[2022_02_12_04]処理水タンク来春満杯も 福島第1原発、海洋放出の手続き進む 漁業者「また風評被害が…」(西日本新聞2022年2月12日)
 
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処理水タンク来春満杯も 福島第1原発、海洋放出の手続き進む 漁業者「また風評被害が…」

 東京電力福島第1原発事故から、あと1カ月で11年。政府が決めた原発処理水の海洋放出に向け、原子力規制委員会の審査が本格化している。2023年春に放出を始めたい東電は、22年中に計画の認可取得を目指す。だが、漁業関係者などが反発する中で手続きが進んでおり、政府や東電に対する地元の不信感が募っている。 (石田剛)
 「きちんと技術的な根拠を持っていることを説明すべきだ」。今月7日、規制委の審査会合。処理水の成分分析方法などを示した東電に対し、委員から指摘や質問が出た。オンライン参加した東電の処理水対策責任者の松本純一氏は、丁寧に説明する考えを示した。
 同原発では炉心溶融(メルトダウン)が起こった1〜3号機で、溶け落ちた核燃料(デブリ)を冷やす注水や、雨水と地下水の流入で汚染水が出続けている。東電は、汚染水を構内の「多核種除去設備(ALPS)」に通し、大半の放射性物質を取り除いた上でタンクに保管している。ただ、処理水には、放射性物質の一つのトリチウムが残る。
 政府は21年4月、処理水の海洋放出を決めた。大気放出など他の方法に比べ、海洋放出は「確実に実施できる」と、有識者会議が20年にまとめた報告を踏まえた。トリチウムを含んだ水は、国内外にある通常の原発からも放出されており、海水で基準濃度以下に薄めれば人や環境に悪影響はない、と政府は説明する。
 海洋放出に向け、東電は、処理水の検査設備や、約1キロ沖に放出する海底トンネルを整備する。工事には規制委の認可が必要で、21年12月21日に計画を申請した。申請は当初の目標より約3カ月遅れたが、23年春の放出に間に合わせるため、今年5月までに認可を得たい考えだ。規制委の更田豊志委員長は「審査にそれほど長期間を要するものではない」との認識を示す。

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 「一方的に進められようとしていることは極めて遺憾であり、強い憤りとともに厳重に抗議する」。東電の計画申請から1週間後、全国漁業協同組合連合会の岸宏会長は抗議声明を出した。処理水について、東電は15年に「関係者の理解なしにはいかなる処分も行わない」と福島県漁連に文書で回答したが、漁業関係者の理解は広がっていない。
 漁業関係者が懸念するのは、処理水の放出が国内外で新たな風評被害を生むことだ。原発事故後、55カ国・地域が、日本の食品の禁輸など輸入規制に踏み切った。日本は放射性物質の厳しい検査制度などで安全性への理解を求めるが、今も中韓を含む5カ国・地域で福島県などの規制が残る。
 同漁連によると、国内で出荷制限の魚種はなくなったが、20年の水揚げ量は10年比で2割弱だった。「他産地と競合する魚種は福島産が選ばれにくく、簡単に水揚げを増やせない。海洋放出で風評被害が大きくなるのは明らか。事故から今までの努力を無駄にしてほしくない」。指導課の沢田忠明主任はこう訴える。
 東電は、規制委の認可に加え、安全協定を結ぶ原発立地自治体の福島県、双葉町、大熊町から事前同意を得る必要がある。ただ、同原発でトラブルが相次ぐ東電への不信感は根強く、漁業関係者の反発も収まらない。東電は「説明と対話を続ける」(松本氏)とするが、乗り越える壁は高い。

タンク23年春に満杯も…焦る東電

 政府と東電が海洋放出を急ぐのは、処理水の保管能力の限界が近いからだ。廃炉作業中の福島第1原発では処理水が増え続けており、23年春には処理水の保管タンクが満杯になる可能性があるという。これ以上のタンク増設は廃炉作業に支障が出る恐れがあるとして、焦りを隠さない。
 21年11月に同原発を訪れると、所狭しと並ぶ灰色やベージュ色のタンクがひときわ目立っていた。その数は約千基に上り、処理水の保管容量は約137万トンある。それに対し、タンクに保管されている処理水は今年2月3日時点で約129万トンに達した。残る容量は5%程度に減っている。
 東電は、汚染水の発生を減らすため、デブリを冷却する水の循環利用や、建屋周辺への地下水流入防止策といった対策を進めた。だが、20年は1日平均で140トンが発生したという。
 同原発の広報担当者は「雨の量などによるが、タンクは23年春ごろに満杯になる可能性がある」と説明する。今後、デブリの取り出しなど廃炉作業が本格化するため、機材やデブリの保管などにスペースが必要になるといい、「これ以上、タンクを増やす余地はない」と話している。
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