[2024_04_18_11]国際核施設労働者調査(INWORKS)の最新報告〜低線量率・低線量被曝の健康リスクがさらに明らかに〜(原子力資料情報室2024年4月18日)
 
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国際核施設労働者調査(INWORKS)の最新報告〜低線量率・低線量被曝の健康リスクがさらに明らかに〜

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 低線量・低線量率被曝の健康リスクが被曝労働者の国際調査でさらに明らかになった

 2023年8月、「国際核(施設)労働者調査」(INWORKS)(注1)の最新報告が発表された。この調査は、「長期にわたる低線量の電離放射線被曝の影響評価」を目的とした国際疫学調査である。世界でも最も大規模で情報の多い米英仏3国の13の核施設及び原子力機関(軍事用・商業用の両方を含む)のデータベースに登録された、総数309,932人(延べ1,070万人・年)の労働者の、70年余(1944〜2016年)にもわたる死亡統計(死亡数103,553,うち固形ガン(注2)死亡28,089)と、その個人線量計のモニタリング記録に基づいた蓄積被曝線量(注3)(平均結腸線量:20.9mGy)などのデータを「統合」して解析した(表1)。その結果、低線量率で、低線量域(注4)を主体とする電離放射線被曝を受けた労働者の、単位線量あたりの固形ガン死の過剰相対リスク(ERR/Gy)(注5)が、0.52(90%CI(注6):0.27-0.77)で統計的に有意に増加することを、被曝労働者のデータで明らかにした(表2)。

 今回の報告は、2015年に出されたINWORKSのガン死亡率調査(1944〜2005年)の第一報に、10年以上の追跡結果(2012, 2014, 2016年に生存状況を確認)を追加した最新報告である。線量あたりの固形ガン死の過剰相対リスク値(ERR/Gy)は2015年の評価と同程度であるが、調査期間の延長によって、延べ人数(人・年)とガン死亡数が増えたために、統計上より信頼性の高い結果が得られている。
 もとより核施設労働者は線量計で個々人の被曝線量がモニタリングされている「特別な」被曝集団である。INWORKSの疫学調査は、情報がしっかりしている米英仏の原子力施設の労働者調査集団を統合した大規模国際調査であり、電離放射線への長期にわたる低線量率・低線量被曝を実際に受けたヒト集団を、何十年もの間フォローした結果を解析して、細胞・動物実験や、高線量率・高線量被曝を主体とする原爆被爆者のデータからの間接的な外挿ではなく、直接的な回帰で低線量域の被曝の健康影響を推定しており、調査人数、情報の量と質、調査・解析方法のレベル等において、優れた、信頼性の高い調査である。INWORKSでは、今回、主に報告された固形ガンだけでなく、白血病(及び造血・リンパ系の悪性腫瘍)と循環器系疾患などの非ガン疾患による死亡も調査している。(注7)

(中略)

 世界の良心的科学者とも連携し原子力産業による核被害の強要を阻止する国際的動きを

 原子力産業は、軍事・商業用を問わず、ウラン採掘から原子炉、核廃棄物処分に至るまで、放射線被曝によって労働者や住民(特に先住民など植民地支配の下に置かれた人々)の健康と命を犠牲にしながら、自らの利益を確保し存続できるよう、データの隠蔽をはかり、原子力産業の利益を守る専門家を動員してリスクの過小評価を行ない、「放射線防護」の基準を設定してきた。一方、放射線の健康影響を誠実に調査・研究・報告し、人々の健康を守るための貴重なデータを提供してきた良心的な科学者たちもいる。特に1960年代から、アリス・スチュアート(注11)をはじめ、疫学調査の結果に基づいて、低線量率・低線量被曝によるガン・白血病リスクを推定した研究者たちは、UNSCEARやICRPなどによる低線量被曝の健康影響の過小評価を厳しく批判し、世界の核被害者の運動や反核運動の高まりを背景に、1980年代にかけて、社会的にも重要な役割を果たした(注12)。INWORKSの調査には、スチュアートらの流れを汲む研究者も参加している。これら世界の良心的な科学者の研究活動と、私たちの運動とが連携し、原子力産業による核被害の強要に歯止めをかけるような国際的動きをどう作っていくのかも今後の課題であろう。
KEY_WORD:NWORKS報告-低線量被曝-健康リスク-明らか_: