[2023_07_16_01]日本が輸入に頼るウラン、その鉱石が転がる「聖地」とは ウサギが消え薬草は色あせ… 先住民「苦しみ気付いて」(東京新聞2023年7月16日)
 
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日本が輸入に頼るウラン、その鉱石が転がる「聖地」とは ウサギが消え薬草は色あせ… 先住民「苦しみ気付いて」

 <原発回帰第2部 ウランの生産地から>
 「これがウラン鉱石だ」。米西部ユタ州南東部、先住民の聖地として保護区域に指定されているベアーズ・イヤーズ国定公園内の山あいで、ユート族のマイケル・バッドバック(55)は斜面に転がる黄色い岩石を指さした。「数十年前のウラン鉱山が、放置されているんだ」。計測器が示す空間放射線量は毎時1.63マイクロシーベルトを指し、日本政府が除染の目安とする1時間当たり0.23マイクロシーベルトを大幅に超えていた。

 ◆核兵器開発支えた地域 鉱山跡地はほとんど放置

 ベアーズ・イヤーズは、ウランが豊富な地域として知られるユタ、コロラド、ニューメキシコ、アリゾナの4州の州境「フォー・コーナーズ」に近く、第2次世界大戦後の核兵器開発を支えた。米紙ワシントンポストによると、2017年時点で付近に残された古い鉱山の跡地は500以上で、ほとんどは浄化の措置がされずに放置されたままだ。
 トランプ前大統領が同年に国定公園の範囲を大幅に縮小したため、18年に新たな鉱山が掘られたものの休止し、そのまま残されている例もある。
 かつてベアーズ・イヤーズの周辺で暮らしていたユート族など先住民は、鉱山開発とともに生活を脅かされた。現在は採掘は下火になったが、1980年には、バッドバックの自宅があるユート族の居住地ホワイト・メサから8キロほど北に、鉱石などからウランを抽出する工場が稼働。「風向きによって、自宅にも異臭が漂うことがある」と語る。

 ◆「高齢者が病気に」 がん患者多いとの指摘も

 子どものころからウサギを狩り、薬草としてセージブラシなどを摘む伝統的な暮らしを営んできたバッドバック。しかし「ウサギは見かけなくなったし、緑色のセージブラシは色あせてきた」。環境への影響を肌で感じるとともに「病気になる高齢者もいる」と健康被害も懸念する。
 コロラド州にまたがるユート族の居住地区で環境問題を扱う責任者スコット・クロウ(53)も、がん患者が多いことは把握している。しかし、ウラン産業との因果関係を裏付ける科学的なデータがないため、大気汚染や水質汚染も含め、さまざまな調査を始めている。
 カメラを設置して生態系への影響も調査を開始した。放置された鉱山や廃棄物を通じたウサギやシカなどへの影響を懸念するとともに「特にホワイト・メサの工場周辺でセージブラシが枯れかかっている」と説明。「ユート族は狩猟採集民族なので、野生動物や植物がなくなれば、文化を奪うことになる」。米国のウラン関連の施設は先住民の居住地に集中しており、アリゾナ州のナバホ族にも同じ問題が起きているという。
 米国は気候変動対策として原子力発電に回帰するが、「言いはやす人は、ウラン採掘で深刻な影響を受けている場所に住んでいない」と強調。「『環境正義』が抱える大きな問題点だ」と指摘した。
 日本は調査研究用のウラン鉱山はあったものの、すべて輸入に頼る。クロウは「原子力の恩恵を受ける人たちは、アフリカの鉱山であれどこであれ、ウランの産地が抱える問題を考えるべきだ」と指摘。バッドバックは「日本の人々が、私たちがここで苦しんでいることに気付いてくれることを願う」と語った。(アメリカ総局・吉田通夫)=文中敬称略    
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 原発に回帰する日本。使用済み核燃料の処分などの事後処理「バックエンド」の課題は広く知られるが、そもそも核燃料の原料となるウランの生産地が抱える問題点はあまり知られていない。米国のウラン生産地で、人々の苦悩を聞いた。
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