[2023_08_23_16]東電福島第一原発の汚染水海洋放出決定に断固として抗議する 原発事故により発生した放射性物質を海に捨てる行為は世界でも例がない 2023年8月23日 たんぽぽ舎(たんぽぽ2023年8月23日)
 
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東電福島第一原発の汚染水海洋放出決定に断固として抗議する 原発事故により発生した放射性物質を海に捨てる行為は世界でも例がない 2023年8月23日 たんぽぽ舎

           声  明

 8月22日、岸田文雄首相は関係閣僚会議を開き、8月24日に東電福島第一原発から汚染水の海洋放出を開始することを決定した。
 このような行為に対して断固抗議し、直ちに撤回することを求める。

一.汚染水海洋放出に正当性はない

 2021年4月13日、菅首相は2年後を目処に汚染水の海洋放出開始を閣議決定した。
 地元の人々をはじめ、国際社会にも衝撃を与え、特に中国、韓国などの近隣諸国や太平洋諸国フォーラムからは次々に抗議や再考を求める意見書が届いた。
 日本政府はそれに対し、木で鼻を括った対応を繰り返し、海洋放出を強行する姿勢をとり続け、とうとう昨日、具体的な期日を設定してしまった。
 この行為は、国際的な取り決め、国連海洋法条約や、汚染物質の海洋投棄を禁じたロンドン条約にも反しており、日本が過去にロシアが軍事施設から日本海に投棄しようとした放射性廃棄物について断固抗議して中止させた経緯から見ても、極めて不当なことである。

二.前提となる「根拠」の「ロードマップ」は破綻している

 汚染水の海洋放出という処理方法が、いつからいつまで続くのかについては、まともな発表も報道もない。
 東電の計画書には「30年程度をかけて」徐々に放出するとしているだけだ。
 これは廃炉対策推進本部が定めた「ロードマップ」(*)(工程表のこと。現在は2013年6月27日付改訂第2版が最新)に記載されている廃炉期間に沿っているだけのことである。何ら根拠のあるものではない。汚染水が今後全く増えなければ早期に終わらせることもできるだろう。
 しかし毎日何百トンもの汚染水が発生するようならば終わらないこともあり得る。

 排出設備は設計上毎日500トンの汚染水を放出可能としているが、実際に運用する量については明確になっていない。
 増え続ける汚染水の量や、二次、三次処理のペース、海洋モニタリングの結果と、変数が多すぎて想定困難というところだ。
 ロードマップでは、廃炉作業の終了を概ね2053年11月としており、期限が切られている。
 よくいわれる「廃炉に掛かる期間は30年から40年」との幅のある期限の示し方も、末尾から逆算して年々減っていることを誤魔化しているにすぎない。
 東電によると廃炉作業が終了するときまでに排水も終わっていることが前提となるため、汚染水処理も2053年3月末が期限であるとしている。そこから逆算すると2023年11月末は30年前だ。
 とうとう今年秋には30年から40年の範囲を逸脱する。この点について国も東電も全く説明していないし、マスコミも指摘しない。
 誰もが「できるわけないが」と思いつつ「触れない」ロードマップの奇怪さ。
 しかし汚染水対策を「早く早く」としている根拠らしきものは「ロードマップ」の日程表から逆算した残り時間のみだから、始末に負えない愚かさの象徴として指摘しておく。

*原子力災害対策本部において、「東京電力福島第一原子力発電所廃炉対策推進会議」が設置され、政府、東電、関係機関の参加で現場の作業と研究開発の進捗管理を一体的に進めていくこととされ、この会議において策定された。(経産省資料より)

三.「告示濃度比総和1未満」の水「ALPS処理水」も汚染水だ

 汚染水を海洋放出することにした国と東電は、放出することができる水を考え出した。それが「告示濃度比総和1未満」という定義である。
 「告示濃度」とは原子力規制委員会が告示した放射性物質の濃度限度を定めた規則のこと。その別表第二に「放射性物質の種類が明らかで、かつ、一種類である場合の放射線業務従事者の呼吸する空気中の放射性物質の濃度限度等」の第六欄に「廃液中又は排水中の濃度限度」として定められている。
 この濃度の放射性物質を毎日、その濃度の水として約2リットルずつ飲み続けた場合、1年間で1ミリシーベルトの被ばくとなる濃度として規定された。
 例えば、セシウム137の場合、1リットル当たり90ベクレルとされている。
 放射性物質が混じり合う場合は、それぞれが告示濃度比でいくつになるかを計算し、その合計を総和とする。それが1未満であれば告示濃度を満たすと考える。

 ALPS処理水の場合は、セシウムやストロンチウムをフルターで除去して減らし、その告示濃度比総和が1未満に下がったものを指す。
 この段階ではALPSでは取り除けないトリチウムが大量に含まれているが、この告示濃度は1リットル当たり6万ベクレルである。
 トリチウムは1リットル当たり1500ベクレルになるように希釈するので、この段階で告示濃度限度の40分の1になる。

 その希釈率が100倍であった場合、予めALPSで再処理した段階で他の放射性物質については1以下になっているから、それを100分の1に希釈することになるので全体の告示濃度比総和1未満は達成可能であるというわけだ。
 個別の濃度をいちいち測って放出するわけではない。
 これを称して「ALPS処理水」なのだが、告示濃度比総和1未満の水は、東電によると全体の三割しかないのである。

四.あらためて海洋放出の中止を求める

 原発事故により発生した放射性物質を海に捨てる行為は、世界でも例がない。
 1979年3月に発生した米国スリーマイル島原発事故では、メルトダウンした後の圧力容器内や周辺に漏出した汚染水については、サスケハナ川に捨てることはなく、廃棄物処理設備に移送して処分している。

 旧ソ連チェルノブイリ原発事故でも当初の消火段階ではプリピャチ川に汚染水は流れ込んだが、その後は汚染水を川に放出することはなかった。
 東電は12年以上経過した今でも汚染水の発生を止めることができず、大量のタンクに溜め続けるしかない事態を招いた。
 それでも不安定な敷地内に大量のタンク群を作るのではなく、大型の地下式貯水装置(タンク)を敷地の外または第二原発敷地を活用して作る、あるいはモルタル固化を行うなどの方法で、海洋放出を止めることは可能である。コストもさほどかからない。
 今からでも、こうした対策を講じて、海洋放出を止めるように要請する。
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