[2023_09_24_03]処理水放出1カ月 風評「影響ない」福島安堵(東京新聞2023年9月24日)
 
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処理水放出1カ月 風評「影響ない」福島安堵

 06時00分
 東京電力福島第1原発の汚染水を浄化処理した水の海洋放出開始から24日で1カ月。懸念された風評被害は目立って確認されておらず、福島県内の漁業者は胸をなで下ろしている。一方、放出後に日本産水産物の全面的な輸入停止に踏み切った中国との対立の出口は見えず、中国向けに水産物を輸出していた業者への打撃は拡大している。(片山夏子、渡辺聖子)

 21日午前8時、福島県相馬市の相馬原釜(はらがま)地方卸売市場は、多くの仲買人で活気に包まれていた。ヒラメ、マダコ、ガザミ、フグ…。取れたての魚介類がずらりと並び、真剣な表情で次々と入札していった。
 「放出後も大きな影響はなく、魚の価格は変わらない。中には福島県産より他県産を選ぶスーパーもあるが、放出前の状況とそれほど変わらない」。地元仲買の男性(57)は安堵の表情を浮かべた。
 相馬双葉漁業協同組合の今野博文販売部長(41)も、買い控えや価格下落など放出前に心配していた事態は現時点で起きていないと説明。「シラスなどでスーパーとの年間契約がある中、問題が起きたらどうするんだという心配もあったが、今のところ順調。若干の値崩れが起きても市況変動の範囲内。このまま続いてくれれば」と願う。
 同県いわき市では、ふるさと納税の寄付が1日平均430件と従来の10倍以上に急増。市によると、大半の人が返礼品に地元海産物や地元業者の水産加工物を選んでいる。
 いわき市漁協の新妻隆専務理事(64)は、日本の水産物を応援する輪の広がりを感じている。「国内の消費者に感謝。いいものはいいと評価され、漁業者のやる気は上がっている。この先は分からないが、今後もこれまで通り品質の高い水産物を届けたい」

 ◆一方で…中国禁輸、漁業者の打撃拡大

 影響が深刻化しているのは、中国への輸出に依存してきたホタテやナマコ業者だ。
 中国は水産物の最大の輸出先で、昨年の輸出額は836億円(真珠を除く)。そのうち、6割近くを占めるホタテは行き場を失い、冷凍保管が増える。一大産地の北海道では、保管場所の不足を懸念する声が出ている。
 「冷凍保管しているホタテが輸出できず、冷凍庫に余裕がない」「在庫が抱えられず、別の倉庫に運ぶと輸送コストがかかる」。北海道庁の担当課には事業者からの切実な訴えが後を絶たない。国は保管費用を負担する策を打ち出したが、全量買い取りを求める声もあるという。

 ◆北海道のホタテ 行き場なく

 出荷先を確保できないとして、漁そのものを停止する動きも出ている。
 ホタテに次いで中国に輸出されているナマコ。中国と香港で輸出額の約9割を占める。中華圏では高級食材だが、青森県の担当者は「多くの国で食べる文化がないので、新規の販路開拓は難しい」。
 同県の横浜町漁業協同組合は、10月から予定していた大規模な漁を見合わせる。漁協の小川伸一参事は「売れなければ水揚げできない。われわれではどうにもできず、先行きも見えない。東京電力に賠償してもらうしかない」と悲愴感を漂わす。
 風評被害への賠償を担う東電は、10月2日から請求の受け付けを始める。8月31日時点で全国から135件の問い合わせがあったという。

 福島第1原発の処理水の海洋放出
 1〜3号機内の溶け落ちた核燃料(デブリ)の冷却作業で発生する汚染水を「多核種除去設備(ALPS)」で浄化処理した水を沖合約1キロの海底から放出する。処理水にはALPSで除去できない放射性物質トリチウムが残っており、大量の海水を混ぜてトリチウム濃度を国の排水基準の40分の1未満にした上で海へ流す。8月24日に放出が始まり、東電の計画では完了までに30年ほどかかる見通し。

 ◆2回目の放出、9月末にも

 東京電力福島第1原発では、早ければ今月中に始まる2回目の処理水の海洋放出に向けた準備が進む。東電は次に放出する処理水について、浄化処理で取り除けないトリチウム以外の放射性物質の濃度が、放出の基準値未満だったと公表した。
 トリチウム以外で測定対象となる放射性物質29種類は、国の排水基準に対する濃度の比率をすべて足し合わせて1未満になっていることが放出基準。測定結果は0.25だった。トリチウムは1リットル当たり14万ベクレルで、放出基準の同1500ベクレル未満となるよう大量の海水と混ぜてから海へ流す。
 初回の放出は8月24日〜9月11日に実施。原発周辺の海水や魚に含まれるトリチウム濃度測定では、東電が検出下限値を1リットル当たり10ベクレルに設定した測定で、放出口から200メートルの地点で同10ベクレルを検出。下限値を同0.4ベクレルにした詳しい測定では、原発から3キロ圏内の7地点で同0.43〜2.6ベクレルを検出した。東電は環境や人への影響について「問題はない」としている。
 環境省と福島県、水産庁の測定はいずれも検出下限値を同10ベクレルに設定し、すべて下限値未満だった。
 本年度は処理水3万1200トンを4回に分けて放出する計画で、2回目も初回と同じ約7800トンを予定している。(渡辺聖子)
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