[2023_09_05_06]汚染水をめぐり東京電力が説明していないこと(3/3 )放出計画なるもの (まさのあつこ_地味な取材ノート2023年9月5日)
 
参照元
汚染水をめぐり東京電力が説明していないこと(3/3 )放出計画なるもの

 2023年9月5日 14:44
  8月24日 に海洋放出が始まってから今日は12日目。本来、東京電力が改めて丁寧に説明すべきこと (1)(2) の続きで最終。

 汚染水はどこからどこへ放出されるのか?

 東京電力は「K4エリア」のタンク10基を連結させた「B群」からの排水を始めた。「K4エリア」は、福島第一原発(下図)の中央黒丸で囲んだ薄緑の地点。
 ここから配管を巡らせ、下図上側の黒丸で囲んだ5号機の海側に希釈・放水設備が設けられ、ここから海に向かって海底トンネルが掘られて、1キロ先で海に放出されている。


海側(東)が上、山側(西)。東京電力福島第一原発式地図。
出典:2023年8月31日  中長期ロードマップ進捗状況  P3 に筆者が黒丸2つ加筆

 上図で薄緑がタンクエリアで、それぞれ「◯◯エリア」と名付けられている。K4以外のタンクエリアの位置は、経産省資料のこちら 福島第一原子力発電所配置図 (2023年8月31日現在)で確認していただきたい)。

 「K4エリア」とは?

 K4エリア(全35基)は多核種除去施設(ALPS)、その後に作った増設ALPS、高性能ALPSの近くにある。
 この35基にも、他のタンクエリアと同様、汚染水が溜められていた。が、海洋放出が決まってから、そのうち30基の各10基をA、B、C群とし、これらを「放射性核種の測定・確認準備」→「測定・確認」→「放出」という3工程に使うことにした。

画像
東京電力  処理水ポータルサイト より 2023年9月5日現在

 たとえばB群から放出した後は、B群が空になるので、そこに新たにALPS処理水を移送。今度はB群が「放射性核種の測定・確認準備」用のタンクになり、C群からの放出が始まるという流れ。それが終わればA群だ。

 余談:D群はどこへ行った?

 全く余談だが、K4エリアの35基は元々、A、B群で各10基(計20基)、C、D、E群で各5基(計15基)からなっていた。上記3工程を構成するにあたり、5基ずつだったC、Dをまとめて「C群」10基としたので、D群が消えた。後述する放出計画にE群が登場するがD群が見当たらないので「D群はどこに行っちゃったんでしょう?」と東電広報に電話取材し、そのように教えてもらった。

 2023年度の放出計画

 さて、その放出計画について。東京電力は政府(関係閣僚等会議)に求められたので、廃炉の実施主体として放出開始に向けた準備を進めると、主体性のない発表を8月22日にした(以後、「政府に求められたから」と繰り返している)。
 その「2023年度の放出計画」で、B、C、A群の順で放出し、B群が空いたところに同じKエリアのE群5基と隣のK3エリアのA群からALPS処理水を移送し、放出すると発表した(先述した通り)。


出典:2023年8月22日東京電力「多核種除去設備等処理水の海洋放出の開始について」
別紙1 「ALPS処理水の海洋放出にあたって」 P19

 第1回のB群は、17日間(8月24日〜9月10日前後まで)で出し切ると口頭で説明。

 B群を出し切ったところで、「一度、立ち止まり、反省事項がないか、場合によっては設備の点検もやらなければならないと考えている」旨を小野明・福島第一廃炉推進カンパニー廃炉・汚染水対策最高責任者が8月31日の会見で回答している。

 第2回のC群、第3回A群、そして第4回が、いつからいつまでかは明確ではない。2023年度内だということしかわらかない。

 タンクの容量は1基1000m3だが・・・

 ちなみにタンク容量は1基1000m3。タンク10基を連結させた「B群」からの排水は、本来なら10,000m3となっても不思議ではないが、上記計画では7800m3となっている。細部が気になる。「D群はどこへ行った?」と合わせて聞いてみた。

 回答をまとめると以下の通り。
 1基の容量は1000m3だが、9割しか水を入れていないので900m3。「放射性核種の測定・確認準備」→「測定・確認」→「放出」という3工程に使うK4エリアの30基には、各タンクの底に「攪拌機器」(下図を参照のこと)を装着させている。攪拌機器は、放射性核種を測定・確認する前に、移送したALPS処理水を循環・攪拌して、放射性核種の濃度を均一化するために30基にだけ着けた。その攪拌機器を守るために、タンクの水は完全に空にせず、底に残す。残水は1基120m3となる。


福島第一原子力発電所 測定・確認用タンク(K4タンク群) 2022年7月11日
「循環攪拌実証試験結果について 」 P6を抜粋

 つまりフルの容量なら10基で10,000m3。
 しかし、9割しか入れないので9000m3。
 攪拌機器を守るための残水が10基で1200m3。
 差し引き7800m3となる。それが、上記「2023年度の放出計画」に現れる。

 細部の説明がなく、気になって聞かないと前へ進めない。

 実施計画に書かれた取り決め

 原子炉等規制法に基づく 特定原子力施設に係る実施計画 に基づいて 放出計画 を立てるが、数十年にわたる計画は、これを見てもわからない。わかるのは、以下のような取り決めの範囲で放出計画が立てられるということだけだ。

・ALPS処理水の流量は一日最大500m3とすること
・放出初期は少量放水を実施すること
・トリチウム以外の核種は告示濃度比総和1未満であること
・放出水に含まれるトリチウム濃度は1500ベクレル/L未満となるよう希釈すること(一方で、海洋放出するALPS処理水のトリチウム濃度の上限は100万ベクレル/L)。
・希釈に使う海水移送ポンプ(17万m3)は常時2台以上運転すること
・海水の希釈倍率は100倍以上となること
・年間トリチウム放出量は22兆ベクレル内

 詳細計画が明らかなのはB群のみ

 結局、公表された雑な放出計画で見れば、2023年度に海洋放出されるのは、31,200m3(汚染水全体の2.3%)でトリチウム総量は5兆ベクレル。次の2024年度については2023年度末に明らかにするという。

 それ以上に現時点で詳細が明らかなのは、K4エリアのB群に関してだけ。6月22日の発表 「ALPS処理水 測定・確認用タンク水の排水前分析結果 B群」 と8月24日の発表 「福島第一原子力発電所 ALPS処理水の初期の放出(第2段階)の開始について」 で以下のように明らかにした。

・希釈・排水前にトリチウム濃度は14万ベクレル/L
・希釈・排水前にトリチウム以外の核種は告示濃度比総和0.28(つまり1未満)
・トリチウムは少量1m3を1200m3で希釈して、放水施設で採水、測定し、43〜63ベクレル/L(つまり1500ベクレル/L未満)になった

 B群からバンバン放出中。海洋分析結果を翌日発表

 これで、実施計画で決めたことが確認できたとして、以降は、B群からバンバン、毎日1日最大500m3以内で放出している。
 そして、1Fから半径3km以内10地点、10km以内17地点の海域でトリチウムの検出限界を0.4ベクレル/Lまで下げて測定を行ない、翌日17時から会見でその結果を発表している。


出典:2023年8月22日「多核種除去設備等処理水の海洋放出の開始について」
別紙1 「ALPS処理水の海洋放出にあたって」 P26

 放出開始後1ヶ月程度はこれを続けるのだという。

 余談:逆ギレすることか?

 またしても余談だが、「年間放出管理計画」なるものを東電社内で作るのだということは、8月17日に 国際環境NGO FoEジャパン らが質問した時に聞いた。
 しかし、その「年間放出管理計画」について、福島県のいわき市議が尋ねると「今はまだいつから放出するか決まっていないので、まだない。」と答えていた。「ない」と断言された側からすれば、22日にその計画が発表されたのは失礼な話だ。
 そこで「17日に「まだない」と回答したのは嘘だったのか」と8月31日の会見で聞いたら、先出の小野氏が「いつ放出するのか開始時点がわからなければ、案は作るが、こういう計画だと言えない」と回答。
 そこで、「予定はあったがスタートが、いつになるかわからないから、言えなかったということか」と確認すると、小野氏が語気を強めて「いえ違います。予定としてもない。案が取れないと正式な計画にはならない」と回答。
 「言っている意味わかりますかね」と聞かれ、「計画」と「案」と「予定」を使い分ける姿勢には官僚で慣れているので、思わず「屁理屈だということはわかりました」と答えたら、「いやいや屁理屈じゃないですよ、これ」と逆ギレされてしまった。屁理屈でなければ無用な隠蔽姿勢である。計画案は持っていますと17日に言えばよかっただけだ。

 東電から常時IAEA出向者あり

 最後に、ようやく (1) の書き出しの部分に触れる。この小野氏が国際原子力機関(IAEA)にいたことを交えて質問した記者がいて、そうなのかと確認をしてみたら本当だった。1988年から3年いたこと、そして今でも2人ぐらいは出向者がいることがわかった。
 また、電力会社からIAEAに人を派遣するのは電力業界の中では特別なことではないらしいことが、その回答の仕方からわかった。しかし、それでも聞いておかねばならない。
 「日本政府はIAEAから海洋放出についてお墨付きを得た形になっているが、東京電力からどのような部署であれIAEAへの出向者がいたとなると、疑義を持たれてしまうと思う」がと、小野氏の見解を尋ねた。
 尋ねる際、私の口からは「同じ穴のムジナではないか」という言葉が出たがっていたが、今度は無用な逆ギレを避けるために「疑義」という大人の言葉に代えて尋ねた。そして、見解も以下のように想定内ものとなった。
 小野明・福島第一廃炉推進カンパニー廃炉・汚染水対策最高責任者:今回のIAEAのレビューミッションの報告書のことだと思うが、これに関しては日本人は入っていませんし、いろいろな国から、IAEAの職員のみならず、確か韓国とか中国とかからも専門家を招いてこのレビューミッションのチームは組み上げられているので、そういう意味ではIAEAはきちんと私は中立性を持っていると、そこも配慮してああいうチーム構成にしていただいたと私は理解しています。
 ・・・外部から見て中立だと思うかどうかは、別の話だ。

 以上が、休暇から30日に戻り、31日に参加した会見とその後の電話取材で分かった海洋放出に関する情報だ。
 事故から12年が過ぎ、汚染水については初めて知る人も多い。そんな中で、どんな批判を受けてきたのか、それに対しての合理的な反論も含め、そして「県魚連との約束を果たしたと考えているのか」との繰り返される記者質問への回答も含めて、行うべき肝心な説明を欠いた発表だったと、この2週間の動きを後追いしながら、思った。

 その他メモ(動画へのリンク)

2023/8/22(火) 福島第一原子力発電所 ALPS処理水の海洋放出についての記者会
2023/8/24(木) ALPS処理水の海洋放出開始に伴う臨時会見
2023/8/24(木) ALPS処理水海洋放出開始後の小早川社長の質疑応答 (1Fでぶら下がり取材のみとの説明に対し、記者らの強い要望で3地点から質問を受けた)
2023/8/31(木) 中長期ロードマップ進捗状況について


 記者:関係者の理解を得られたか?
 小早川社長:廃炉が終わるまでしっかり務める。

 記者:市民などが測定に参加する体制を作れば透明性が高まるのではないか?
 小早川社長:ご意見として伺う。

 記者:中国は日本産の水産物を全て輸入禁止すると、農水省2022年中国向け水産物輸出は871億円の影響となるが、賠償はするのか?
 小早川社長:詳細は把握できていない。禁輸措置によって被害が出れば、誠実に賠償する。相談に応じる。一方で、中国は我が国に取り重要な貿易相手先なので説明を尽くして参る。撤回されるようにしたい。

2023/8/24(木) ALPS処理水海洋放出開始後の小早川社長の質疑応答  から主なものをメモ

【タイトル写真】

出典:2023年8月22日東京電力ホールディングス株式会社 「多核種除去設備等処理水の海洋放出の開始について」 別紙1 「ALPS処理水の海洋放出にあたって」 P2
KEY_WORD:汚染水_:FUKU1_:廃炉_: