[2023_08_24_08]悲願の処理水海洋放出 なのに東電が抱えるジレンマ(毎日新聞2023年8月24日)
 
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悲願の処理水海洋放出 なのに東電が抱えるジレンマ

 2023/8/24 13:07
 政府と東京電力は24日、東電福島第1原発事故の処理水の海洋放出を始めた。東電は「福島への責任の貫徹」を最大の使命に掲げており、廃炉作業の前進につながる海洋放出は悲願だ。一方で漁業に関する風評被害が生じれば、東電が負担する賠償費用は膨らむという側面もある。処理水の放出は東電経営にどう影響を及ぼすのだろうか。

 処理水、廃炉作業の支障に

 東電が処理水の海洋放出を急ぐのは、今後本格化する廃炉作業に必要な敷地を確保するためだ。
 原発敷地内では今も高濃度の放射性物質を含む汚染水が増え続けている。汚染水は、多核種除去設備「ALPS(アルプス)」などで処理し、ほとんどの放射性物質の濃度を国の基準値未満に下げ、処理水とする。東電の計画ではアルプスで取り除けないトリチウムを国の基準の40分の1未満になるように海水で薄め、沖合約1キロへ放出する。
 処理水などが入ったタンクは8月3日現在、原発敷地内で1000基を超え、貯蔵可能量の計約137万トンの約98%が埋まっている。タンクは2024年2〜6月ごろに満杯になる見込みだ。
 原発敷地内に余地は少なく、タンクを減らさなければ廃炉作業に必要な設備をつくることはできない。

 風評対策は政府、被害の賠償は東電

 国際原子力機関(IAEA)は7月、包括報告書で「国際的な基準に合致する」と海洋放出に「お墨付き」を与えた。だが、海洋放出に反発する中国政府は8月24日、日本からの水産物の輸入を全面的に禁止。福島をはじめとする漁業関係者らが懸念する風評被害は現実問題となっている。
 東電ホールディングスの小早川智明社長は海洋放出の開始日が決まった22日、首相官邸で記者団に「何よりも風評対策。もし対策にもかかわらず、損害が生じた場合には速やかに適切に賠償を行っていく」と述べた。
 風評被害の抑止対策の前面に立つのは政府だ。政府は販路拡大を支援したり、売れなかった水産物を冷凍保管する経費を補助したりするための300億円の基金を創設。さらに放出後の漁業継続支援として500億円の基金を設けた。
 一方、実際に風評による損害が生じた漁業者らに賠償するのは東電だ。
 東電は22年12月、海洋放出による賠償基準の「考え方」を公表した。風評被害があったと判断した場合は、放出前から事業を営む事業者を対象に、価格下落で生じた逸失利益などを賠償する方針だ。

 賠償額は過去の価格などを元に算出するが、具体的な方法は決まっていない。算出手法によっては、新型コロナ禍で価格下落に見舞われていた時期が含まれる可能性があり、漁業者からは「落ち込んだ時期を基準にされたらやっていけない」との懸念も出ている。
 海洋放出で東電の賠償が「どれだけ膨らむかは未知数」(幹部)。中国の態度や消費者の購買行動がカギとなるだけに見通しにくい状況が続く。(後略)
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