[2022_03_22_02]日本海溝 千島海溝で想定される巨大地震で国の検討会が報告書(NHK2022年3月22日)
 
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日本海溝 千島海溝で想定される巨大地震で国の検討会が報告書

 関東でも津波の被害が出ると想定される、岩手県から北海道の沖合の「日本海溝」と「千島海溝」の巨大地震について、国の検討会が防災対策の報告書を公表しました。
 想定される巨大地震より一回り小さなマグニチュード7クラスの地震が起きた場合、巨大地震の発生に注意を呼びかける情報を出すべきだとしています。

 国が去年まとめた「日本海溝」と「千島海溝」の巨大地震の被害想定では、関東の津波の死者は、最悪の場合茨城県で800人、千葉県で200人にのぼるとされています。
 国の検討会は22日、この巨大地震の防災対策について報告書を公表しました。
 このなかでは、避難タワーや避難ビルの確保といったハード面での対策のほか、想定される震源域やその周辺でマグニチュード7クラスの地震が発生した場合、その後の巨大地震に注意を呼びかける情報を出すべきだとする内容が盛り込まれました。
 情報で呼びかける対応は「過度にならないよう留意する」とされ、家具の固定や持ち出し品の準備など日頃の備えの再確認が中心だとしています。
 期間は1週間で、避難は盛り込まれていません。
 マグニチュード7クラスの地震のあとに8クラスの巨大地震が起きるのは100回のうち1回程度と確率が低いためです。
 一方で、北海道や東北の沖合や沿岸部では地震活動が活発なため、情報は2年に1度程度と、頻繁に出される可能性もあるということです。
 このため専門家からは、内容や伝え方には慎重な検討が必要だという指摘も出ています。
 国の検討会の委員で東京大学大学院の片田敏孝特任教授は「この情報への対応を繰り返すと『オオカミ少年』のようなことになっていく。本来必要なのは『後発の地震』への対応ではなく巨大地震と大津波へのふだんの備えのレベルをどう上げていくかだ」と話していました。

【対象地域と条件は?】
 巨大地震に注意を促す情報が出されるのは北海道の十勝沖から岩手県にかけてマグニチュード7.0以上の地震が発生した場合です。
 東日本大震災を引き起こした11年前の巨大地震では2日前にマグニチュード7.3の地震があり、事後の分析で、マグニチュード9の地震につながった可能性が指摘されています。
 注意を呼びかける対象の地域は国が今後検討するとしていますが、巨大地震による津波の影響は北海道から千葉県まで及ぶと想定されているため広い範囲が対象になる可能性もあるとしています。

【住民は?企業は?】
 その一方、呼びかける内容は、「過度な対応にならないよう留意する」とされ、あくまで日常の生活や経済活動を継続するとしています。
 世界的な事例では、実際に巨大地震につながる例は100回に1回程度、マグニチュード9クラスになるとさらに可能性が低いためです。
 このため、住民に事前の避難などは求められておらず家具の固定や避難経路の確認、それに持ち出し品の準備などを呼びかけます。
 必要に応じて水や食料の備蓄を多めに確保することも必要になるとしています。
 また、企業には従業員の安否確認手段のほか備蓄の在庫の有無を確認してもらい、必要に応じて崖崩れや津波で浸水するおそれがある場所での作業を控えることも想定されています。
 対応をとる期間は1週間としています。

【混乱防ぐ必要も伝え方など今後検討】
 国や自治体は情報の発表を受けて会議を開くなどして防災対応を確認したり、住民などに周知したりするとしています。
 どのような情報を、どんな形で発表するのかは今後国が検討するとしていますが、地震や津波への備えを進めてもらいつつ食品の買い占めなど、混乱を防ぐ対応も必要となります。
 1つの地震に続いて発生する巨大地震、この「後発地震」への注意を呼びかける情報発信のモデルとなっているのが「南海トラフ地震臨時情報」です。
 「南海トラフ地震臨時情報」は、南海トラフ沿いでマグニチュード6.8以上の地震が起きるなどした場合、警戒や注意を呼びかける情報です。

【南海トラフには避難求める場合も】
 マグニチュード8以上の巨大地震が起きた場合、“巨大地震警戒”として地震が起きてからでは津波からの避難が間に合わない住民にあらかじめ避難するよう呼びかけられます。
 南海トラフでは実際に巨大地震が東側で起きたあと、西側で起きるという事例が江戸時代のほか、昭和にも確認されているからです。
 一方、マグニチュード7クラスの地震が起きた場合は、“巨大地震注意”として「日頃からの備えを再確認し、必要に応じて自主的に避難する」よう呼びかけられます。
 今回、国の検討会が「千島海溝」と「日本海溝」の防災対策を検討するにあたってこの枠組みが参考にされました。
 ただ、南海トラフのようにマグニチュード8以上の巨大地震が相次いだ事例が確認されていないことから、“巨大地震警戒”のような情報は設けず、“巨大地震注意”に近い仕組みを導入しようとしています。

【南海トラフでは3年たっても周知に課題】
 ただ、「南海トラフ地震臨時情報」にも課題があります。
 制度の導入から3年たつにもかかわらず住民への浸透が進んでいないことです。
 NHKがことし1月から2月に関東から九州の139市町村にアンケートをしたところ、内容が住民に「ほとんど浸透していない」「あまり浸透していない」と答えた自治体をあわせると8割近くに達しました。
 自治体からは、情報が浸透していないことによる住民の混乱を心配する声が多く寄せられました。

 一方、南海トラフでの仕組みを日本海溝や千島海溝に応用することに対し、地震学の専門家から、注意が必要だという指摘があります。
 国の検討会の下に設けられた委員会で委員をつとめた東京大学大学院の井出哲教授は日本海溝や千島海溝と南海トラフには大きな違いがあると強調しています。
 過去の活動については、南海トラフの場合は詳しく歴史資料に残されている一方、日本海溝や千島海溝の知見は限られているということです。
 また、地震の起き方をみても規模の大きな地震がふだんは起きにくい南海トラフに比べ、東北や北海道の沖合はマグニチュード7クラスの地震が活発に起きるなど、かなり異なるということです。

【“何かがわかっているよう伝えるのはマイナス”】
 こうしたことを踏まえて井出教授は「空振りが増え、住民などが対策自体に疲れてしまうことにもなりかねない」とした上で「日本は地震国で各地で大地震が起きる。北海道や東北にかけての“東北日本”だけを『特別扱い』し、何かがわかっているように伝えるというのは、マイナスの方が大きいのではないか。社会がどれくらいのリスクを許容できるかなど、社会科学的な見地から適切な対応を考える必要がある」と指摘しています。
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