[2023_08_26_08]中国強硬策 和食に逆風 処理水放出 水産物禁輸 暗転する日中 主張衝突(東奥日報2023年8月26日)
 
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中国強硬策 和食に逆風 処理水放出 水産物禁輸 暗転する日中 主張衝突

 日本食品の最大の輸出先である中国で、ブームに沸いた和食に強い逆風が吹き始めた。東京電力福島第1原発処理水の海洋放出を理由に、当局は水産物輸入全面停止を含む強硬な対抗策を発動。中国の日本料理店や貿易業者、日本の自治体関係者らには動揺や不安が広がる。海洋放出と輸入規制を巡り、双方の主張は真っ向から衝突。首脳会談を調整してきた両国の関係は一気に暗転した。

 「全て駄目になった。北海道や長崎県産も手に入らなくなる。他国から輸入せざるを得ない」。水産物禁輸の対象を10都県から日本全国に拡大した中国税関総署の発表から一夜明けた25日朝、取引が始まった北京の「京深海鮮市場」で、鮮魚店「一網鮮」の担当者は失望をあらわにした。
 日本の鮮魚を扱う技術と安定した調達を高く評価し、長崎県産の養殖マグロを中心に仕入れてきた。代替先はオーストラリア、ニュージーランド、スペインなどだが「昧と食感は全く別物。代わりにならない」と途方に暮れる。
 海洋放出開始直後に中国が発動した輸入全面停止措置に、日本政府関係者は「念頭にあったが、衝撃を受けた」と語る。中国は25日、日本産水産物の販売禁止にまで踏み込み、情報収集に追われる。中国を有力市場としてきた日本の自治体も同様で、長崎県上海事務所の佐々木端士所長は「水産物は長崎のキラーコンテンツ。輸入停止は打撃だ」と残念そうに話す。
 日本から中国への農林水産物・食品輸出は右肩上がりに増えてきた。2022年は2782億円と13年の5倍以上に拡大。国別で首位だった。水産物は全体の3割を占める。中国メディアによると中国本土の日本料理店は8万店に上り、富裕層や中間層がこぞって足を運んできた。
 水を差したのが海洋放出を巡る中国のメディア報道。和食のイメージ低下は深刻だ。国営中央テレビは連日「核汚染水の漁業への影響は計り知れない」と繰り返し、市民に恐怖心を植え付けた。
 中国の交流サイト(SNS)には、処理水が世界に広がり放射性物質が魚などに取り込まれて濃縮され、人体に悪影響を及ぼすと訴える複数の動画が投稿されている。日本酒や調味料を取り扱う北京の日本食材店「善酒良食」の女性従業員も「誰も和食を食べなくなるのではないか」と悲壮感をにじませた。
 「完全に必要だ」。呉江浩駐日大使は24日、外務省の岡野正敬事務次官が電話会談で輸入停止の早期撤廃を申し入れたのに対し、禁輸措置を正当化して激しく反論した。
 10月23日に日中平和友好条約発効から45年の節目を迎える日中両国。9月のインドネシアでの東南アジア諸国連合(ASEAN)関連首脳会議に合わせ、岸田文雄首相と李強首相の会談の調整を進めてきた。ただ日本の処理水放出と中国の輸入停止の「影響は避けられない。首脳同士が対話できる環境は整っていない」(日中関係筋)。
 処理水を巡り日本は「中国が科学的根拠に基づかない主張を繰り返している」と批判する。中国は「30年にわたり放射性物質を排出する危険性への懸念を日本は払拭できていない」と反発する。
 互いに一歩も譲ろうとせず、日中外交筋は「関係安定化に向けた道筋は全く見えていない」とこぼす。
  (北京、上海共同)
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