[2023_11_29_04]東海第2事故でシミュレーション公表 知事「避難計画完成目指す」(東京新聞2023年11月29日)
 
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東海第2事故でシミュレーション公表 知事「避難計画完成目指す」

 08時00分
 日本原子力発電東海第2原発(茨城県東海村)の重大事故で、最大17万人が避難するというシミュレーション結果を受け、大井川和彦知事は28日、再稼働の前提となる広域避難計画の実効性向上に役立つとの見解を示した。一方、周辺自治体の首長からは、慎重姿勢とも取れるコメントがあった。(竹島勇、長崎高大)


避難者が最大の約17万人となる予測結果。南西(水戸市方面)が風下で降雨も長時間続いたとの想定で、青い部分で空間放射線量が毎時20マイクロシーベルトに達する。緑は海抜を示す(県の資料より)

 大井川知事は28日の会見で「(原発から30キロ圏内に住む)92万人が同時に避難することはないと明らかになった。県は周辺市町村と一緒に避難計画の完成を目指す」と述べた。
 今後の対応について大井川知事は「(避難などに)必要な車両の数などを市町村と調整する」と語った。また、大井川知事が判断する再稼働の可否には「シミュレーションの結果は関係がない」と話した。
 一方、30キロ圏内で最大の人口を抱える水戸市では、市の避難計画策定の見通しが立っていない。シミュレーションでは北東部の一部地域だけが避難対象とされたが、高橋市長は「検証する風向きを増やしたり気象データを変えれば、数キロ程度の差は生じると考える。結果をよりシビアに受け止める必要がある」とコメントを出した。
 さらに避難計画に触れ、「市内全域が一時移転(避難)する可能性があるという認識のもと、全市民分の避難先を確保し、全地域の避難計画を策定していきたい」と表明した。公表前の27日の会見ではシミュレーションに「計画策定の材料にはなる。どう生かしていくかはこれから検討していく」と触れていた。
 東海第2原発が立地する東海村。山田修村長は24日の会見で「村は全域が原発から5キロ圏内なので、何かあればシミュレーションを見るまでもなく即時避難することになっている」と語っていた。
 村は、年内に避難計画をまとめようと作業を進めている。山田村長は「事故時に退避する人の検査所をどこに置くかなど、効率的、効果的に体制を整えるという面では意義のあるシミュレーションだと思う」と評価しつつ、避難計画の検証に活用できるかどうかは「県が具体的にどう活用するかは聞いていないので、県の動きを見たい」と述べるにとどめた。

 ◆「再稼働の意図見える」元技術者、予測の有効性に疑問

 日本原子力研究開発機構の研究主幹として原子炉の安全性に関する仕事に携わり、東京電力柏崎刈羽原発の安全性を議論する新潟県の技術委員会委員だった鈴木元衛氏は、シミュレーションを「『30キロ圏内まで避難する事故は考えにくい。だから東海第2原発の再稼働は可能だ』という原電の意図が見える内容だ」と批判した。
 鈴木氏はまず「溶け落ちた核燃料への注水による冷却の有効性は確実なものではない。放射性物質の外部放出量の予測には不確かさを伴う。30キロ圏内で済む事態を超える可能性も否定できない」と、計22通りのシミュレーションのうち、被害が大きく出るパターンの条件設定を問題視した。
 被害が大きくなるパターンについて、原電は公表した資料の中で「工学的におよそ考えにくい」と繰り返し前置きしている。鈴木さんは「事故は現実には起こりえないというニュアンスを感じる。原電が想定する特定の事故条件以外にも起こり得るシナリオは複数あるはずで、それらを詳細に分析することが必要だ」と指摘した。
 また、原発事故の避難に詳しい環境経済研究所(東京都千代田区)の上岡直見代表は「福島第1原発事故では考えにくいことが実際に起きた。防災の思想は『最悪想定』が基本なので、工学的に考えにくいというシミュレーションも(対策から)除外してはならない」と強調した。

 ◆「被害を少なく見せるやり方」原告団代表

 東海第2原発運転差し止め訴訟の住民側原告団共同代表、大石光伸さんは「福島第1原発事故と比べても、放射性物質の放出量が圧倒的に低く抑えられた想定になっている。県の条件指定を利用して被害を少なく見せるずるいやり方だと思う」と批判した。
 避難計画の実効性検証に活用する県の方針について大石さんは「事故がこの程度で済む確証はなく、これをもとにした検証は無理だ」と言い切った。
 訴訟では2021年3月、水戸地裁で「実効性のある避難計画や防災体制が整えられているというには程遠い状態」と、東海第2原発の運転を差し止める司法判断が出されている。
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