[2022_10_16_01]チェルノブイリの放射能でカエルが黒くなる(Forbes_JAPAN2022年10月16日)
 
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チェルノブイリの放射能でカエルが黒くなる

 進化の過程を目の前で見ることはそう多くないが、もしチェルノブイリ排他区を訪れる機会(休暇の計画としては最も異例)があれば、通常は緑色のカエルが黒くなっていることに気づくだろう。その黒さはまるで炭のようだ。いったい何が起きたのか?

 進化だ。

 1986年4月、チェルノブイリは史上最大量の放射線を近隣に放出した大規模原子力発電所事故の現場だった。この事故によって、膨大な量の放射性セシウム137 が、ウクライナの大部分およびノルウェーと英国の一部に蓄積した。住民は避難し、その区域は野生動物保護区に指定された。欧州最大の保護区だ。
 地元の野生生物はその場に残り、36年後の今、この動物たちは、高レベル放射能の中での生活に適応できるのか、どう適応するのかに関する特別な機会を世界中の科学者たちに提供している。
 放射性同位元素が衝突したDNAが損傷を受け、この損傷が遺伝子的変異を引き起こすことはよく知られている。この変異はガン、子どもの形態異常、死亡などにつながり、変異は子孫へも受け継がれることがある。
 ただし遺伝子変異がすべて有害なわけではない。しかしこうした何らかの変異が、地元に住むイースタンツリーフロッグ(学名:Hyla orientalis、アマガエルの仲間)の皮膚色を明るい緑から黒へと変えたことがわかった。
 「チェルノブイリ排他区の中に住んでいるツリー・フロッグは、区域外のカエルと比べて背部の皮膚が明らかに黒い」とパブロ・ブラコとヘルマン・オリザオラが最近の研究論文に書いた。

 しかしなぜこのカエルたちの皮膚は黒くなったのか?

 皮膚の黒い色はメラニンと呼ばれる色素によって作られる。皮膚や毛髪に含まれるメラニンが、人間を含む多くの動物の色を黒くする。メラニンは太陽光の紫外線放射の悪影響を減らすために重要であり、太陽に多く当たった人の肌が日焼けするのはこのためだ。さらにメラニンは、核事故によって放出されたイオン化放射線のDNAに対する悪影響を抑制する効果も持っている。放射線が損傷を与えるエネルギーの少なくとも一部を吸収あるいは散乱させるためだ。

 事故当時に放射能レベルが高かった地域に近い場所ほど黒い

 「暗い色は、遊離基を無効化することでさまざまな放射線源に対する保護能力を持ち、DNA損傷を減少させることが知られており、特にメラニン色素はイオン化放射線に対する緩衝機構として提唱されている」と著者らが最近の論文に書いている。
 この最新研究によると、実際に黒い皮膚は、カエルを組織、細胞およびDNAの損傷から守り、生存確率を高めるための適応反応の結果かもしれない。これに対応して、皮膚の最も黒いカエルは、事故が起きた時に放射能汚染が最大だった爆発域の最も近くにいたことを研究チームは発見した。
 黒い着色が現在カエルが暴露されている放射能汚染のレベルとは相関がないことを著者らは指摘している(汚染レベルは現在個体ごとに測定が可能)。黒い色は、カエルが事故当時に最も汚染されていた地域の中あるいは近くにいたことを示す特徴となっている。
 「皮膚の色は、事故当時に放射能レベルが高かった地域に近い場所ほど黒く、現在の放射能レベルはチェルノブイリのツリーフロッグの皮膚色に影響を与えていないと考えられる」と著者らは論文に書いている。
 黒い着色は放射能汚染による遺伝子変異の結果ではなく、事故当時皮膚が黒かったカエルたち(通常は個体集団の中で少数派)がメラニンの保護効果のために長く生き延びているためかもしれない。当然ながら、最も長く生き延びたカエルは、繁殖してその有利な適応力を子どもに引き継ぐ可能性が高い。事故以来、カエルたちは10世代以上生まれ変わっていることから、現在チェルノブイリ排他区の中で黒いカエルが優占種である理由は、非常に早い自然選択プロセス(放射能が緑色のカエルを殺す)で説明できることを示唆している。
 不幸なことに、論文著者チームもチェルノブイリ排他区で野生動物を研究している同僚たちも、プーチンの違法なウクライナ侵攻のために今は現地を訪れることができない。

 原典:Pablo Burraco and Germ・n Orizaola (2022). Ionizing radiation and melanism in Chornobyl tree frogs, Evolutionary Applications 15(9):1469-1479 | doi:10.1111/eva.13476
 GrrlScientist
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