[2022_02_07_02]福島原発刑事裁判、2月9日に高裁で山場 現場検証などの採否が鍵に(週刊金曜日2022年2月7日)
 
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福島原発刑事裁判、2月9日に高裁で山場 現場検証などの採否が鍵に

 福島第一原発事故での東京電力元幹部の刑事責任を問う強制起訴裁判が、控訴審の山場を迎えている。東京高裁で2月9日午後2時から開かれる第2回公判で、検察官役の指定弁護士と刑事訴訟支援団が今後の裁判の行方を決定づけると見ている(1)原発敷地などでの現場検証(2)3人の専門家の証人尋問――について、細田啓介裁判長が採否の判断を示すからだ。
 東電幹部らを告訴・告発した住民グループや刑事訴訟支援団、弁護団は1月中旬以降、裁判の現状を説明する記者会見や集会を次々と開き、21日には東京高裁前で公正な審理を求めて署名簿を提出するなど要請行動を行なった。
 福島原発事故の責任を問う裁判としては東電や国に民事上の責任としての損害賠償を求めた集団訴訟が全国で約30件あり、原告は総計1万2000人以上。個人訴訟を含めると400件以上あるが、刑事責任を求めた裁判は本件だけ。
 2012年6月に福島原発告訴団が東電幹部や政府関係者らを告訴・告発し、検察が不起訴処分を繰り返したあと、検察審査会の2度にわたる「起訴相当」議決で東電の勝俣恒久元会長、武黒一郎、武藤栄の両元副社長の3人が業務上過失致死傷罪で起訴され、17年6月から裁判が続く。公訴事実は、原発の敷地の高さである10メートルを超える津波が襲来し、建屋浸水、電源喪失、爆発事故の可能性を予測できたのに、被告人らは防護措置や原子炉停止などの対策義務を怠ったというものだ。
 1審の東京地裁(永渕健一裁判長)は19年9月に3人全員に無罪を言い渡したが、刑事訴訟支援弁護団の海渡雄一弁護士らは、原判決の「最大かつ基本的な誤り」を、政府の地震調査研究推進本部(推本)が02年7月に公表していた「長期評価」の信頼性について適正な判断をせずに、「10メートル超ええの津波の予見可能性はなかった」としたことだと主張。「三陸沖から房総沖の日本海溝沿いのどこでもマグニチュード8・2程度の津波地震が起こりうる」との長期評価の予測に対し、運転停止を講ずべきかだけを判示し、「防潮堤建設と施設水密化等の結果回避義務を課すに相応しい予見可能性」の審査を全くしていないと批判する。

【真実解明に必要な現場検証】

 指定弁護士らは控訴審においても現場検証の必要性を改めて強調。福島第一原発の施設が、高台の岸壁を海に向かって掘り込んだ地盤に建設されていることが現場では一目瞭然であること、津波対策として防潮壁を設置すべきだった場所や水密化工事をしておくべきだった箇所がすぐに理解できることから、裁判所が真実に迫るうえで現場検証は不可欠のはずだ。
 施設水没の結果回避措置の具体的内容とその実現可能性を追加実証するために元東芝・原発設計技術者の渡辺敦雄氏、長期評価の信頼性についての立証で、元気象庁地震火山部長の濱田信生氏と推本・長期評価部会長だった島崎邦彦氏の3人を証人申請している。
 科学ジャーナリストの添田孝史氏は「刑事裁判がなければ闇に埋もれていたことは数多くある」と言う。(1)過去の津波堆積物の調査などから869年の貞観地震並みの大津波は予測でき、東電以外の東北電力などでは津波対策を進めていた(2)東電も担当社員は「15・7mの津波対策不可避」で一致していたが、経営幹部は事故リスク回避より経営リスク回避を優先させ、津波対策を引き延ばした(3)武藤栄氏が対策を遅らせるために、土木学会で時間をかけて審議してもらうよう時間稼ぎと専門家への根回しを指示していた――などを、裁判で開示された東電の内部文書などから指摘している。
 被災者の一人、武藤類子・告訴団長=福島県田村市=は「このまま地裁判決が確定したら著しく不正義です。事故から10年、フクシマでは正義の通らないことばかり起きている。このような社会を未来の世代に残してはいけない。裁判所は正義を示してほしい」と訴える。
(本田雅和・編集部、2022年1月28日号)

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