[2023_11_20_06]受刑者によるホタテの殻むき 中国禁輸への秘策、一転断念の裏側(毎日新聞2023年11月20日)
 
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受刑者によるホタテの殻むき 中国禁輸への秘策、一転断念の裏側

 07:00
 日本産ホタテの殻むきなどの加工業務を受刑者の刑務作業に加えよう――。中国による禁輸措置で打撃を受けた国産ホタテの事業者支援として政府が10月に検討した「秘策」は、急ピッチで具体化が進んだが、約2週間で一転断念した。米国など想定するホタテの輸出先には、受刑者の労働による産品を輸入できない制度があったためだ。それならば、なぜ検討したのか。背景を追った。

 発端は萩生田氏の一言

 話の発端は、自民党の萩生田光一政調会長の一言だった。10月14日の札幌市での講演で、受刑者の刑務作業としてホタテの加工ができないかとの趣旨の発言をしたとされる。
 ホタテは、8月の東京電力福島第1原発の処理水の海洋放出を受けて中国が始めた日本産水産物の全面的な輸入停止で大打撃を受けている。
 農林水産省によると、中国向けの水産物輸出額(2022年)は国・地域別1位の871億円で、中でもホタテは489億円の重要な品目だ。
 ホタテの生産量51・2万トンのうち中国向けは14・3万トン。このうち9・6万トンを占める殻付きの冷凍ホタテの約4割は中国で加工した後、米国に出荷されている。殻付きホタテの対中輸出が多いのは、国内では加工する人手が足りず、人件費が高いためだ。主産地の北海道では禁輸に伴い冷凍庫に在庫が積み上がった。

 急ピッチで進んだ検討

 事態を打開しようと、政府は日本から直接米国などに輸出する方針を打ち出した。ホタテ事業者向けに、殻むき機の導入費や人件費の補助を決めた。それゆえ、萩生田氏の発言にも「政調会長の一言は重い。人手が少しでも確保できれば」(農水省幹部)などとすぐさま反応し、農水省と法務省で検討が始まった。
 刑務所内での加工は、輸出に必要な食品衛生管理の国際基準「HACCP(ハサップ)」を満たさない。このため、受刑者を加工場に派遣することを想定するなど話は具体的に進んだ。
 受刑者が刑務作業として工場で働くことは広くは知られていない。法務省によると、仮釈放の決定など収容生活の中で一定の要件を満たした受刑者は、刑務官らの同行なしに刑務所外の民間事業所に通勤して作業することができる。22年度には全国5施設6事業所で28人が従事し、北海道でもトマトジュースの加工場に通勤して製品の箱詰めなどをした。
 このため、ホタテの殻むきも新たな法整備などのハードルはなく、検討は順調に進んだ。10月18日には法務省の局長2人と農水省幹部らが萩生田氏に経緯を説明した。農水省幹部は「受け入れ業者と住民の理解が大事。手を挙げてくれる事業所があれば調整したい」と語った。
 一連の動きを取材していた記者は、同日夜、毎日新聞のインターネットサイトに速報の原稿を出した。「刑務所外での派遣作業などの仕組みが活用可能か検討を始めている」。20日には宮下一郎農相が閣議後の記者会見で認め、小泉龍司法相も「まさに今、検討中だ」と応じた。

規定に驚いた農水省

 ところが、数日後に事態は一変した。…(後略)
KEY_WORD:処理水放出_中国_水産物_全面禁輸_:FUKU1_:汚染水_: