[2025_02_08_06]放射能に汚染された土の無秩序な拡散につながる 「除去土壌の再生利用」はありえない 除去土壌はどのように扱われるべきか 100Bq/kgを超える放射能濃度の除去土壌等は低レベル放射性廃棄物と同じ扱いをするべき 大島堅一(龍谷大学政策学部教授、原子力市民委員会座長)(たんぽぽ2025年2月8日)
 
参照元
放射能に汚染された土の無秩序な拡散につながる 「除去土壌の再生利用」はありえない 除去土壌はどのように扱われるべきか 100Bq/kgを超える放射能濃度の除去土壌等は低レベル放射性廃棄物と同じ扱いをするべき 大島堅一(龍谷大学政策学部教授、原子力市民委員会座長)

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要点

(1)100Bq/kgを超える放射能濃度の除去土壌等は低レベル放射性廃棄物と同じ扱いをするべきである。

(2)除去土壌の処分に関し、原子炉等規制法のもとで厳格な審査をおこなうために、原子炉等規制法、放射性物質汚染対処特措法を改正するべきである。

(3)「再生利用」可能とされている100〜8000Bq/kgの除去土壌等は、低レベル放射性廃棄物(L3廃棄物)相当の汚染土壌として浅地中処分(トレンチ処分)すべきである。

 1.100Bq/kgを超える放射能濃度の除去土壌等は低レベル放射性廃棄物と同じ扱いをするべきである

 環境省は、土壌に加え、熱処理で生じる生成物、洗浄飛灰、焼却灰を溶融してできるスラグ等を「再生利用等」の対象とする可能性があることを示している。(注1)
 放射性物質で汚染された土壌はもちろんのこと生成物、洗浄飛灰、焼却灰を溶融してできるスラグ等は、福島原発事故起因でなければ、原子炉等規制法上の規制対象となる。
 そして、放射性セシウムにして100Bq/kg以上の放射能濃度の土壌は、クリアランスレベルを超える土壌(以下、汚染土壌)として扱われる。

 実際2020年のクリアランス規制の見直しにあたっての意見募集(パブリックコメント)に対し、原子力規制委員会は次のように回答している。
 意見:「原子力施設の敷地内で100ベクレルから8000ベクレルの汚染土壌が発生した場合、クリアランスの対象にはなるのでしょうか」
 原子力規制委員会の回答:「ご質問の『汚染土壌』が、放射性物質によって汚染された物として原子炉等規制法の対象物となっている場合はクリアランスの可否を検討する対象となり得ます。その場合、仮に『汚染土壌』に含まれるセシウム137の平均放射能濃度が100Bq/kgを超えている場合は、クリアランスレベルを超えることになります。」(注2)

 IAEA安全基準に照らしても8000Bq/kg以下の除去土壌は低レベル放射性廃棄物である。
 環境省自身「最終処分の対象となる除去土壌について…(中略)現状は大部分が8000Bq/kg以下であり、仮に減容処理により放射能濃度が高くなることを想定しても、IAEA安全基準における分類上は低レベル放射性廃棄物に該当するものと考えられる」(注3)として、低レベル放射性廃棄物の処分方法を示し、「放射性防護が必要」としている。

 このことからすれば、除去土壌等は原子炉規制法における規制と同様、100Bq/kg以上を基準にクリアランスの可否を判断し、クリアランスレベルを超えるものは低レベル放射性廃棄物として扱うべきである。

 2.除去土壌等の処分に関し、原子炉規制法、放射性物質汚染対処特措法を改正するべきである。

 現行の放射性物質汚染対処特措法(以下特措法)には、汚染された土壌の再生利用に関する条文がない。
 そこで環境省は、再生利用を特措法上の「処分」に該当するとしている。法令上の「処分」を、「再生利用」や「復興再生利用」という文言に言い換えることは、国民の誤解を生じさせ、無用な対立につながる。そのような混乱を、環境省が作り出してはならない。

 何より重要なのは、除去土壌等の「処分」のあり方について、明確な規制の枠組みと制度、機関を構築することである。
 福島原発事故由来の廃棄物や除去土壌は、原子炉規制法の枠外に置かれているため、クリアランス規則に相当する厳密な規則や基準、さらにはそれらが基準を満たすかどうかを科学的に審査する規制機関が存在していない。
 これは明らかな法の欠缺(けんけつ)である。
 政府は、この法の不備を放置せず、立法措置の必要性を踏まえて国会に法改正案を提出する責任がある。

 現在、国内には、原子炉等規制法と放射性物質汚染対処特措法が併存している。その結果、同程度の放射能汚染濃度であっても、事故由来廃棄物および事故由来汚染土壌・除去土壌については、原子炉規制法に基づく厳密な規制が実施されておらず、放射能汚染に関する「ダブルスタンダード」(二重基準)が生じている。
 このような規制の不整合を解消するために、事故由来廃棄物、汚染土壌・除去土壌を原子炉等規制法に組み込む必要がある。

3.「再生利用」可能とされている100〜8000Bq/kgの除去土壌等は、低レベル放射性廃棄物(L3廃棄物)相当の汚染土壌として浅地中処分(トレンチ処分)すべきである

 除去土壌、廃棄物については、最終処分に関わるものとして関連法令の整理が環境省によってされている。(注4)
 原子力規制委員会の定めた「第二種廃棄物埋設施設の位置、構造及び設備の基準に関する規則」およびその解釈において、浅地中処分(トレンチ処分)の技術的要件が定められている。低レベル放射性廃棄物相当の除去土壌等は、L3廃棄物として扱い、浅地中処分するべきである。
 L3廃棄物に相当する低レベル放射性廃棄物は、世界の主要国で、専用の処分施設での処分が基本である。道路等のインフラ施設下での処分は採用されていない。(注5)

 日本のJAEA原子力科学研究所が茨城県那珂郡東海村で実施している浅地中トレンチ処分も同様である。低レベル放射性廃棄物であっても、厳密な安全評価に基づく長期管理が基本となっている。


(注1) 環境省環境再生・資源循環局(2024)「各ワーキンググループ等の検討状況」10月3日(第17回中間貯蔵除去土壌等の減容・再生利用技術開発戦略検討会、資料1-2)

(注2) 原子力規制委員会(2020)「クリアランス規制等の見直し案に対する意見募集の結果について」6月10日、別紙、p.1

(注3) 「除去土壌等の処分に関する安全確保について(第3回IAEA専門家会合に向けた考え方の整理)」2024年1月12日(中間貯蔵施設における除去土壌等の減容化技術検討ワーキンググループ(第4回)、資料1-2)

(注4) 環境省環境再生・資源循環局(2023)「最終処分に関わる関連法令での規定の整理」(中間貯蔵除去土壌等の減容・再生利用技術開発戦略検討会中間貯蔵施設における減容化技術等検討ワーキンググループ第3回会合、参考資料3)

(注5) 原子力環境整備促進・資金管理センター技術情報調査部江藤次郎(2024)「海外の放射性廃棄物の処分等の情勢」11月19日(令和6年第38回原子力委員会定例会議、資料1)、原子力環境整備促進・資金管理センター(2021)「平成30年度放射性廃棄物共通技術調査等事業 放射性廃棄物海外総合情報調査(国庫債務行為に関わるもの)報告書(令和2年 度分)」3月

(2025年1月15日開催 放射能に汚染された土の無秩序な拡散につながる「除去土壌の再生利用」はありえない 放射能拡散に反対する会、原子力市民委員会共催 緊急オンライン・リレートーク資料より抜粋)
KEY_WORD:除染土_最終処分_: