[2023_09_03_01]汚染水をめぐり東京電力が説明していないこと( 2/3 )ALPS処理水の定義が途中で変わったこと(まさのあつこ_地味な取材ノート2023年9月3日)
 
参照元
汚染水をめぐり東京電力が説明していないこと( 2/3 )ALPS処理水の定義が途中で変わったこと

 2023年9月3日 17:51
 本来、 東京電力が改めて丁寧に説明すべきこと の続き。
 汚染水の増加を止める策を直ちに実行しない合理的な理由はあるのか?それを丁寧に説明することなく、単に抑制しているとの説明と、多核種除去施設(ALPS)処理で告示濃度限度以下にするとの説明を東電は繰り返している。

 「前処理」と「吸着塔」からなるALPS処理

 事故後に構築してきたALPSとは、鉄、コバルト、マンガン、カルシウム、マグネシウムを予め取り除く「前処理」と、「吸着塔」で放射性物質(トリチウム以外)を取り除く工程がセットになった施設だ。それらが不具合を起こさず稼働すれば、トリチウム以外は除去できるという説明だ。ただし・・・、


 出典: 東電動画「多核種除去設備(ALPS)の浄化のしくみ」 より

 処理未完7割

 ただし、超高濃度の汚染水は、複数回このALPS処理をしなければ、告示濃度限度以下に下がらない。実際、この処理が完了しているのは、現時点でも、東電が説明する通り、約134万m3のうち3割でしかない。


 出典:東京電力 「ALPS処理水等の状況」 (2023年8月24日現在)

 ところがこの説明を、東電は、経産省が2018年に開催した 「多核種除去設備等処理水の取扱いに係る説明・公聴会」 前に報じられる前までは怠っていた。公聴会における経産省による説明資料でもその説明はなかった。

 2018年説明の前提は非現実的

 そして、経産省は 「多核種除去設備等処理水の取扱いに関する小委員会事務局」 として、次のような現実とは違う(*1)理由説明を元に「ALPS処理水」の処分が必要だと説明していた。

 「燃料デブリや使用済燃料の取り出し(*1)などを行うことにより、汚染水発生も完全に抑えられるようになり(*2)、廃炉が進捗します。こうした作業を進めるためにも、高台も含めた敷地内に、安定した一定規模の土地を確保する必要があり(*3)、ALPS処理水の処分を同時並行的に検討していくことが必要です」

「多核種除去設備等処理水の取扱いに係る説明・公聴会の開催について」 に筆者(*2)を加筆。

(*1)燃料デブリの取り出しがいつになるかの見通しはない。
(*2)燃料デブリの取り出しがいつになるかの見通しはないので、そのことによる汚染水発生を完全に抑えられる見通しはない。
(*3)汚染水の貯蔵タンクをなくす前提は、燃料デブリの取り出しのための土地確保が前提だが、その前提がうまくいっていない。

 2021年「ALPS処理水」の定義を変更

 2018年、7割がトリチウム以外も含む汚染水であることを隠していた!と紛糾した結果、3年が経過。2021年4月13日の 廃炉・汚染水・処理水対策関係閣僚等会議 で、政府は2年後を目途に、ALPS処理水を海洋放出すると決定。
 その日、経産省は次のように呆れた発表をした。

 今後は、「トリチウム以外の核種について、環境放出の際の規制基準を満たす水」のみを「ALPS処理水」と呼称することとします。
 出典:2021年4月13日経産省
  「東京電力福島第一原子力発電所におけるALPS処理水の定義を変更しました」

 それまで処理していなかった水も「ALPS処理水」と呼んでいたことを謝罪することなく・・・。そして、処理未完の汚染水を「処理途上水」と呼ぶようになった。

 隠していたことを「誤解」とすり替えて

 このとき、経産省は定義変更の理由を「規制基準値を超える放射性物質を含む水、あるいは汚染水を環境中に放出するとの誤解が一部にあります。そうした誤解に基づく風評被害を防止するため」と説明したが、そもそも7割がトリチウム以外も取り除けていない汚染水であったことを隠していた方が悪い。
 こうした小さなごまかしや言葉遣いが人々の心の中に不信感となって積もっていくのだと思う。

 2023年の今

 失われた信頼を取り戻すには、どんなことで信頼を失ってきたか、どんな理由で「ALPS処理水」を海洋放出することに決定したのか、どのようなプロセスを経てそう決定されたのかを含めて、もう一度、振り返ってみる必要があるのではないか。
 ・・・なかなか会見の話に辿り着かない(苦笑)。

関係NOTE
2023年8月18日  海洋放出ありきか:34億円→1200億円 88ヶ月→30~40年  2023年8月8日 海洋放出は134万m3だけか?東電福島第一原発

2023年7月5日  IAEA報告書と1Fで増え続ける汚染水の処理について

2023年6月15日  太平洋諸島フォーラムの専門家:「ALPS処理水」の海洋“投棄”は正当化できていない

【タイトル画像】
東電動画 「多核種除去設備(ALPS)の浄化のしくみ」 より
KEY_WORD:汚染水_:FUKU1_:廃炉_: