[2023_07_29_07]オスプレイ墜落は構造的欠陥ではないのか…米軍の調査報告書を読んでみて分かったこと(東京新聞2023年7月29日)
 
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オスプレイ墜落は構造的欠陥ではないのか…米軍の調査報告書を読んでみて分かったこと

 米海兵隊が公表した、昨年6月に起きた輸送機MV22オスプレイ墜落事故の調査報告書。クラッチの不具合がシステムを損傷させたオスプレイ特有の現象で、同様のトラブルが過去に15件起きていたことも明らかになった。米側は部品交換などで対策をとったとするが、根本的な原因はなお不明。基地周辺で「構造的欠陥」への不安が高まる中、注目の報告書を読んでみた。(西田直晃、大杉はるか)

 ◆原因は「ハード・クラッチ・エンゲージメント」

 昨年6月の事故は、米カリフォルニア州南部の人里離れた砂漠で起きた。訓練飛行中の米海兵隊の垂直離着陸輸送機MV22オスプレイが墜落し、搭乗員5人全員が死亡した。
 米軍は事故の詳細を説明していなかったが、今月21日に調査報告書を初めて公表した。「操縦者や搭乗員に過失はない」と人為的ミスの可能性を否定し、機体に問題があったと結論付けた。
 昨夏の時点で、エンジンとプロペラをつなぐ「クラッチの不具合」は指摘されていた。これについて報告書は、「ハード・クラッチ・エンゲージメント」(HCE)という現象が原因と断定。クラッチが一時的に離れ、再び結合する際に衝撃が発生するオスプレイ特有の出来事だ。
 オスプレイは、左右のプロペラにそれぞれエンジンが付いており、片方が故障しても、もう片方のエンジンだけで両方のプロペラを回せる。「インターコネクト・ドライブ・システム」(ICDS)と呼ばれ、飛行の安全を確保する仕組みだ。だが報告書は、HCEが起きたことで、片方のエンジンとICDSに損傷が生じ、推力が失われて墜落したとした。
 英軍事情報誌の東京特派員で国際ジャーナリストの高橋浩祐氏は「事故原因のHCEは、エンジンの一つをプロペラに接続するギアボックス内のクラッチが滑り、その後またつながり、機体が傾くときに起きる」と話す。「今回は、オスプレイの右側のプロペラが機体に推力を与えられなくなり、調査報告書が示すような『コントロールされた飛行からの回復不可能な逸脱』を招いてしまった」

 ◆2010年以降15件…根本原因は「不明」

 報告書によると、HCEは800時間以上の飛行を経験した機体で起きる傾向があり、2010年3月以降の事故で計15件が該当。ただ、根本的な原因は「不明」としている。
 その一方で、一定の飛行時間を超えた機体のクラッチ関連の部品を交換することで、HCEが起きる可能性を「99%削減する」としている。
 「こちら特報部」は米海兵隊第1海兵航空団に、過去の事例や故障のメカニズムなどを尋ねたが、期限までに回答はなかった。
 高橋氏は「車も同じだが、クラッチは負担が掛かったり、劣化が激しかったりすると、利きがかなり悪くなる。とはいえ、今回の調査報告書からは、完全に構造的欠陥が存在することが明らかになってしまった」と強調する。
 「そもそも、オスプレイは高い価格の割に輸送能力が低く、構造から操縦も難しく、日本以外の諸外国は敬遠している。行き過ぎた対米追従のため、コストパフォーマンスが悪く、欠陥があると分かりながらも使用せざるを得ない。米国に断固とした調査を求めることもできない。本当におかしな話だ」

 ◆陸自のオスプレイは飛行停止中

 米海兵隊の報告書公表を受け、防衛省は22日以降、陸上自衛隊のV22オスプレイの飛行を停止した。森下泰臣陸上幕僚長は27日の会見で「報告書上の対策が、陸自機に適用されているか確認するために見合わせた」と説明。再開時期などは不明だが、「安全に万全を期して解除したい」と話した。
 陸自は南西諸島で武力衝突などが起きた際に離島防衛部隊を送り込む想定で、オスプレイを保有。佐賀空港への配備が地元の反対で遅れ、20年から千葉県の木更津駐屯地に14機が暫定配備されている。
 木更津市の市民団体「オスプレイ来るな いらない住民の会」の前事務局長・野中晃さんは、米海兵隊が事故原因を「壊滅的かつ予期せぬ機械の故障」としたことに注目する。「今までの事故はヒューマンエラーが強調されたが、今回そうではないと明確に分かった。危機感が強くなった。陸自オスプレイで同じ事故が起きたら、どうするのか問いたい」
 米海兵隊は、一定の飛行時間を超えたオスプレイの部品を交換をすれば、事故が「大幅に減少する」としている。だが、調査報告書を分析する神奈川県平和委員会の菅沼幹夫さんは「製造元企業に部品の再設計と実用化を依頼しているが、完成していないだろう。従来品の新品と交換するだけでは、また同じ事故が起こりうる」と指摘する。
 「オスプレイの片方のエンジンが止まっても大丈夫だと言われてきたが、今回、一方から一方に動力を送るシステムが壊れ、その説明も成り立たなくなった。根本原因が特定されない限り、対処のしようがないだろう」
 日本では陸自のほか、米海兵隊と米空軍でも、機体の仕組みがほぼ同じオスプレイが飛んでいる。昨年8月には米空軍が、今回と似た事故が多発しているとして飛行を停止し、陸自も一時的に止めた。だが、米軍が根本原因の究明を先送りして飛行を再開すると、陸自も再開した。

 ◆沖縄でも横田でも、米軍機は飛び続けている

 今回新たな事故原因が判明したが、普天間飛行場(宜野湾市)のMV22も、横田基地(福生市など)のCV22も飛行を続けている。宜野湾市基地渉外課の宮城竜次課長は「住宅密集地の頭上を飛ぶことから常に危険性は懸念していて、今回も原因ははっきり分かっていない。報告書を精査したい」と話す。
 「横田基地の撤去を求める西多摩の会」の寉田一忠事務局長は「まともな航空機ならいったん止めて、造り直すまで使わないと宣言するのに、軍隊ではあり得ないことが起きている。根本原因が分かるまで飛ばさないでほしい」と強調する。
 だが浜田靖一防衛相は28日、「米側から、部品交換の措置を実施しており、オスプレイの安全を十分確保していることから飛行停止の必要はない旨の説明を受けている。飛行停止を求めることまで考えていない」と語った。
 報告書が公表される直前の6月、防衛省は佐賀駐屯地の造成工事を、住民が反対する中で始めた。25年6月までに完成させ、木更津駐屯地のオスプレイを移す予定だ。米海兵隊のオスプレイについては今月10日、最低飛行高度が航空法の150メートルから60メートルに下げられ、さらに事故の懸念が増している。
 沖縄国際大の前泊博盛教授(日米安保論)は「日本政府はオスプレイの欠陥をなくすことを求め、飛行もだめだと米側に言うのが当然だが、対応が見えない」と指摘し、こう続ける。
 「米軍基地内の問題にも口出しできず、オスプレイの飛行ルート変更すらできていない。国民より米国の言うことを聞くのではなく、国民を守るための安全保障を主張できる政治家が生まれない限り、日本は属国のままだ」

 ◆デスクメモ

 例えば、自分が乗っているのと同じ種類の車で、大きな事故が起きたとする。整備士にも運転手にもミスはなく、動力系の故障のせいだと発表された。根本的な原因は分からないが、部品を交換し、訓練をすれば大丈夫―。そんな説明に納得が行くユーザーが、どれだけいるだろうか。(本)
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