[2022_11_11_08]南極の氷の下に「ヨコエビ」が何万匹(島村英紀2022年11月11日)
 
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南極の氷の下に「ヨコエビ」が何万匹

 地球温暖化と、それに伴う海水面の上昇が問題になっている。ツバル、キリバス、モーリシャスなどの海抜が数メートルしかない国がなくなるのではないかと恐れられている。
 ここで誤解が多いのが、南北両極にある海氷が溶けると海水面が上がると思われていることだ。
 北極海には南極大陸のような大陸はない。最深は5000メートルを超える。北極海に浮いている氷は海水が凍ったものだから、溶けても海水面が上がることにはならない。コップに入れた氷水の氷が溶けても、水面が上がらないのと同じだ。「アルキメデスの原理」である。
 厳密に言えば、海氷ができるとき塩はとりこまれにくい。それゆえ海水が溶けた水の塩分は、その水の密度は海水よりも小さい。この違いによって、海氷が溶けると、水位はほんの少し上がる。しかし、わずかなものだ。
 これに対して南極の氷は違う。大陸は全体として椀を伏せたような形をしている。4000メートルにも達する厚い氷河に覆われていて、それが地形のせいで海へ落ちて溶けると海水面が上がる。南極大陸は日本の37倍もある広さだ。オーストラリアよりも広い。
 その他、陸上にある南米や中国やアラスカなどの氷河は溶ければもちろん海水面が上がる。
 南極大陸に広がっている棚氷(たなごおり)は複雑で、溶けて氷山になれば、いずれは溶けて海面上昇に寄与する。
 だが氷山になる前、氷が陸地や海底に支えられている状態のときには、溶けても海面上昇には寄与しない。
 棚氷は南極大陸のほとんどを占めているので、とても広い。棚氷は研究の空白だ。ほとんど調べられていない。海水面の上昇を解明するためにも大事な研究だが、寒いうえに、いずれは氷山として溶け出すので、手がついていないのだ。
 ニュージーランドの科学者たちが棚氷の温暖化による氷の融解に与える影響を調べていたのだが、カメラを入れたときに面白い生物学上の発見があった。
 それは生物であるヨコエビの仲間たちが何万匹もいたのだ。ヨコエビは端脚類で体長5ミリほどの端脚類だ。
 この研究の場所は南極でも大きなロス棚氷で、ロス棚氷の衛星画像を調べたら氷に長い溝が走っていた。南極の氷の下に淡水の湖や河川があるだろうことは以前から推測されていたが、それら淡水については研究がほとんど進んでいない。
 ヨコエビが見つかった場所は南極でも大きなロス棚氷で、、陸から数百キロメートルも離れていて、氷の地下500メートルのところだった。まわりは海氷だから、閉じた世界である。
 ヨコエビは甲殻類の目の一つで、1万種類以上ある大きなグループだ。この新しく発見された仲間として、閉じた世界に住む仲間がいたのだ。
 ヨコエビが多数いたということは、このヨコエビが食べるものが豊富にあり、多分、ヨコエビを餌にしている動物がいるなど、棚氷の下に生態系があることが分かった。
 暗くて寒い、閉じた世界にも大きな生態系がいたのだ。
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