[2023_07_15_01]海洋放出へ「要望があれば漁業者に会いに行く」と当事者の東電社長 1年前に言っていたことは(東京新聞2023年7月15日)
 
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海洋放出へ「要望があれば漁業者に会いに行く」と当事者の東電社長 1年前に言っていたことは

 東京電力福島第一原発(福島県大熊町、双葉町)の汚染水を浄化処理した後の水の海洋放出が迫る中、事故を起こした東電は放出開始の判断を政府に委ね、主体性を見せない。小早川智明社長は、放出反対を続ける漁業関係者に直接会って説明することはなく、14日の記者会見でも「(漁業者側から)要望があれば会いに行く」と受け身の姿勢に終始した。(小野沢健太、渡辺聖子)

 ◆理由を問われ「政府と一体で取り組んでいる」

 14日午後、小早川氏は東京都千代田区の電気事業連合会で会見した。本紙が、漁業者に説明に行かない理由を問うと、紅潮した表情で「政府と一体になって取り組んでおり、安全な設備を作るのがわれわれの直接的な役割。政府が関係者に説明に行くときは、(東電の)役員や職員が必ず同席している」と強調した。
 その上で「しっかりと状況が整ってから『社長と議論したい』という要望があれば会いに行く。一方的に持ちかけるものではない」と自ら進んで動く姿勢は示さなかった。
 本紙が昨年3月11日の事故11年の日に同様の質問をした際、小早川氏は「説明を聞いてもらえる状態ではない」と答えた。放出に向けた準備が整った今も、関係者に向き合おうとしない姿勢は変わらない。

 東京電力福島第一原発の処理水の海洋放出

 1〜3号機内の溶け落ちた核燃料(デブリ)の冷却作業で発生する汚染水を「多核種除去設備(ALPS)」で浄化処理した水に大量の海水を混ぜ、沖合約1キロの海底から放出する。東電はデブリ取り出しに向けた設備などを建設するため、タンクを解体して減らす必要があると説明する。放出完了に30年ほどかかる見通し。

 ◆漁業者が反対した場には社員も不在

 政府は2013年、東電が汚染水漏えいなどのトラブルを続発させたことを受け、関係閣僚会議を設置し、汚染水対策を主導するようになった。以降、東電は重要な判断を政府任せにしている。
 一方、放出を判断する政府と漁業者の溝は埋まらない。西村康稔経済産業相は14日、中央区内の全国漁業協同組合連合会を訪れて理解を求めたが、坂本雅信会長は「反対の立場は変わっていない」と述べた。経産省によると、この場に東電の社員はいなかった。
 意見交換は冒頭を除き非公開。西村氏は、放出計画が国際基準に合致しているとまとめた国際原子力機関(IAEA)の包括報告書の内容を説明したという。
 終了後の取材に応じた坂本会長は「(処理水の)安全性について一定程度、理解できた」と述べ、「科学的安全と社会的安心は違う。漁業を安心して継続していくことが唯一の望み。安心を得ることができない限り、反対の立場を崩すわけにいかない」と強調した。
 西村氏は報道各社の取材に「引き続き丁寧な説明を重ね、信頼関係を深めていきたい」と述べるだけだった。
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