[2023_03_02_02]社説:原発60年超運転 安全性の担保が見えぬ(京都新聞2023年3月2日)
 
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社説:原発60年超運転 安全性の担保が見えぬ

 東京電力福島第1原発事故の処理や住民避難が今なお続くのに、反省を置き去りに原発回帰に突き進むのか。
 政府は、60年を超える原発運転を可能にするためエネルギー関連の5法改正案を束ねた「GX(グリーントランスフォーメーション)脱炭素電源法案」を国会提出した。
 福島事故を教訓に、最長でも60年に制限した運転期間ルールを変え、長期に利用しようという原発政策の大転換である。
 それなのに60年超運転に対する安全規制は具体策が見えないままで、岸田文雄首相が昨年8月に掲げた「原発の最大限利用」を押し通す拙速ぶりが際だっている。
 二度と過酷事故を起こさないよう安全性を担保できるのか。国会は、将来に責任を持って徹底的に議論を尽くさねばならない。
 改正案は、運転期間を「原則40年、最長60年」とする現行規定の大枠は維持しつつ、規制委の審査対応などで停止した期間を計算から除外して延ばせるようにする。
 安全確認は原子力規制委員会が担うが、規定自体は原子炉等規制法から経済産業省所管の電気事業法に移される。延長認可は脱炭素や電力供給の観点から判断され、利用を前提とした変更といえる。
 新制度では運転開始30年後から最長10年ごとに劣化を調べるとするが、規制委は安全性の確認方法の詳細な検討を先送りし、異例の多数決で見直しを決めた。
 委員1人が反対し「審査を厳格にして長引くほど高経年化(老朽化)した炉を運転することになる」と指摘した矛盾は残り、政府の法案提出に間に合わせた旨の証言もあった。規制委の独立性と審査制度への信頼が揺らいでいる。
 世界でも60年超運転の前例はない。原発の設備は放射線や高温、高圧でもろくなりやすく、一部の配管のように交換できない心臓部の圧力容器などはいつ限界がくるか予測は難しいとされる。
 山中伸介委員長も「経年劣化が進むほど規制基準に適合するか立証困難」としている。具体的に確認する方法の議論が後回しでは、「安全神話」への逆戻りではないか。
 首相は、原発利用で「安全が最優先」と繰り返すが、依拠するのは規制委審査のお墨付きだ。その規制委は「運転期間は政治判断」と押し付け合っている。安全の確保に誰が、どう責任を持つのか。
 使い続けるなら、見通しの立たない核のごみ処理や攻撃リスク、住民避難や発電コスト高への対処策の議論も積み残しにできない。

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