[2024_05_11_01]核ごみ最終処分の「適地」ではないはずの玄海町がなぜ手を上げた? 町長が経緯と苦渋の心中を明かした(東京新聞2024年5月11日)
 
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核ごみ最終処分の「適地」ではないはずの玄海町がなぜ手を上げた? 町長が経緯と苦渋の心中を明かした

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 佐賀県玄海町の脇山伸太郎町長は10日、原発から出る高レベル放射性廃棄物(核のごみ)の最終処分場選定に向けた第1段階の文献調査を受け入れると表明した。同町には九州電力玄海原発があり、原発立地自治体としては初めて。慎重な姿勢を続けていたが、推進派が多い町議会と政府の要請で外堀を埋められた末の方針転換。政府は昨秋、町内で説明会を開き地ならしを進めていた。(荒井六貴、渡辺聖子)

 ◆政府自身が示したマップの評価を無視してまで

 「町議会での意見や議論、国からの要請を熟考した」。脇山町長は10日の記者会見で苦渋をのぞかせた。
 これまでは町議会で「調査受け入れの考えはない」と答弁。理由の一つに、国が最終処分場の適地を示した「科学的特性マップ」で、町の大半が「鉱物資源があり好ましくない」とされていたことも挙げていた。
 だが、町の飲食業組合などから出された調査受け入れを求める請願を町議会が4月、6対3の賛成多数で採択。政府は機を逃さずに受け入れを求めた。
 昨年11月、経済産業省資源エネルギー庁は、町内で最終処分場に関する住民対話集会を開催した。全国を行脚する集会は昨年度22自治体で開かれたが、うち21自治体は千葉市や大阪市など人口規模が大きい市や区。町は玄海町だけだった。
 この集会でも、参加者から「マップ」への質問が出ていた。「好ましくない」のに調査を求める点に、エネ庁関係者は「文献調査はマップの時よりも細かく調べるので、鉱物資源がない可能性もある」と指摘。マップが有名無実化している実態を暗に認める。
 政府がマップを無視してでも適地探しを進める背景には、自治体が調査に手を挙げないことへの焦りが見える。文献調査が北海道の寿都(すっつ)町と神恵内(かもえない)村で2020年11月に始まって以来、応募自治体はない。寿都町の片岡春雄町長は、次の概要調査に応じる条件に、他に文献調査を受け入れる自治体が現れることを挙げる。「第3の候補地」を切望していた経産省にとって玄海町は渡りに船だった。

 ◇  ◇

 ◆「板挟みで思い悩んだ」玄海町長記者会見の一問一答

 佐賀県玄海町の脇山伸太郎町長は10日、原発の高レベル放射性廃棄物(核のごみ)の最終処分場の文献調査受け入れ表明した。記者会見の一問一答は次の通り。
 ―町議会の全員協議会でどう表明した。
 国からの申し入れに対し受け入れしますと。立地町が受け入れすることで手を挙げる市町村が出て、適地が見つかるとありがたいと話をした。

 ―科学的特性マップでは適地ではない。海底調査も視野に入るか。
 文献調査がどのようなプロセスでされるか詳しく知らない。海の面積も広くない。海があるからできるだろうということも全く考えていなかった。

 ―どう考えて判断に至ったか。
 請願が議会で採決された。住民代表である議会の議決は重いものだと思っている。板挟みで思い悩んだ。国から文献調査が最終処分場に直結するものではないという言質もいただいた。

 ―これまで受け入れることはないと言っていた。議決に重きを置いて考えた理由は。
 議会の議決がどうだろうと私が判断できる形になっている。私も議員をしていたし、議会は住民のために議決していると考える。議会の議決は重い。

 ◆「交付金のことは考えていない」

 ―20億円の交付金目当てではないというが、申請はするのか。
 交付金のことは考えていなくて、国とも相談してない。ただ、あとに続くところがもらえないという流れをつくってしまってはいけないと感じている。

 ―立地町の責務と考えているか。立地町として初めて文献調査を受けることについては。
 責務はないと思う。日本全体で考えるべきだ。(文献調査が進んでいる)北海道の2町村も原発に隣接している。立地町とか隣接市町村ではなく、いろんな議論をして、関心を持ってもらうのが必要だ。

 ―文献調査で適地と結果が出たら、最終処分地を受け入れる考えは。
 結果は2年くらい先になると思うが、それについてはなんともコメントしづらい。受け入れしませんよとこの場で言える話でもない。表現が難しい。

 ―文献調査を決断する首長に重い負担を負わせているという指摘がある。こういう立場に置かれて感じることは。
 こういうシステムになっているのでいたしかたない。いい方法があれば変えてもらえればありがたい。私としてはプレッシャーがかかったなと思った。

 ◆「立地町だけの問題になる可能性は感じている」

 ―立地町が受け入れたことで議論が進まなくなる可能性もあるのでは。
 原発周辺、立地町だけの問題になる可能性は感じている。やはり、一つでも手を上げる市町村が増えるべきではないか。苦しい立場を感じたところ。

 ―周辺自治体からは寝耳に水という発言があった。町長から周辺自治体や最終処分場受け入れに反対している佐賀県知事に説明する考えはあるか。
 知事とは原子力政策の考え方が違う。知事にはこの件については話していないし、周辺自治体にも話はしてない。今後はする。

 ―現時点で最終処分場を受け入れる考えは。
 受け入れないとここで言うのはなかなか難しい。文献調査が終わるのに2年くらいかかる。町長の任期もあと2年くらい。町長をしているか分からないので、いま2年後の未来を言うことはできない。

 ―玄海町は消滅可能性自治体に挙げられた。この文献調査の受け入れをどう位置づけるのか。
 人口減にならないよう企業誘致し、子育て世代が住みたくなる施策、空き家対策に取り組んでいる。最終処分場のことで財政的に潤うことは全く考えてない。基金を積み立て、あとで財源に困らないような町にしなければならない。ただ人口減は喫緊の課題だ。
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