[2026_01_10_05]社説(1月10日)中部電の原発不正 地元の信頼を裏切った(静岡新聞2026年1月10日)
 
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社説(1月10日)中部電の原発不正 地元の信頼を裏切った

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 中部電力は原発を運転する資格のある企業なのか。多くの静岡県民が怒り、落胆、不安といった感情とともに、こうした疑念を強く持ったに違いない。しかも、経営トップがいまだ本県で説明していない。地元軽視も甚だしい。

 浜岡原発3、4号機(御前崎市)の再稼働の前提となる新規制基準適合性審査で、中電が「基準地震動」の算出データを不正に操作していたことが明らかになった。原発の安全性を揺るがす深刻な不祥事だ。決して許されない。

 東京電力福島第1原発の事故後、原発に関しては何よりも安全を求めている日本の社会に与えた衝撃は計り知れない。とりわけ、浜岡1号機の建設同意から約60年の長きにわたり、中電の原子力事業を支えてきた地元の信頼を裏切ったと断じざるを得ない。

 林欣吾社長は早期に知事や首長らに直接謝罪し、地元の厳しい声を正面から受け止めてほしい。信頼回復を目指すなら、まずはそこからだ。

 基準地震動は、地震が発生した際に敷地で想定される最大の揺れ。建屋や重要な設備・機器の耐震設計の目安となる。いわば、原発の安全に直結するデータだ。新規制基準審査では、最大の想定津波高「基準津波」と並び最重要項目に位置付けられている。

 中電は審査会合で、20組の地震動の中から最も平均に近い波を「代表波」にすると説明していた。しかし、実際には代表波を意図的に選び、それが平均に見えるよう残りのデータを操作していたとされる。原子力規制庁はこの不正により、2023年に了承済みだった基準地震動は「非常に大きなものが取り除かれた状態で策定されている可能性がある」と指摘している。

 自らに都合のいい小さな揺れにしていたことになり、審査合格やコスト縮減を優先させたとの非難は免れない。事業者が示すデータなどに虚偽はないとの「性善説」に立つ審査の在り方も根底から崩しかねず、原子力規制委員会が「捏造[ねつぞう]」「暴挙」と激しく糾弾したのは当然と言える。

 これまでに、原子力土建部の社員数人の関与が疑われている。なぜこのような行為に及んだのか。審査の難航で焦りやプレッシャーがあったのか。設置された第三者委員会は背景まで含め、事実関係を明らかにしてもらいたい。

 規制委への説明とは異なる手法に対し、社内で疑問の声も上がっていた。にもかかわらず、不正は止められなかった。原子力部門は昨年11月に発覚した工事の仕様変更契約手続きの内規違反でも、閉鎖的風土が露呈したばかり。組織体質も改めて問われる。

 ちょうど50年前に東海地震説が世に出て以降、浜岡原発にとって予想される巨大地震にどう対峙[たいじ]するかは常に重い課題であり続けた。対策に誠実に取り組み、発電所の安全を守ることが地域社会への一番の約束だった。地元はそれを信じ、賛否を抱えながらも原発を受け入れてきた。共存の根幹をなすはずの最も大切な価値観が中電社内で受け継がれていなかったのだとすると、地元の失望は大きい。

 規制委の山中伸介委員長は既に3、4号機の審査を白紙に戻す意向を表明している。現段階で中電は審査対応の方針をはっきりとさせていないが、いったん再稼働の目標は取り下げ、原因究明、再発防止策の策定と実行に軸足を置く姿勢を明確にするべきだ。今後実施が見込まれる規制委の検査でガバナンス(企業統治)やコンプライアンス(法令順守)の改善が確認され、地元も納得しなければ、審査再開など望むべくもない。

 一方で、今も浜岡原発は存在し、危険な使用済み核燃料が多く保管されている現実は変わらない。1、2号機の廃止措置は核心部の原子炉本体の解体撤去作業が進む。今回の不正問題により、目の前のリスクへの対応力が低下してはならない。中電経営層には現場で安全を担う社員の過度な萎縮、人材の流出を招かないようにする責任もある。

KEY_WORD:浜岡原発-地震評価-不正手法_:FUKU1_:HAMAOKA_: