[2023_08_28_13]12都府県に危険密集地 高齢化で建て替え進まず 地震時、倒壊・火災延焼の恐れ 高齢化で建て替え進まず 空き家増加 足かせ 対象自治体に重い財政負担(東奥日報2023年8月28日)
 
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12都府県に危険密集地 高齢化で建て替え進まず 地震時、倒壊・火災延焼の恐れ 高齢化で建て替え進まず 空き家増加 足かせ 対象自治体に重い財政負担

 地震で住宅倒壊や火災延焼に至る危険性が高い「地震時等に著しく危険な密集市街地」が、3月末時点で12都府県の19市区町に1875ヘクタールあることが27日、国土交通省の集計で分かった。国が2012年に初めて公表した5745ヘクタールの3割が未解消のままだ。高齢化で建て替えに踏み切れない住民もいるなど、めどが立たないケースも多い。
 9月1日で発生から100年となる関東大震災では火災が甚大な犠牲をもたらした。「著しく危険」という国の定義に該当しなくても古い住宅の密集地は全国に点在しており、早急な対策が必要だ。
 1875ヘクタールは、東京ド−ム約400個分に相当。都府県別で未解消面積が最も大きいのは大阪の895ヘクタール。神奈川301ヘクタール、京都220ヘクタール、兵庫190ヘクタールが続く。12年に1683ヘクタールだった東京は、税制支援などの効果で83ヘクタールと大きく減少した。本県は該当しない。
 著しく危険な密集市街地は、耐震性・耐火性の低い古い建築物や、消防車が入れない狭い道路が多く、火災の延焼を防ぐのが難しいエリア。国は30年度までに「おおむね解消」の目標を掲げる。
 ただ、共同通信が19市区町に尋ねた結果、具体的な解消時期を答えたのは、26年度の予定とした沖縄県嘉手納町(2ヘクタール)のみだった。他は「国の目標時期を目指しているが解消時期は未定」と回答。徳島県鳴門市と高知市は「30年度までの解消も難しい」と答えた。東京都大田区は「時期は回答しない」としている。
 安全を確保するには、老朽化した建物を解体したり、建て替えの際に道路の面積を広げ避難ルートをつくったりする必要がある。避難の妨げになる塀の除去や、通り抜けられる門や扉を設置することも有効だ。
 しかし高齢者や低所得者にとっては負担が重く、建て替えをためらいがち。特に集合住宅では、住民合意が必要なため難航するケースが相次ぐ。鳴門市の担当者は「密集市街地には空き家も多い。所有者不明の場合も多く、対応の障害となっている」と話す。
 国交省は補助金でサポートするが、自治体からは予算が十分ではなく事業が進まないといった声も上がる。

 空き家増加 足かせ 対象自治体に重い財政負担

 地震時の被害を減らすには、危険な密集市街地の解消が重要だ。自治体は古い住宅の解体に補助金を出し、避難場所を整備するなど取り組みを急ぐが、空き家の増加などで思うように進まない地域も残る。専門家は指定された地域以外にも防災面で問題のある場所は多く、対策が必要だと指摘する。
 JR蕨駅に近い埼玉県川口市の芝地区。消防車の往来や救助の妨げになりそうな道幅2メートル足らずの小道が区画を分ける。空き地には「密集市街地を解消するための用地です」と書かれた市の看板が立ち、建物が建てられないようになっている。同地区は市内でも早い1960年代から、都心へのアクセスの良さで人口が急増。区画整理の対応が追い付かず、小さい家が並ぶ袋小路が点在するようになった。
 市は避難経路を確保するために、古い民家解体に対する補助金を設けている。しかし最近は、空き家が増加し、人がほとんど住んでいないとみられる古いアパートも目立つ。両隣が空き家だという70代男性は「家の前の道が狭く、火事が起きたらすぐに避難できるか不安だ」と顔を曇らせる。
 高齢者が単身で住んでいた空き家は放置されがちで、所有者不明になっているケースもある。「避難場所となる公園の整備や道路拡幅のための用地買収に時間がかかっている」(市の担当者) 自治体の財政負担も軽くはない。18ヘクタールが残る高知市は、対策費用として本年度予算に13億5千万円を計上。住宅を移転する際の補償金や道路工事に充てる。担当者は「国が目指す2030年度までに全て解消するには十分ではない」と頭を悩ませる。
 この10年で取り組みが進んだ自治体もある。12年に1683ヘクタールだった東京都は、22年度末には83ヘクタール(品川区、大田区、北区)まで減少した。都は老朽家屋解体後の土地の固定資産税を軽減。21年開催の東京五輪・パラリンピックを背景に、民間開発が活発だったことも功を奏した。
 太平洋戦争の空襲を受けなかった古い長屋が問題となっていた堺市は、今春に全て解消した。ただ、避難経路の確保などによって「著しく危険な密集市街地」の定義から外れただけで、密集した木造住宅や狭い避難路は一部残ったままだ。
 市役所職員が民家を訪問して密集市街地の危険性や補助金について説明して回ったが、建て替えや土地の売却を渋る住民もいる。担当者は「防災対策に終わりはなく、対応を続ける必要がある」と強調した。
 神戸大の北後明彦名誉教授(防火避難計画)は、国が著しく危険な密集市街地とした地域以外にも、地震や火災の危険性があると指摘。「歴史的な古い民家が多いところは地震での電気火災を防ぐ感震ブレーカーの設置を促すなど、地域の事情に応じた対応を取るベきだ」と話した。

 密集市街地

 老朽化や、耐火性が弱い木造建物が多数集まった市街地。太平洋戦争の空襲を受けず戦前の街並みが残った地区や、高度経済成長期の急激な人口集中の受け皿として整備された郊外の地区が多い。1995年の阪神大震災で倒れた建物が道路をふさぐ被害や火災が相次いだのを教訓に、対策を進める法律が整備された。このうち特に住宅の密度が高く火災時に逃げにくい「地震時等に著しく危険な密集市街地」について、国は当初2020年度までの解消を目指していたが達成できず、目標時期を30年度までに再設定した。
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