[2022_03_11_02]保障措置システムの停止 チェルノブイリ原発は依然として交代不可状態 IAEA第15報からの情報提供 山崎久隆(たんぽぽ舎共同代表)(たんぽぽ2022年3月11日)
 
参照元
保障措置システムの停止 チェルノブイリ原発は依然として交代不可状態 IAEA第15報からの情報提供 山崎久隆(たんぽぽ舎共同代表)

  
◎ IAEAの「最新情報15−ウクライナ情勢に関するIAEA事務局長声明」が日本時間3月9日早朝にサイトに登録されましたので、その抄訳です。
 この報告では、チェルノブイリ原発の210名のスタッフ、放射性物質の管理と警備要員とされていますが、これが依然として交代できていないことが書かれています。
 思い出すのは、そろそろ11年たつ福島第一原発事故の時に、現地に残ったスタッフ、当初は700名ほどでしたが、その後危機的状況が悪化した際に、退避命令が出て「福島フィフティ」と後日呼ばれることなった50名(実際には69人)が残り、最後の時を迎えようとしていました。
 結果的に使用済燃料プールの冷却に成功し、最悪の事態は回避できたのですが、それは設備の不備(プールゲートの予期せぬ決壊で使用済燃料プールへ大量の水が流れ込んだために予測よりも長く冷却できた)という僥倖に過ぎないものでした。

◎ チェルノブイリ原発が今どうなっているのかはわかりませんが、気になるのは「セーフガード・モニタリング・システム」からのデータが来なくなっているという点です。
 このセーフガードとは「保障措置」のことで、いわゆる「核物質の兵器転用」を阻止するために行われている監視システムのデータを指すと思われます。
 これが監視しているのは、チェルノブイリ原発の場合は残留している放射性物質や核燃料だと思われますが、保障措置システムの停止により現状がどうなっているのかが分からないということです。
 これは、安全性だけでなく政治的にも極めて危険な状況と思われます。

◎ ロシア軍に制圧された状況下では、この物質が動かされたり何らかの方法で武装化されていても分からないということを意味するからです。
 プーチン大統領が「ウクライナは核武装やダーティボム(核物質を拡散させる「汚い爆弾」)を作っている」と繰り返し述べてきました。
 これが軍事侵攻の理由とさえ主張していたことを考えると、IAEAのシステムを破壊して証拠をねつ造することを画策しているのではないかと疑います。
 思い返せば、2003年に米国が突如始めたイラク攻撃は、まさしく「大量破壊兵器を製造している証拠がある」と当時のフセイン政権を非難し、打倒する目的で始めています。
 その後、イラクは大量破壊兵器の製造などはしておらず、米国のでっち上げであったことが明らかになり、当時国連で演説までしたパウエル国務長官はその後、騙されていたと告発しています。
 しかしその刑事責任を追及されたものはいません。
 20年近く経った今、ロシアが全く同じ事をウクライナに行おうとしているのではないかと疑うのです。

以下、「最新情報15−ウクライナ情勢に関する
IAEA事務局長声明」より
https://www.iaea.org/newscenter/pressreleases/update-15-iaea-director-general-statement-on-situation-in-ukraine

 ウクライナはチェルノブイリ原発の安全管理の緊急性と重要性が増していると、国際原子力機関(IAEA)に本日語った。ロシア軍がほぼ2週間前にチェルノブイリ原発を支配下に置いて以来、そこで働いている約210名の技術要員と警備員を交替させるべきだとグロッシ事務局長は強調した。
 ウクライナの稼働中の原発の職員が定期的に交代している現状とは対照的に、チェルノブイリ原発では、1986年の事故現場にロシア軍が入った前日の2月24日から同じシフトが勤務しており、事実上、過去13日間そこで生活している、と規制当局は述べた。
 また、ウクライナの監督当局は、スタッフは限られた量の食料や水、医薬品しか確保できていないと付け加えた。一方、職員の状況は悪化しており、IAEAに対して現在の要員を交代させ、実効的な交代制を提供していく計画を作成し、そのために必要な国際的支援を行うよう要請した。 【中略】

 ウクライナの規制当局は、チェルノブイリ原発での核物質の取り扱いは当分の間停止しているとしている。
 立ち入り禁止区域にある敷地内には、廃止された原子炉や放射性廃棄物処理施設がある。規制当局は、電子メールでしか原発と通信できなくなったと述べた。  【中略】
 また、チェルノブイリ原発に設置された保障措置監視システム(セーフガード・モニタリング・システム)からの遠隔データ伝送が失われたことも指摘した。
 IAEAは、ウクライナの他の場所における保障措置監視システムの状況を調査しており、近いうちにさらなる情報を提供する予定である。
 注:「保障措置」とは、核物質、設備、施設、情報等が、核兵器 製造等の軍事目的に転用されないことを確保するための措置である。(IAEA憲章第3条A.5.)
※≪事故情報編集部≫より この文章は、3月9日受信です。
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