[2024_10_12_01]石破政権で変わる?原発支援で電気料金上がるか(毎日新聞2024年10月12日)
 
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石破政権で変わる?原発支援で電気料金上がるか

 09:30
 石破茂政権が発足し、2024年度中に改定する「エネルギー基本計画」の行方が注目されている。石破氏は24年10月1日の組閣後の記者会見で「岸田政権が進めてきた経済政策を引き継いでいく」と述べた。その場合、原発の建設費用を電気料金に上乗せし、消費者が負担する新たな支援策は含まれるのだろうか。【毎日新聞経済プレミア・川口雅浩】

 岸田政権下の24年8月20日、政府の総合資源エネルギー調査会原子力小委員会で、経済産業省が英国の先例として示したのが「規制資産ベース(Regulated Asset Base=RAB)モデル」と呼ばれる原発支援の政策だ。
 RABモデルとは「新規の原発建設に必要な資金調達の費用を電力会社が抑制するため、総括原価方式の規制料金で需要家(消費者)から費用を回収するスキーム」(電力中央研究所)だ。
 英国でRABモデルは英東部のサイズウェルC原発(出力160万キロワットを2基)の建設で初めて導入される。同原発の建設コストは当初の200億ポンド(約3兆8000億円)から最大438億ポンド(約8兆3000億円)に膨らんでいるという。
 電力自由化が進んだ英国では洋上風力など再生可能エネルギーのコストが低下する中、原発は安全対策などで建設費がかさみ、計画通り進まない現状がRABモデル導入の背景にある。

 ◇「消費者の負担が増加するリスク」

 電力中央研究所によると、「これまでに建設が始まっている欧州の原発を見ても建設費の増加や工期の遅れが現実に生じており、消費者の負担が増加するリスクは高いと認識されている」「RABモデルを適用しても新設の原発の競争力を維持することが困難な状況になる可能性も否定できない」という。
 原発の建設費の増加や工期の遅れは日本も同様だ。関西電力は24年6月、「既設電源の維持投資に加え、大型電源への資金調達が求められる。特に原子力は投資規模が大きく、資金調達のハードルが相対的に高い。事業者だけでは解決が難しい」と、資金調達を支援するよう政府に求めた。
 原発は巨額の初期投資が必要で、建設期間が長く、電力会社が収入を得るのは運転開始以降となる。使用済み核燃料の再処理は進まず、長期的に費用負担がかさむ可能性が高い。原発は運転停止期間中も、安全対策などで維持費がかかる。大手電力にとって原発の新増設は重荷となっている。
 このため経産省は原発を念頭に「(大手電力は)建設費を含む費用が増加するリスクに対応できない。電力自由化後の収入の不確実性やリスクから資金調達に課題がある。海外の制度も参考に脱炭素電源投資を進める事業環境整備を行う必要がある」と、原子力小委で表明している。

 ◇「国民が知らないうちに決まってしまう」

 この事業環境整備とはRABモデルの導入とみられている。原子力小委の委員で、NPO法人「原子力資料情報室」の事務局長・松久保肇氏は「今後の原子力小委でRABモデルを導入するところまでは決めきれないが、原発の支援策が必要だという話に恐らくなるだろう。改定中のエネルギー基本計画にも脱炭素電源の支援策が必要だと書き込まれ、数年後にRABモデルのような制度が導入されるのではないか」と話している。
 龍谷大の大島堅一教授(環境経済学)も「経産省はRABモデルの具体的内容を検討する前に、まずはエネルギー基本計画に(原発支援の必要性を)書き込もうとしているのだろう。再エネは徐々に自立しようとしているのに、原発は50年以上前からコスト増加に歯止めがかからず、多額の費用を消費者に転嫁しようとしている」と指摘する。
 松久保氏と大島氏は長崎大核兵器廃絶研究センターの鈴木達治郎教授(元内閣府原子力委員会委員長代理)、東北大大学院環境科学研究科の明日香寿川(あすか・じゅせん)教授、環境エネルギー政策研究所の飯田哲也所長らとともに「原発新増設費用を国民から徴収する制度(RABモデル)の導入をやめてください」と政府に呼び掛け、24年9月15日から署名を集めている。
 「原発の建設費は上昇し、発電コストも再エネより高い。原発には電気代だけでなく、多額の公的資金が投入されている。発電前から電気代に上乗せできるRABモデルは電気代の上昇などが国民負担となる。再エネの賦課金は十数年でゼロになるが、原発への支援は時限がなく、増える傾向にある。このままでは多くの国民が知らないうちに導入が決まってしまう」というのが理由だ。

 ◇岸田政権とベクトル異なる?

 政府は24年度中にエネルギー基本計画を改定し、閣議決定することを目指している。
 石破氏は9月の自民党総裁選で「(再エネや省エネを推進し)結果として、原発のウエートは下げることになっていく」と述べた。「22年前に防衛庁長官をやっていた時、原発はどれくらいの攻撃に耐えられるのか子細に検討した。原発の安全性は最大限に高めていかなければならない」と、安全性に懸念があるとも受け取れる発言をしている。
 岸田政権は温室効果ガスを発生させる化石燃料をできるだけ使わずに、クリーンなエネルギーを活用する取り組みを「GX(グリーントランスフォーメーション)」と称し、原発も「脱炭素電源」と位置付けた。GX基本方針では原発を「最大限活用」して、国が原発推進の「事業環境を整備する」とした。
 東京電力の原発事故後、歴代の自民党政権は「原発の新増設とリプレース(建て替え)は想定していない」としていたが、岸田政権は次世代型原発の新増設の検討や、リプレースの具体化、それまで最長60年としてきた既存原発の運転期間の延長を認めた。
 「原発のウエートは下がる」との見通しを示した石破氏とGX基本方針の「最大限活用」では、ベクトルが異なるように見える。石破政権はエネルギー基本計画をどのように改定するのか。10月27日投開票の衆院選でも原発は争点となるに違いない。原発の新増設や支援策の行方が注目される。
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