[2023_09_13_04]【社説】核のごみ処分場 対馬市長は熟慮し判断を(西日本新聞2023年9月13日)
 
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【社説】核のごみ処分場 対馬市長は熟慮し判断を

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 原発で生じる高レベル放射性廃棄物(核のごみ)の最終処分場選定について、長崎県対馬市が調査に応募するかどうかの方針を近く示す。
 島の将来に影響する決断である。比田勝尚喜市長はできるだけ多くの市民の意見を聞き、熟慮してもらいたい。
 核のごみは生命を脅かす危険な放射線を放出する。その強さが天然ウラン並みに下がるまでに10万年近くかかる。人間の物差しでは未来永劫(えいごう)と言っていい。
 それまでの間、地下300メートルより深い場所に埋めて隔離するのが政府の計画だ。これが最終処分場である。国内にはまだ存在しない。
 対馬市議会は、最終処分場選定の第1段階となる文献調査の受け入れを求める請願を賛成10人、反対8人の賛成多数で採択した。
 提出したのは建設業など複数の団体で、処分場誘致が地域に経済効果をもたらし、国のエネルギー政策に資すると主張した。
 対馬市ではこれまでにも最終処分場誘致の是非が議論になり、市議会は2007年に誘致反対を決議した。
 推進の請願採択に転じたのは、議員の顔触れが変わっただけでなく、加速する人口減少や経済衰退への危機感が強くなったからだろう。
 一方、核のごみの処分方法が「確立されていない」などとして漁業団体や市民団体が提出した反対請願6件は、不採択となった。
 自治体の意思決定機関である議会の判断は重い。とはいえ、賛否は拮抗(きっこう)している。市民の間でも意見は二分されているのではないか。
 比田勝市長は今月27日までの市議会会期中に賛否を表明するという。市民の対立をいたずらに深めることのないよう、性急に結論を出すことは避けるべきだ。
 賛否を明確にしている市民ばかりではない。核のごみの最終処分場について、よく知らない市民もいる。
 幅広い市民が意見を交わす機会をつくることができないか。市内各地で対話を重ね、最後は住民投票で市民の意思を確かめる方法もある。丁寧な議論を経た選択であれば、誰も否定できない。
 核のごみの最終処分場は原発に欠かせない。原発の積極活用に転じた岸田文雄政権は選定を促進したい考えだ。
 実務を担う原子力発電環境整備機構(NUMO)によると、文献調査を受け入れれば最大20億円、第2段階の概要調査に移るとさらに最大70億円が自治体に交付される。
 文献調査は20年から北海道の寿都(すっつ)町と神恵内(かもえない)村で進む。北海道には核のごみは「受け入れ難い」と宣言した条例があり、道知事が反対する中で概要調査に進むのは難しいとみられる。
 れだけに対馬市の動向に多くの自治体が注目し、政府は大きな関心を寄せる。地域に禍根を残さない結論を比田勝市長に求めたい。
 
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