[2023_10_22_01]一度に出せるのは「耳かき1杯」…福島第1原発のデブリ取り出しが準備段階で直面する「想定外」(東京新聞2023年10月22日)
 
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一度に出せるのは「耳かき1杯」…福島第1原発のデブリ取り出しが準備段階で直面する「想定外」

 06時00分  
 東京電力福島第1原発事故で、2号機原子炉内に溶け落ちた核燃料(デブリ)の取り出しが、大幅な計画見直しを迫られつつある。取り出し試験用に開発したロボットアームが、現場で使えない恐れが出てきた。事故収束で最難関とされる作業は、準備段階で「想定外」の壁にぶつかった。(渡辺聖子)

 ◆アームが入らないかもしれない

 10月16日朝、2号機の原子炉格納容器内につながる直径約55センチの横穴の扉が全開すると、内部は灰色の堆積物で埋め尽くされていた。計画では、2023年度後半に横穴からアームを入れ、遠隔操作で数グラムのデブリを取り出す。
 この計画はまず、扉を開けるのに手こずった。扉を留めていたボルト24本のうち、15本が固着して外れない事態が発生。ドリルでボルトと扉を一緒に削り、全て抜き取るまでに約4カ月かかった。
 ボルト固着は、新たな懸念も生んだ。扉の先を埋める堆積物も同様に固まっているかもしれない―。そうなると、横穴ぎりぎりの大きさのアームが入らない可能性が出てきた。

 ◆「釣りざお」でOK? でも被ばくの恐れ

 長さ約2メートルの横穴にある堆積物は、事故前にあったケーブル類が事故時に熱で溶けたものとみられる。東電は今年末ごろに高圧の水で堆積物を押し流し、アームの通り道をつくる計画だが、固まって流せない場合の対処として新たな装置の検討を始めた。
 装置は、伸び縮みする直径20センチほどの棒。先端にデブリの採取機器を付け、格納容器の底部までつり下ろす、釣りざおのような仕組みだ。2019年の炉内調査でも使い、デブリとみられる堆積物に触れたという「実績」もある。
 ただ、アームよりも動ける範囲が狭く、格納容器内の状況把握が限られる。扉の外側で作業員が装置を設置する必要があり、高い放射線量の現場ゆえ被ばくが避けられない。
 アームの使用断念とも映る装置の浮上に、東電福島第1廃炉推進カンパニーの小野明・最高責任者は記者会見で「あくまでも補完。メインはアーム。やれることはやっておきたい」と強調した。

 ◆「取り出し開始」が2年遅れ、完了への道筋は

 デブリの取り出し開始は、アームの開発に時間がかかり2回延期し、当初予定の「21年中」から2年以上遅れている。現工法の準備と同時並行で新装置を開発し始めた東電には、焦りがにじむ。
 デブリは2号機だけではなく、1、3号機にもある。総量は推計約880トン。アームで一度に取り出せるのは耳かき1杯程度で、この方法で廃炉完了目標の51年までに全てを取り出すことは不可能だ。3号機では建屋全体を水没させるなどの案が浮上するが、構想段階にとどまっている。
 東電は8月に汚染水を浄化処理した水の海洋放出を開始。処理水の貯蔵タンクを減らし、跡地にデブリの保管施設を造ると放出の必要性を説いてきた。しかし、施設が必要なほどの量のデブリを取り出せるのか。事故から13年が近づく中でも、道筋は描けていない。

 2号機のデブリ取り出し用ロボットアーム
 遠隔操作でデブリを回収するロボット。アームは伸縮式で最大長さ約22メートル。先端に付けた金属ブラシなどでデブリを回収する。格納容器内部への横穴を通る際は、周囲に3センチしか余裕がない。国の補助事業の一環として国際廃炉研究開発機構(IRID)、三菱重工業、英国企業が2017年4月から共同開発。一部国費が投じられたが、IRIDは「契約の詳細は非公表」として事業費を公開していない。
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