料の供給も全て、原発供給国のコントロール下に置かれる。
 原子力植民地体制に組み込まれていくことになる。自由と民主主義の対極にエネルギー政策が置かれるのだ。

 5.老朽炉の延命が特記される異常さ

 「技術的に実行可能かつ経済的に効率的である場合には、安全性、持続可能性、セキュリティ及び不拡散の最も高い基準に沿って運転される原子力発電所の寿命を適切に延長することの重要性を認識」と、わざわざ老朽原発の延命が主要な課題として記載されている。
 老朽原発は潜在的危険性が高く、安定的な運転もできない場合が多い。
 福島第一原発事故の教訓もそこにあり、旧ソ連製原発の安全性が国際問題になったことを忘れたのか。
 チェルノブイリ原発事故について「あればソ連の原発だから」という昔の安全神話の復活だ。
 そんな原発が世界中で多数稼働していたら、確率的に重大事故を起こす可能性も高まる。
 必ずしも安全に投資し続ける国ばかりではないのに、老朽炉を無理矢理動かさなければならない事情は、新規原発の建設に巨額の費用がかかることも影響している。
 日本であったように、一定年限に一定数の原発を動かすには、老朽炉に頼らざるを得ないということだ。
 本末転倒と言うべきことである。

 6.地震や津波に加え、近年は洪水や旱魃

 原発の「最大の脅威」自然災害は、日本では地震と津波と火山だが、世界では洪水や旱魃もまた、原発を危険にさらしている。
 日本の地震などよりも発生頻度が高く、連続して襲いかかるという特徴もある。
 旱魃の影響では、2022年のフランスを特記すべきだ。「猛暑で原子炉を冷やせない事件」が発生したのは7月。
 ローヌ川とその支流で原発の約4分の1の冷却水を賄っている。旱魃と猛暑の影響で、ローヌ川の温度が上昇、原発が止まった。
 原発は取り込んだ水で原子炉の熱を捨てるが、発電に寄与する熱量の倍を捨てている。原子炉の原理的制約だ。
 川の水は海ほど豊富でもないため、水温が高いと下流が高温になりすぎ、川の生態系を破壊する。それを防ぐには停止するしかない。同時に旱魃で水がなくなれば冷却水喪失にもなりかねない。
 フランスの原発はこの時期、発電量が半減してしまった。同じことは米国のテネシー川、そして沿岸部でさえ起きている。
 これに加えて洪水が追い打ちをかけている。
 2011年6月の米国、ミズーリ川沿いに建つフォート・カルフーン原発の敷地内は茶色く濁った水に覆われ、今にも建屋が浸水しそうに見えた。
 福島第一原発事故が起きて3ヶ月、米国でもあわや全電源喪失からメルトダウンする恐れがあった。こうした洪水は近年増えている。
 「温暖化対策で原発」は、「気候変動対策」としても成立しなくなったのである。 (12月8日発行「たんぽぽ舎金曜ビラ」より転載)
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