[2025_02_15_03]46億年前の地球に大陸はなかった! 大陸はいつ、どのようにして誕生したのか? 気鋭の岩石学者が挑む大陸誕生の謎(JBpress2025年2月15日)
 
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46億年前の地球に大陸はなかった! 大陸はいつ、どのようにして誕生したのか? 気鋭の岩石学者が挑む大陸誕生の謎

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 水の惑星・地球。しかし、その表面は完全に海に覆われているわけではない。ところどころ大陸や島が海中から顔を覗かせ、地球の風景に多様性を与えている。陸地は、現在を生きる私たちにとっては当たり前の存在である。

 【図表】 沈み込み帯でマグマと安山岩が生成される仕組み

 だが、地球上にいつ、どのようにして大陸が誕生したのかはいまだよくわかってはいない。大陸の成り立ち、そして火星や金星の大陸の有無について、『大陸の誕生』(講談社)を上梓した田村芳彦氏(国立研究開発法人海洋研究開発機構・上席研究員)に話を聞いた。(聞き手:関瑶子、ライター&ビデオクリエイター)

 ──地球の誕生は46億年前と言われています。誕生直後の地球にも、海や大陸は存在していたのでしょうか。

 田村芳彦氏(以下、田村):誕生した直後の地球表面は、マグマオーシャンと呼ばれるマグマの海に覆われていました。海も大陸もありません。
 マグマオーシャンが冷え固まるのに、500万年から1000万年程度かかったと言われています。途方もなく長い期間に感じるかもしれませんが、地質学的にはそれほど長い時間ではありません。
 マグマオーシャンが固まると地球の気温は下がり、大気中の水蒸気が水滴になって何万年も雨として降り注ぎました。こうして45億年ほど前に、地球に海ができました。
 一方、大陸がいつできたのかは、はっきりとわかっていません。現時点で発見されている最古の岩石は、約40億年前にできた片麻岩という岩石です。これはカナダで発見されたものですが、大陸を形成していた岩石であると考えられています。
 できてしまった大陸は、二度とプレートの下に沈み込むことはできません(*)。つまり、大陸が一度できると、その大陸がなくなることはないということです。

 *大陸プレートは軽い(密度が比較的小さい)ため、海洋プレートと衝突した場合は、重たい海洋プレートが大陸プレートの下に沈み込む。また、大陸プレート同士が衝突した場合は、ヒマラヤのような大山脈を形成する。

 そう考えると、大陸を形成していた40億年前の片麻岩が発見されたという事実は、少なくとも40億年前には地球上に大陸が存在していたことを示しています。

 ──地球と地球以外の太陽系の惑星の岩石学的な違いについて教えてください。

 田村:火星や金星の表面を覆っている岩石は、地球と非常に似ている部分もありますが、はっきりと異なってもいます。
 火星や金星の表面の岩石は、すべて玄武岩と呼ばれるものです。
 地球では、玄武岩は海洋地殻を構成する岩石です。つまり、地球の海底には玄武岩が敷き詰められています。そして玄武岩の他に、大陸地殻を構成する安山岩が存在している。ここが、地球と火星、金星の岩石の大きな違いです。

 ■ なぜ地球にだけ安山岩が存在しているのか? 

 ──火星や金星には安山岩がないとのことですが、なぜ、地球にだけ安山岩が存在しているのでしょうか。

 田村:そもそも安山岩がどのようにしてできるか考えてみましょう。
 安山岩は、安山岩質マグマが地上に噴出して冷え固まったものです。安山岩質マグマができるのは、海洋プレートが地球内部へ沈み込む場所、すなわち沈み込み帯です。つまり、プレートが動いて、プレート同士が衝突しなければ安山岩ができることはありません。
 なお、地球は表面から地殻、マントル、外核、内核の順で構成されています。「プレートがないではないか」と思うかもしれませんが、プレートは地殻とマントル最上部の硬い岩石を指します。
 プレートが動く現象やプレートができて沈み込む現象を「プレートテクトニクス」といいます。地震関連のニュースでよく出てくる言葉なので、聞いたことがある人も多いかもしれません。
 マグマは、地殻の下にあるマントルが溶けることにより生成します。マントルを溶かすためには、高温にすること、融点を下げること、または圧力を下げること(深いところのマントルを浅いところに上昇させること)のいずれかが必要です。
 マントルの融点を下げる際に活躍するのが海水です。
 海洋プレートは沈み込むとき、海水も一緒に地中に引きずり込みます。この水が深くまで沈み込むと、高い圧力によって海洋プレートから搾りだされて上昇し、沈み込まれる側(上盤)のプレートのマントルと接触します。
 水の存在は、マントルの融点を下げる役割を果たします。したがって、水とマントルが接触するとマグマが生成しやすくなるのです。
 沈み込み帯の上盤プレートでは、この水の作用があるために、マグマ活動が起きています。実は、日本列島も沈み込み帯にあたります。火山が多くあることも当然なのです。
 まとめると、安山岩ができるためには「海」と「プレートテクトニクス」、この2つが必要条件です。火星や金星には海は存在していません。そのため、これらの惑星での安山岩の生成は、あり得ないのです。

 ■ 火星で安山岩が形成されなかった理由

 ──40億年ほど前まで、火星には海があったと言われています。なぜ、そのときに火星で安山岩が形成されなかったのですか。

 田村:火星の表面の岩石は、探査機でかなり詳細まで調べられていますが、現時点で安山岩の存在は確認されていません。
 先ほどお話したように、安山岩ができるためには「海」と「プレートテクトニクス」が必要です。火星では、海はあってもプレートテクトニクスが起こっていなかった可能性があります。
 もしくは、プレートテクトニクスは起こっていたけれども、地殻が厚すぎたのかもしれません。地殻が厚ければ、それだけ地殻の下にあるマントルにかかる圧力は高くなります。
 詳細は省きますが、低圧下でマントルが溶けると安山岩質マグマが生成します。高圧下では、マントルが溶けて生成するマグマは、玄武岩質です。火星では、厚い地殻の存在が、大陸地殻の材料となる安山岩質マグマの生成を妨げていたとも考えられます。

 ──最古の大陸地殻の形成年代について、コンセンサスが得られていないと書かれていました。なぜ地球の大陸の歴史をさかのぼるのは、それほどまでに難しいのでしょうか。

 田村:地球上に最初の大陸地殻ができてから、長い年月が経っています。その間に、プレートテクトニクスにより、大陸地殻も海洋地殻も長い距離を移動したり、衝突したりを繰り返しました。地殻を形成する岩石は、幾度となくさまざまな作用を受け、もとの姿からはすっかり様変わりしていると考えられます。
 現在の大陸の岩石は、ツナ缶の中のツナフレークのようなものです。さまざまな処理を施されて、変形してばらばらになってくっついたものです。ツナフレークを見て、泳いでいるマグロを想像できる人はほとんどいないでしょう。
 現在の大陸の岩石を見ただけでは、その岩石がいつどのようにしてできたのかを想像することがいかに難しいか、お分かりいただけるかと思います。

 ■ 地球の海洋近くが薄くなっていったロジック

 ──先生ご自身は、地球上での最初の大陸の誕生をどのように考えていますか。

 田村:現在の地球では、地殻が薄いところでプレートの沈み込みが起こると、安山岩質マグマができるということがわかっています。
 太古の地球でも、おそらくプレートテクトニクスは起こっており、プレートの衝突、沈み込みがあったと考えられます。けれども、当時の地球は非常に高温でした。そのため、生成した海洋地殻の厚さは、ゆうに30kmを超えていたのかもしれません。
 40億年より古い時代の地球では、分厚い海洋地殻がプレートテクトニクスで地球表面を移動していたと推測されます。
 30kmの分厚い海洋地殻の下のマントルに、圧力の低いところは存在しません。いくらプレートテクトニクスが起こってマントルが溶けても、玄武岩質マグマしかできなかったはずです。
 やがて、地球はどんどん冷えていきました。それに伴い海洋地殻が少しずつ薄くなっていき、40億年ほど前には、ようやく30kmより薄くなった海洋地殻の下のマントルで大陸を作るような安山岩質マグマができ始めたのではないか、と考えています。

 ──なぜ地球が冷えると海洋地殻が薄くなるのですか。

 田村:地球の内部は、マントルという岩石でできています。マントルが溶けてマグマになることは先ほど説明しました。
 海底でマグマが噴き出す場所は中央海嶺と呼ばれます。海底に噴出したマグマは、冷やされ岩石となり、海洋地殻を構成します。
 地球の温度が高ければ、当然マントルの温度も高くなります。大量のマントルが溶け、たくさんのマグマができます。マグマがたくさんあれば、海洋地殻もそれだけ分厚くなります。
 地球が冷えればマントルの温度が下がり、生成するマグマの量が減少します。すると、海洋地殻が薄くなり、海洋地殻の下にあるマントルにかかる圧力も低くなります。そうなると、海洋プレート同士が衝突して沈み込んだときに、低圧下で生成するマグマは安山岩質になる。
 これが、「地球が冷えると海洋地殻が薄くなり、大陸の材料となる安山岩ができる」というロジックです。

 ■ 田村氏オススメの露頭

 ──国内のおすすめの露頭(*)がありましたら、教えてください。
 *土壌に覆われず、岩石が露出している場所のこと

 田村:伊豆半島南西部のあたりは、500万年ほど前の海底火山噴火の際の堆積物が地層となり、海岸沿いに露出していて非常に興味深いです。
 特に、西伊豆町の堂ヶ島の露頭と洞窟は絶景です。堂ヶ島の「天窓洞(てんそうどう)」という洞窟は天然記念物にもなっています。軽石でできているため強度が足りず、天井が抜けてしまい洞窟内に天窓ができたので、そう呼ばれるようになりました。
 天窓から入ってくる光が青い海の水を照らし出す光景はとても美しく、つい見とれてしまいます。遊覧船があるので、軽い気持ちで行くことができます。
 南伊豆町の石廊崎(いろうざき)もおすすめです。ここでは、安山岩の溶岩が海岸沿いに露出している様子を見ることができます。
 石廊崎の安山岩は、水中自破砕溶岩(ハイアロクラスタイト)と呼ばれる珍しいものです。これは、高温のマグマが海水に接してすぐに固まった後ろから、さらにマグマが押し寄せてバキバキと固まった溶岩を破砕して堆積したものです。

 ──水中自破砕溶岩の希少性がよくわからないのですが……。

 田村:普通の溶岩は粘性が低くさらさらしているので、冷え固まった溶岩を押して破砕することはありません。そのまま海底を流れていき、固まるのが一般的です。こうしてできた溶岩を「枕状溶岩」といいます。
 一方、水中自破砕溶岩をつくるマグマの特徴として、粘性が高く、海底を流れるスピードが遅いということが挙げられます。そのため、あとから噴出したマグマが冷え固まった溶岩に追い付いてしまい、破砕してしまうのです。

 ■ 岩石学から見た能登半島地震のメカニズム

 ──書籍のあとがきにて、2024年1月1日に発生した能登半島地震について触れていました。同年の8月には、宮崎県で震度6弱の揺れを観測するマグニチュード7.1の地震が発生しました。先生の専門である岩石学と地震にはどのような関係があるのですか。

 田村:地震は岩石が断層によって破壊される現象です。岩石学は、その岩石がどのようにしてできたのかを研究する学問です。地震学と岩石学には「岩石」という共通のキーワードがあります。
 およそ2500万年前に、ユーラシア大陸の東縁で大規模な火山活動がありました。これにより、約2000万年前にユーラシア大陸から日本列島が分裂し、日本海が生まれました。このとき、日本海ではたくさんの断層ができました。
 断層生成時には、地殻のかなり深いところまで海水が浸透していったと考えられています。もしもマントルまで海水が浸透した場合、それにより、マントルが溶けてマグマができて地上に噴出した可能性があります。このマグマが冷え固まり、現在の能登半島の陸地をつくっていると推測されますが、まだ仮説段階で実証されていません。
 能登半島の地震は、日本海ができる際に生成した断層がずれたため、発生したと考えられています。断層が生成したときに地下深くまで入り込んだ海水が、現在も化石海水として地下に残っており、地震を引き起こす原因となったという可能性も指摘されています。
 陸地や海底がどのようにできたかを岩石から解き明かす学問が岩石学です。そして、その岩石ができたプロセスを踏まえて、地震が起こるメカニズムや地震発生予測の研究をするのが地震学の役割です。岩石学と地震学が深いかかわりがあるということがわかると思います。

 私自身、岩石の知識を活かして、地震発生のメカニズム解明などに貢献していきたいと考えています。

 田村芳彦(たむら・よしひこ)
国立研究開発法人海洋研究開発機構 上席研究員
1961年 石川県生まれ。東京大学大学院理学系研究科博士課程修了(理学博士)。日本学術振興会特別研究員、金沢大学理学部助手などを経て2000年からJAMSTECに勤務。海底火山を調査・研究している。2023年日本地質学会Island Arc Award受賞。

 関瑶子(せき・ようこ)
早稲田大学大学院創造理工学研究科修士課程修了。素材メーカーの研究開発部門・営業企画部門、市場調査会社、外資系コンサルティング会社を経て独立。YouTubeチャンネル「著者が語る」の運営に参画中。
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