[2023_08_26_01](社説)中国の禁輸 筋が通らぬ威圧やめよ(朝日新聞2023年8月26日)
 
参照元
(社説)中国の禁輸 筋が通らぬ威圧やめよ

 2023年8月26日 5時00分
 巨大市場を武器に、貿易で他国に圧力をかける「経済的威圧」にも等しいふるまいだ。合理性を著しく欠いた措置に、強く抗議する。
 東京電力福島第一原発の処理水放出に合わせ、中国政府が日本からの水産物輸入を全面的に止めると発表した。中国外務省は「海洋環境と食品の安全、人々の健康を断固守る」という。
 だが、科学に基づいた協議の呼びかけに応じてこなかったのは中国の方だ。健康や安全をめぐる正確な情報を欲する中国の消費者に対しても、誠実な態度とはいえまい。
 北太平洋など日本と中国の漁船が競合する海域もある。日本の水産品すべてが輸入禁止ならば、そこで中国漁船が捕った魚などの取引も全面的に禁止しなければ、筋は通らない。
 中国の居丈高な対応には多くの前例がある。3年前には豪州の首相が新型コロナウイルスの発生源の調査を求めたことに中国が反発。豪州産ワインなどに高関税をかけ、取引量を激減させた。
 こうした経済的威圧は中国をめぐる経済安保面のリスクとして、先のG7サミットの議題にもなった。中国外務省は「日本政府は国際社会の強い疑念と反対を無視している」と非難するが、むしろ自国の信用が傷つく行為と認識すべきだ。
 事故が起きた原発の処理水を海洋放出するのは、たしかに前例のない試みであり、外国政府が懸念を抱くのは当然だ。原発事故を起こした国として、厳格な監視と情報開示を尽くす重責を負うのはいうまでもない。
 だからこそ、日本は国際原子力機関(IAEA)と協力して処理水対応を進めてきた。他国の理解も徐々に広がっていた。今なお強硬姿勢をとる中国こそ国際社会で突出している。
 とはいえ中国政府が早期に矛を収めるとは考えにくく、妥協点を見いだすのは容易ではないだろう。禁輸が長期に及ぶことを覚悟する必要がある。
 昨年の日本から中国への水産物輸出額は871億円で、半分以上をホタテが占めた。先に10都県からの輸入を禁じた香港向けも合わせ、日本の水産物輸出全体の4割に相当する。
 影響を受ける日本の水産業に対して十分に支援する必要があろう。水産物の国内消費を促進し、欧米を含む新たな販路開拓で、中国市場への依存を改めていく努力も求められる。
 9月には東南アジア諸国連合(ASEAN)関連会議やG20サミットが開かれ、日中首脳が顔を合わせる機会がある。日本政府としては中国への対話の呼びかけを、なおねばり強く続けてほしい。
KEY_WORD:処理水放出_中国_水産物_全面禁輸_:汚染水_:FUKU1_: