[2023_09_16_03]史上最も暑い夏だった…なのに電力逼迫しなかったわけとは 原発再稼働は本当に必要なの?<ニュースあなた発>(東京新聞2023年9月16日)
 
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史上最も暑い夏だった…なのに電力逼迫しなかったわけとは 原発再稼働は本当に必要なの?<ニュースあなた発>

 06時00分
 今年の夏は本当に暑かった。「それなのに、なぜ政府から電力需給逼迫注意報が1度も出なかったのか」。こんな疑問が本紙読者から「ニュースあなた発」に寄せられた。
 観測史上最も暑かった東京の夏に電力不足はあったのかどうか、探った。(砂本紅年)

 ◆「節電にご協力いただけた」

 電力の需要に対して、供給にどれだけの余力があるか、政府は「予備率」という指標を用いている。前日に広域予備率が3%未満となった場合、経済産業省が「警報」を発令。予備率3〜5%になったときには「注意報」を発令する。
 政府が6月の時点で示した東京電力ホールディングス管内の予備率は「10年に1度の猛暑」を折り込み、7月が3.1%、8月も4.8%となっていた。いずれも安定供給に最低限必要とされる3%をわずかに上回る程度の想定。政府は東京エリアにのみ、7〜8月を対象に企業や家庭に節電要請を出した。
 実際、都心は今年、8月全ての日で最高気温が30度以上の真夏日を記録した。1875年の統計開始以来初めてだ。
 さらに35度以上の猛暑日も22回と、昨年の最多記録16回をはるかに上回り過去最多を更新。9月も全国的に厳しい残暑が続いている。
 にかかわらず、節電要請の期間中、電力需給逼迫の「警報」も「注意報」も発令されることはなかった。
 政府が猛暑を想定した東電エリアの夏季の最大の電力需要は5930万キロワット。対する実績は、この夏もっとも需要が高まった7月18日でも5525万キロワットと想定を下回ったからだ。全国の需給状況を監視する電力広域的運営推進機関によると、今夏は電力の余っている他エリアからの電力融通の指示も実施しなかった。
 想定を下回った理由について、経済産業省の担当者は「今まさに検証中」。電力供給を担う東京電力パワーグリッドの広報担当者は「広く節電にご協力いただけた」と感謝する。
 燃料費の上昇に伴う電気料金の値上げによって家計の負担が増す中、節電意識は浸透しているとみられる。
 さらに、予備率が8%を下回ると、火力発電の通常出力を超える増出力や、各事業者の非常用発電機の運転などで追加の供給力確保に努めたと説明。火力発電所などで想定外のトラブルが起きなかったことも大きな要因といえそうだ。

 ◆「太陽光発電の貢献大きかった」

 一方、東電管内では柏崎刈羽原発(新潟県)、福島第1原発(福島県)など計17基ある原発が1基も稼働していない。原発なしで史上最も暑い夏を乗り切ったかたちだ。
 「もう原発は必要ないということではないか」。電力需給逼迫注意報が出なかったことに疑問を持った読者がこう思うのももっともだろう。
 同省担当者に聞いてみると、直接回答しなかったものの「需給の見通しが厳しい日もあり、老朽化した火力発電所を動かしたことが何度もあった」と、綱渡りだったことを強調した。
 原発を推進する電気事業連合会は「原発は2050年カーボンニュートラル、電力の安定供給に向けて欠かせない電源」と位置付ける。
 これに対して、NPO法人・原子力資料情報室の松久保肇事務局長は「電力需要が大きくなる日中に太陽光発電の貢献は大きかった」と再生可能エネルギーの重要性を指摘する。
 同NPOの試算によると、仮に柏崎刈羽原発を再稼働させても電力需要の数%をまかなう程度にしかならない。電気代引き下げ効果も1%程度にとどまることから「原発の積極活用を目指す政府方針は疑問」と反論する。

 電力需給逼迫警報・注意報 前日に広域予備率3%未満となった場合、経済産業省が「警報」を発令する。昨年3月、福島県沖地震の影響で複数の火力発電所が長期停止に追い込まれた際、寒波が迫り、政府は7年ぶりに節電を要請。東京電力管内に初の「警報」を出した。「周知が遅い」との批判を受け、昨年5月に前日に広域予備率3〜5%になったときに発令する「電力需給逼迫注意報」を新設。同6月には、真夏に向けて火力発電所の計画的な補修点検をしていたところ、季節外れの猛暑に見舞われて電力不足となり、東電管内に初の「注意報」を発令した。
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