[2023_08_31_20]指標 中国 水産物輸入停止 日本の対中観に甘さ 外交戦略練り直しを 日本総合研究所上席理事 呉軍華氏(東奥日報2023年8月31日)
 
参照元
指標 中国 水産物輸入停止 日本の対中観に甘さ 外交戦略練り直しを 日本総合研究所上席理事 呉軍華氏

 東京電力福島第1原発の処理水の海洋放出開始を受けて、中国が日本産水産物の輸入を全面的に停止し、日本国内で「科学的根拠に基づかない理不尽な措置だ」と批判する声が上がっている。理不尽とは、常識的ではないことを意味する。
 常識はロジックによって形成される。世界には二つのロジックがあるとされる。一つは日本などで一般に通用する論理で、もう一つは中国的な論理だという。
 晋通の常識で判断すれば、今回の中国の措置は非常に理不尽に思えるが、中国的なロジックでみれば、そうとは言い切れない部分がある。
 中国的ロジックの柱は、共産党による政権維持を最大の目的とする政治だ。政治を軸に常識が形成されている。
 輸入停止には三つの狙いがある。一つ目は外交カードとして使うことだ。中国から見ると、日本が米国などとともに、対中包囲網の形成に積極的に関与しているように映っており、懲らしめるためにカードを切った。
 半導体をはじめとした先端技術や台湾を巡る問題で、米国とほぼ歩調を合わせて対中政策を展開している日本をけん制するのも目的だろう。
 二つ目は、景気の減速などを理由に中国国内で広がる不満の「ガス抜き」だ。海外諸国に圧力を加えれば、人々のする不満の矛先をそらす格好の材料となった。
 三つ目は、環境保護を名目に日本を「悪者」に仕立てることである。中国が処理水を「核汚染水」と主張し、その放出を非難することで、世界を守ろうとしているという「善悪の構図」をアピールできる。
 日本がいわゆる対米追随の姿勢を修正し、何らかの譲歩 輸入停止には三つの狙いがある。一つ目は外交力ードとして使うことだ。中国から見ると、日本が米国などとともに、対中包囲網の形成に積極目を国外に向けさせる効果がある。処理水の放出はセンシティブな(機微に触れる)「核」と「日本」という二つの要素を併せ持っているため、鬱積をすれば、状況はいったん収束に向かうかもしれないが、実現性は低い。ロジックの軸が政治である以上、今回の件がたとえ落ち着いたとしても、中国が対日圧力をかけ続ける可能性は高い。
 とはいえ、2012年に日本政府が沖縄県・尖閣諸島を国有化した際、中国全土で激しい反日デモの嵐が吹き荒れたような深刻な事態に今回、発展するとはみていな 処理水放出について、日本政府関係者が「中国が何らかの対抗措置を打ち出すとは思っていたが、輸入停止までやるとは想定外だった」と述べた、との報道が目立つが、その認識自体に問題がある。
 巨大な中国市場の重要性が強調され、インバウンド(訪日客)需要増大への期待が高まっている。こうした中、これまでの中国の強硬な対外姿勢を考えれば、処理水を放出した場合、経済面を中心に激しい対抗措置を講じてくるのは、想定しがたいことではなかったはずだ。
 尖閣国有化時にも「反日デモ発生は想定外だった」との日本側の話を度々聞いた。全く教訓になっておらず、甘いと言わざるを得ない。実態を的確に捉え、改めて対中戦略を練っていく必要があろう。
       (談)

 <ご・ぐんか 1960年、中国浙江省生まれ。東京大大学院博士課程修了。2020年から現職。専門は中国の政治経済、日中関係、米中関係>
KEY_WORD:処理水放出_中国_水産物_全面禁輸_:FUKU1_:汚染水_: