[2023_08_26_10]<ぎろんの森>全責任持つという無責任(東京新聞2023年8月26日)
 
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<ぎろんの森>全責任持つという無責任

 2023年8月26日 08時16分
 東京電力福島第一原発事故でたまった汚染水を浄化処理した「処理水」の海洋放出が始まりました。漁業関係者は水産物の「風評被害」を懸念して放出に依然、反対していますが、岸田文雄首相が「漁業が継続できるよう、全責任を持って対応する」として押し切った形です。
 東京新聞は二十三日の社説「処理水放出 『全責任』を持てるのか」で「順調に進んでも三十年に及ぶ大事業。誰が、どう責任を取り続けるというのだろうか」と指摘し、放出強行を批判しました。
 そもそも政府と東電は八年前、福島県漁業協同組合連合会との間で「関係者の理解なしには、いかなる処分も行わない」と約束しています。
 本紙には「廃炉に向け前進した一面もある。各国と比べても低い濃度での放出をそこまで騒ぐ必要があるのか」と放出への賛意の一方「『関係者の理解なく処分しない』という約束を守れないのに『風評被害が起きた際には適切に賠償を行っていく』という約束が守られるわけがない」との厳しい意見が届きます。
 基準値以下とはいえ取り除けない放射性物質トリチウムが残るため、人体への影響を懸念する声も相次ぎます。
 首相は全責任を持つと言いましたが、内閣支持率は低迷し、来年の自民党総裁選後も岸田政権が続くとは限りません。持てない責任を持つというのは無責任極まりない。
 国として全責任を負うというなら、政府内の正式手続きはもちろん、国権の最高機関である国会で徹底的、多角的に議論し、大方の理解を得ることが大前提のはずです。
 まずは野党が求める閉会中審査を速やかに行うか、臨時国会を早期召集すべきです。
 岸田首相は敵基地攻撃能力の保有や防衛予算「倍増」、殺傷能力のある武器輸出解禁など安全保障政策の大転換を国会での十分な議論と承認を経ず政府の一存で進めてきました。原発の新増設や運転期間延長などの原発回帰、今回の処理水放出も同様です。
 放出の是非はもちろん、問われるべきは岸田政権の政治姿勢そのものです。
 (と)
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